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ゴースト・ハンターズ  作者: (仮説)
二章 ゴースト・インベーダー
34/48

14.牢獄結界

 

 ◎


「――まぁ、黒い霊力の攻撃を同じく黒い霊力で抑えられない道理はないよな」


 まだ俺の霊的エネルギーの方が濃度が高かったから、後手に回っても相殺しきることができた。

 ――皇戯天廻は生み出した制御不能の黒の霊的エネルギーの所有権を放棄し、大爆発を巻き起こした。今度こそ寺院の敷地はは跡形もなく吹っ飛んだ。

 石畳も粉砕し尽くし、柔らかな土が舞い上がって溜まっているので実に歩きにくそうである。まぁ、そんなこんなで俺は爆発を耐えていた。

 背後に視線を遣れば、へたり込んだ雪代が忙しなく肩で息をしている。最後の霊的エネルギーでガードしたためスタミナが尽きたのだろう。結局、エネルギーは足らなかった。だから、俺が守った。


「霊的エネルギーの操作も今のところは黒色には適用されないみたいだな」

「何冷静に分析してるのよ…………死に掛けた、って言うのに…………」

「いいや? 逆になんでそんなに気を緩ませてるのかの方がおかしいとまでは思う。油断できないさ」

「……………………生きてるの? まだ?」


 信じられない、と言わんばかりに雪代が問うてくる。

 まだ――か。いや、その通りだ。まだ生きてる可能性がある。

 どうやら既に雪代がボコスカ殴っているらしい。肉体的にも、エネルギー的にも限界のはずだ。

 だが――。

 その接続詞が消えてくれない。一度目の抗争も勝利を収めた、だが、逃げられた。皇戯自体が逆接みたいなものじゃないか。


「あの爆発に耐えられるだけの霊力が残ってたの?」

「咄嗟に爆発に指向性を与えることくらいはやってのけそうだとは思わないか?」

「…………思う」


 つまりはそういうことだ。皇戯ならば最高の可能性を摘み取ってくる。俺では、それを食い止めることはできない。

 だが、それを前提に置いて、他の人の協力を得れば今度こそ終わらせられる。

 スマホを取り出し、メッセージを一つ送る。


「何してんの?」

「舞台を準備してもらってる。皇戯天廻は今ここで捻じ伏せる。だから、安心して待ってろ」

「…………うん」


 何が琴線に触れたのか、雪代は頬を緩ませて頷いた。そんな思わせ振りなことを言ったつもりはないんだが。やはり、わからんな。

 雪代は足を引きずるようにこの場を離れていく。しばらくすれば逆宮と合流できるはずだ。


「――これで俺はこっちに集中できる。そうだろ、皇戯」

「あの爆発に直撃して無傷とか…………化物にも程があるでしょ…………」


 流石の皇戯も戦慄を隠しきれない様子だ。俺自身もどれだけの霊的エネルギーを保有しているか理解できていない。漠然と言えるのは、あの爆発が数十回起きても耐えられることだけ。

 対して、皇戯の方はさらに傷を増す。余波だけで致命傷となり得る。


「――それでも何とかしてしまうんだろうな。皇戯よ、ここから君は逃げようとしているだろう? 埋めようもない実力差、満身創痍の肉体。俺は思う訳だ、こうして俺の目の前に現れて好戦的な印象を植え付けている、ってな」

「周りはゴースト・ハンターズに囲まれているのに?」

「誤魔化し方なんていくらでもある。まぁ、この予想が当たってなくても良いんだがな。準備は整っている、バレずにここまで進めることができた時点でな」


 指を鳴らせば、俺と皇戯が立つ地面に青色の陣が浮かび上がった。歯車のような紋章が描かれた魔法陣――否、結界である。

 陣を底面とした円柱が空に伸び、俺達を閉じ込めた。

 詰まらなさそうに皇戯は結界を見上げる。一見、焦りも緊張の色もない。


「いつの間に準備を……………………これが棺桶、って訳?」

「言えて妙だな。耐えられずに屍になっても構わない――この結界の効能からすればな」

「――…………これは!? 拘束の結界? いや、それだけじゃない…………」


 気づいた時には両手両足に拘束具が巻き付いている。

 心なしか身体が重い気もする。

 そして、その二つに対して五感が違和を正しく受け取ってくれない。

 以上の権能が結界の結界中にいる人間に全てに適用される。


「三つの性質を持つ結界…………? 能力は一人一つのはず……………………つまりは複数人で作ったものなんだろうけど、ここまで色合いの違う能力で拒絶反応なしに作れるの?」

「世の中は広いもんだ――差し詰め〈隠蔽減衰封印結界〉ってところだな」

「長い」

「じゃあ、〈牢獄結界〉とでも呼ぼうか?」

「そっちの方が良いわね、スマートだもの」

「別に名前はどうでも良いがな」


 鋭利の隠蔽、怜悧の加重、乖離の拘束――加えて、単純に三人分の霊的エネルギーで作られているためかなりの強度になっている。俺がある程度力を発揮しても問題なく効果は発動しているだろう。とはいえ、維持にそれなりの霊的エネルギーを消費している、早々に終わらせたい。

 思考の間にも俺を拘束しようとする手錠を破壊する。

 俺は皇戯に目掛けて走り出した。〈霊纏〉することで重みと拘束の制約を引き裂き、飛び蹴ろうと跳躍――。


 彼女は防御行動を捨てていた。拘束さえ放置し、掌に霊的エネルギーを圧縮する。それは先程の繰り返しだが、不利を覆す方法としては正解なのだろう。

 紫色のエネルギーが歪む。だが、黒色に変化する前に俺が到達する。


「――――!」


 皇戯は早々に圧縮を捨て、俺に投げつけてきた。時間を稼いで距離を取る、といったところか。させねぇがな――。

 半径五メートルはある球体が眼前に迫る。思い切り拳を突き出せば、瞬く間に霧散した。紫の黒のエネルギーにはそれだけのパワー差がある。その際に一度着地し、再度地面を蹴る。滑るように皇戯に接近する。息を飲む間もなかったろう。

「傀儡拘束――!」と、糸束の波が押し寄せた。あの状態でまだこれだけの霊的エネルギーを残していたのか。

 だが、悪いな。それに付き合ってるつもりはない。


「オフ」


 俺の切り札――唯一のスキル。

 たった一言で世界は静寂に包まれた。

 月光に照らされた更地の上で、皇戯が唖然と立っているだけ。俺の知覚から霊的エネルギーが完全に外れたことであらゆる霊的障害を無視できる。

 来させまいと、必死に手を前に突き出す皇戯。糸を出しているのだろうが何も見えないとシュールなものだ。

 そして、人一人分まで近づき腰を下ろす。右腕に力を込め、皇戯の腹に狙いを定めた。当然、皇戯の〈霊纏〉も結界の拘束も無視できるので生身の腹パンということになる。


「――我ながらズルいな本当に」

「がぁッ――!」


 トン、と――実際やってみたら大した音もならない。

 想像の何倍も綺麗に決まった。皇戯は血の混じった息を漏らすと、見事に崩れ落ちる。漫画でこういうシーンを見たことがある、って感じに。


 ――何が何でもここで皇戯を止めなくてはならなかった。逃がせば、適当な理由をつけて再び抗争は起きていただろうし、被害規模は今よりも酷くなっていた。そして、多分俺が狙われる。

 知らんが因縁があったらしい。全くいつ出会ったのか。


「…………このまま帰りたいところだが、皇戯をどうするか…………」


 殺した方が楽なのはわかる。わかるが、人生楽な方に流れて得することはそう多くはない。殺すべきタイミング――ここで立ち止ることにきっと意味がある、と。死体を隠すのも面倒そうだからな。

 生身で人間を運ぶのは骨だ。「オン」と、呟き幽霊の世界に舞い戻る。足に鎖が巻き付いてくるが気にせず突き進み、拘束具に埋まりそうな皇戯を肩に抱えて〈牢獄結界〉を蹴り破った。


 待っていたのは逆宮乖離のみだった――。


「お、お疲れ様…………」

「あぁ、結界、助かったよ。ところで他の二人は? まさかまだ残党が?」

「い、いや…………違くて……………………知らない人と話してるだけで……………………」


 人見知りだから乖離だけはこっちで待っていたんだな。

 そんでもって知らない人、ってのは多分雪代のこと。無事に合流できたのなら安心だ。

 俺も合流したいがその前に、頭目を倒したことを風車さんに連絡しておこう。その後の対応について訊かなければな。

 終わってみればあっさり、としている。俺が早く来られれば簡単に終わったんだろうな。


「ま、詮無いことを考えるのはやめとくか。今更変わらないんだし」

「…………………………………………」


 これにて第二次侵伐抗争は終わりを迎える。三度目がないことを切に祈るはがりだ。



 ◎


 ――世にも奇妙な物語。

 そんな名前のテレビ番組があったりなかったりする今日この頃。私は激しく動揺していた。オーバーリアクションをする体力もない状態だから平静を装えている、というのが現状ではあるが心情的には上に飛び跳ねそうなくらいの衝撃。

 目の前に立っている二人の少女――二人は顔が同じだった。

 似ているとかじゃなく、同じ。こんなことあり得るの? いや、あり得るんだろうけど。


「えっと…………怜悧?」


 私が尋ねれば片方が「何?」と首を傾げる。こっちが怜悧らしい。


「これは?」

「見ての通りだけど」

「…………ふぅん」


 怜悧ではない方は、不躾に私のことを見詰めてくる。上から下まで舐めるように――。


「君が京都君に色目使ってる雪代、って人?」

「色目!? いや、それはっ」


 全くない、って言ったら嘘になるけど大袈裟なものではない…………はず。彼には普通のことは大抵通用しないなら実質何もしてないのと同じ…………はず。

 意外と悶えてたりしたら面白いけど想像はつかない。


「こちら、逆宮鋭利。私の姉妹」

「私の目が黒いうちは好き勝手させないから、よろしく」


 もしかして恋のライバル扱いされたの?

 当たり前ではあるけど、怜悧とは全然性格が違う。怜悧には付き合ってると嘘を吐かれたけど、鋭利の方はただ彼女面しそうな感じする。性の悪さはどっちもどっち?


「ま、無事で良かったよ。桜子ちゃん。ワンチャン死んじゃってる可能性もあったし」

「怖いこと言わないでよ。そりゃ、大変だったけどさ」


 終わってみれば、だけど。この破壊の跡を見れば掠り傷と多少の打撲で済んだだけマシなんだろう。最初から抗争に参加していた人も、皇戯天廻に操られていた人も、爆発に巻き込まれて以降姿を見ていない。

 何もない。何もない。何もない――。

 私が生き残ったのは運良く多くの霊力を持っていたから。でも、それが勝負を分けた。もっと上手くやれば私だけで皇戯天廻も止められたかもしれない。


「――来るのが遅かったのかな…………」

「そんなことはないと思うけどな」

「あ、桜坂君…………」


 彼は肩に皇戯天廻を担ぎながら、


「もしかしたら早く来たことで被害が増えた可能性もある。味方を庇って離脱するとかな」


 言う通りに離脱した場合、鎧という男は止められず、皇戯天廻の傀儡が際限なく増えていた。そうなった場合、敗北が確定し、ゴースト・ハンターズが解体されていたかもしれない。

 そういう可能性もない、とは言えない――。


「最善、とは言い難い被害だけど、最悪は回避できた――なんて俺は思うけどな。結局、自分中心にしか考えられない訳だ」

「そんなことはないと思うけど…………」


 否定はしてみたものの、我が道を往っているのはその通りで。この結果はつまり、桜坂君の信念には反していないのだろう。その中で最善を選んだ、それが今。

 人を担いでいるから気づかなかったけど、後ろに誰か立っている。


「そこにいるのは?」

「…………説明されてないんだな。じゃあ、存分に驚いてくれ」


 横にスライドすると、アホ毛が飛び出てる少女が気まずそうに震えた。見覚えのある顔だった、ほんの数秒前とかに。

 あれ? と、振り向くと鋭利と怜悧がにやけていた。二人ではないということは――。


「三人目? えっと……………………あなたのお名前は?」

「うぇ……………………いや……………………」


 目が合うと彼女は頬を赤くして、視線を逸らした。

 え、私何かした?


「わ、私は――」

「――えっと、君は…………あ」


 タイミングが合致して、彼女の声を遮ってしまった。これはまずい。多分、人見知りはタイプ。それも極度に。

 そんな彼女の声を遮った、となるともう自分から喋ってくれることはないだろう。痛恨のミス過ぎる。


「――とまぁ、名前は逆宮乖離と言う。逆宮三姉妹の一応の末っ子だな」

「ここまで来て桜坂君が説明するんだ!」

「当たりの強い突っ込みだな。人見知りだから代わりに説明しただけなのに」

「…………少しずつ距離を縮めようとしてたの」

「また今度な。今は放課後、部活が終わった後じゃない。ちゃんと帰って休みたい」


 それもそうか。時間としては午後の八時、いつもなら夜ご飯も食べ終わってゆっくりしてる。

 身体は疲れているのに、意識ははっきりと瞬いて眠れそうにない。危機的状況への警戒心がまだある。今晩中に落ち着くかどうか。



 ◎


「俺は皇戯を引き渡してから帰るわ」

「じゃあ、お先に。今日は助けてくれてありがとうね」と怜悧が、「本当にありがとうね! お礼はまた今度二人きりの時に…………」と鋭利が、「……………………私もお礼したい……………………」と乖離が言った。

 で、雪代はというと。


「ねぇ…………」と湿っぽい声で俺を呼んだ。意味深に聞こえるのは俺の気のせいか。雪代は一歩俺に近づくと、逆宮姉妹に聞こえるか聞こえないかの小さな声で。


「話したいことがあるの」と――。


 意味深過ぎんだろ。

 いや、気のせいなんだろうけど?


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