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ゴースト・ハンターズ  作者: (仮説)
二章 ゴースト・インベーダー
32/48

12.霊力を支配する能力

 

 ◎


「ぐぅっ…………! 動けッ――!」

「無駄よ。関節を固定しているもの、強引に動こうとすれば折ることなるわよ。痛そうだからお勧めしないわ、前そういう人がいてこっちも辛くなっちゃったのよ」


 マリオネッターの能力により十字架に拘束された雪代と、嗜虐的な行為に浸る皇戯。霊力を腕力に寄せても糸は切れず、むしろ食い込んで切断せんばかりに負荷が掛かる。

 雁字搦めとはまさにこのことだ。

 さておき、皇戯は顎に手をあてて、目を見開いていた。


「それにしても良い身体してるわね」

「は、はぁ!?」


 糸で締め付けるように固定されている都合上、服を押し潰して身体のラインが直接的になってしまう。バスト、ウエスト、その他諸々が扇情的になって前面に押し出ていた。


「私も自信はあるけど…………こういうのも悪くないわね」

「私のこと見た同性の子はいつもそう言う!」


 同性だからこそ明け透けなんだろうが、コンプレックスでもある体型に関してはあまり喜べない。努力して手に入れてないものに価値を感じるのは難しい。

 隣の芝生は青い――結局、全てがそこに収束する。

 ともかく、いとも簡単に毒気を抜かれてしまった。


「これを傀儡にするのは少し勿体ないかも…………」


 何やら本気で考え込んでいる。

 その程度の理由で行動を変じるのなら、それは紛うことなき狂人だ。行動理念に一貫性がない――それだけで人間性の像を結べなくなる。


「まぁ、それは後で考えれば良いかしら」

「…………――」


 悩ましく首を傾げる端、雪代は内側を向いていた霊力を外側に表出させる。全身に高濃度に纏う。アメジストのような紫は歪んで深みが増した。

 ――霊力を弾けさせて糸を切断すれば。

 と、一息吸って力を込める寸前に関係ない所に視線を遣っていたはずの皇戯が手で制す。


「止めときなさい。あなたの霊力がどれだけ多くてもこの糸は切れないわ。糸を重ねれば強度は二倍になる、それを重ねればさらに…………既にこの糸はあなたの平均霊力を超えてるの」

「それは、やってみなくちゃわからないでしょ」

「糸で霊力だけを切れば無傷で拘束し続けられる、無駄な努力よ」

「……………………」


 皇戯の発言は雪代の脳裏に引っ掛かった。

 彼女は巧妙だ、一つ一つの発言でさえ疑うべきだろう。それを前提として聞いてみると内心を透かすことができそうだ。

 無駄な努力はするな…………そうして欲しくない理由があるのではないか?

 このまま何もせずに傀儡にされるのは御免だ。

 ただ、その読みが当たったとして、それを皇戯に読まれない確証はない。


「〈荊棘鉄線〉」

「――くッ、がああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああァ…………!?」

「――全く…………手間掛けさせないで頂戴」


 霊力で作られた糸だけあり、操作することが多少形を変えることもできる。鋭利な棘を伸ばせば、関節に深く食い込み雪代の神経を逆撫でた。

 応用して振動を与えれば四肢は瞬く間に切断することも可能。最早逆転は叶わない、それだけの力量差が見える。


「あなたを操ることができれば、この先は楽そうね」

「…………一体何が狙い?」

「――桜子を人質に桜坂京都を傀儡にする」

「!」


 皇戯の表立った目的がゴースト・ハンターズの壊滅だとしたら、真の目的は強力な傀儡を増やすこと。抗争ともなれば玉石混交の霊能力者が集まり、戦力にすることができる。

 言うならば、桜坂京都は目玉商品――否、伝説のポケモンだ。雪代は掘り出し物――否、映画館限定、と言ったところか?

 彼女も簡単に行くとは思っていなかった。できなかったらそれでも良かった。


「強過ぎるのよ、彼…………でも、これで確定したようなものね。まさしく最強の幽霊騎士、今から震えが止まらないわね」


 ここに来て興奮しているらしく、頬が赤くなって頬が緩んでいた。対して、雪代は名前の如き冷たい感情が内心に伝導していく。

 ――許されない。

 自分が原因で、桜坂に迷惑を掛けることだけは絶対許されない。

 何が何でも人質にはなってはいけない。桜坂ならば、迷わず身を捧げることだってあり得る。

 それだけは、それだけは――故に、優先事項。自分の身の安全よりも上位に食い込んだ。

 ――どうにか、どうにかどうにか…………!

 湧き出る焦りを抑え、冷静に冷静に思考する。

 そして、早くも状況に酔った皇戯が叫んだ。


「あぁ、やっぱり桜坂京都は私の運命の人だわ。必ず私だけのものにする」

「――――」


 その瞬間、空から日が落ちた――同時に凄まじい暴風が雪代から吹き込む。

 紫の宝珠の中に黒い炎が灯った。憎悪と嫉妬、二つの女としての情動が無意識のリミッターを外す。

 桜坂が誰かの手に渡る、と考えるだけで――。

 誰かのものに――皇戯のものになる、と想像するだけで――。

 嫌なことを言われた――ただのそれだけのことで人は力を発揮できてしまう。


「――――――――――ッ!」


 少女の口からこの世のものとは思えない咆哮が吐き出された。同時に黒き霊力の波動が全方位に撒き散らされる。雪代を拘束していた糸がプツンプツン、と千切れていった。


 今だけは、雪代桜子は桜坂京都と同種の化物へ変貌する。



 ◎


 地面から人間が這い出てきた。

 霊力の糸で雁字搦めになっている男は、地面に穴を開けて身を隠していたらしい。

 彼は右手で銃を作ると、遠くにいる少女――雪代桜子、目掛けて霊力の弾丸を放つ。もしも、本人の意識が残っていたら「ストライク」と言っていただろう。



 ◎


 ――霊力の弾丸が雪代のこめかみに突き刺さる。

 横倒しになる少女の姿を見て、皇戯は薄い笑みを浮かべた。


「はい、おしまい」


 予想外の出来事だって対策している。逃げられた場合のために無数の伏兵を地面に潜らせていた。操った十条と鎧がいれば足止めには十分過ぎる。

 雪代の意識外の攻撃で動きを止めることも簡単にできた訳だ。


「傀儡拘束」


 十指から飛び出た青い糸が雪代に巻き付く。関節に重点的に絡まり、全身を侵した。

 拘束が済むと思いきり両腕を振り上げ、雪代を立ち上がらせる。


「――起き上がりなさい、私の人形さん――――…………………………………………は……………………糸が、切れた……………………?」


 雪代が立つのとほぼ同時だった――黒い霊力が轟轟と立ち昇ったのは。

 死んでない。気絶もしてない。あの弾丸の衝撃を耐えきっていた。どうやって? 霊力でガードする余裕ははなかったはず。

 様々な思考が皇戯の脳裏に過ぎる。明確な答えは出ないが、明晰な彼女は一つの可能性を直観した。

 弾丸を防いだのも、糸を消し去ったのも――。


「――あなたの能力は…………?」

「知らない…………!」

「――が…………ッ!」


 皇戯の身体が浮き上がり、ひとりでに雪代へ突っ込んだ。まるで糸で引かれたような挙動。拳に黒き霊力を纏った雪代は射殺すような瞳で悪の元凶を捉える。

 怒りの鉄槌が皇戯に放たれた。破砕による爆音が響き渡る。砲弾と化して皇戯が一直線に吹き飛んだ。障害物は爆発にやられている、改めて張られた隠蔽の結界まで一直線に進む。

 その前に、今度は急停止した。

 すると、再び皇戯の身体が雪代へ引き寄せられる。


「理解した私の能力……………………思う通りに霊力を操るだけの力……………………最悪な気分だわ、悪いけどあなたで発散させてもらうから」


 皇戯の霊力を引っ張り、己の霊力を捩じ込む。

 きっと、それは史上最強の能力だろう。霊力で戦う霊能力者相手にこの能力が負けることはない。〈霊纏〉も〈結界〉も固有能力でさえ、雪代の前では塵と化す。

 皇戯の糸さえ操ったのだ、より簡易的に人を操ることもできる。完全なる上位能力。真の意味での傀儡を作り出せるだろう。さらに言うなら固有能力の模倣できる可能性さえある。無限の可能性を秘めた能力は〈霊力支配〉とも呼べよう――。


「…………………………………………」


 いつかに子供の幽霊を成仏させたことがあった。

 その際にコミュニケーションらしきものが取れたため、桜坂は雪代の能力にゴースト・スピーカーと仮に名付けた。だがそれは――。


「――私が操ってたのね、疎通が取れてるみたいにして」


 ゴーストに意思はない。覆しようのない絶対理論。

 都合の良かったことは全て、この能力に依るものなのだ。強い意思が無意識に支配を発動し、逆境を乗り越えていた。助かった時もあった。しかし、それ以上のショックが今はある。


 ヒントはあった。例えば、熊型ゴーストと戦った時の局面で雪代は使い魔の動きを止めていた。例えば、地獄の番人――鳳は最初から雪代を警戒していた。近づきたくない、と言ったのは支配の能力を理解していたからだろう。

 それがゴーストだけの話なのか、それとも霊力を有する人間全員になのか――。


「こんな能力要らなかったな…………」


 凄まじい拳撃が血だらけの皇戯を打つ。斜め上方に打ち上がった少女は結界にぶつかり、僅かの拮抗の後、貫通した。あのまま落下するとして当たりどころが悪ければ死ぬだろう。

 今の雪代にはそんなことを心配する余裕はなかった。


 出たのは「ははっ」という唐笑い。


「…………あんなに強かったのにこんな簡単に終わっちゃうんだね…………」


 まさに努力の冒涜者――たまたま得た才能が究極の技術を押し潰してしまった。圧倒的な試合ほど見ていて詰まらないものはない。

 恵まれた能力、それを十全以上扱う才能が皇戯にはあった。彼女を超える霊能力者が今後現れるとは思えない。

 それを真正面から叩き潰したのだ。今は虚無だけが雪代に募る。しかし、実に乙女らしい理由で少しだけ心は晴れた。


「桜坂君もこんな気持ちだったのかな…………?」


 果てしない霊力と、例外的な固有能力であらゆる敵を打ち負かした少年。

 肩を並べられるかもしれない。霊力を操る能力なら、必ず桜坂を助けることができる。

 目的を失った彼にピンチが訪れるかは考えていなかった。自分の能力に使い道がある、という事実が彼女を落ち着かせる。


 ――これで抗争は終結したの? こんなに呆気なく?



 ◎


「田舎だと空が綺麗だね」

「あー、京都君とふたりきりで夜景見に行きたいよー」

「……………………でも、言うほど綺麗じゃ、ないかも……………………意外と街灯多いし……………………」


 遅れに遅れて現れたのは何を隠そう自他共に認める最強の霊能力者――桜坂京都。そして、入れ代わり立ち代わる逆宮姉妹の三人。鋭利、怜悧、乖離だ。

 法院寺前に、四人が現れたのはすっかり空が暗くなってからだった。


「八時前には着いたが、やれやれ一体全体どういう状況なんだ?」

「遮音と幻影の結界が張られてるけど、入口探す? それとも破壊して入る?」

「不穏な提案をするな、怜悧」

「だって探すの面倒じゃん」


「怖いからは抱き締めてて良い?」

「鋭利、歩きにくいから離れろ」

「嫌ー」

「後で抱き着くでも何でもしてやるから…………」

「え! 何でも!? 何してもらおっかなー! じゃあ恋のABCのCを…………――」


「………………………………」

「乖離」

「な、何…………?」

「いや、目を離した隙にどっか行っちゃいそうな雰囲気あった一応」

「そ、そんなこと…………しないよ…………?」

「…………しそうだな」

「酷い……………………」


 末恐ろしき四人組は軽い足取りで結界内部に入り込む。

 彼らは広がる光景に絶句する。

 理由は単純、そこに何もなかったから。

 そして、間に合わなかったことをようやく理解した。


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