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ゴースト・ハンターズ  作者: (仮説)
二章 ゴースト・インベーダー
26/48

6.逆宮鋭利

 

 ◎


 ――逆宮鋭利、について訊かれて俺が答えられることはほとんどない、と言っても差し支えない。

 入れ代わり、成り済ます彼女らの中で最も外向きな行動を起こしているのは鋭利だ。ゴースト・ハンターズの集会にも、高い確率で参加してくる。そんな訳で俺が最も見慣れている顔でもあるのだが。


 怜悧のように悪戯好きでもなく、乖離のように人間嫌いでもない。良く言えば、鋭利はあらゆるところに適応できる性格をしている優等生タイプだ。何事も卒なくこなし、いつも笑顔でいる。

 欠点という欠点はない。だが、他人が彼女を見たら不気味だと思うかもしれない部分はある。

 鋭利はいつでも笑ってる。悪感情など知らないかの如く、笑みを絶やさない。

 例え、死にかけ、痛みを生じても頬は吊り上がっていることだろう。雰囲気を無視した笑いなど気持ちが悪い、と思うのが大半の感想だ。

 意外なことに、それ以外は普通。

 だから、何というか掴みどころがなくてよくわからなかった。改めて考えてみれば、あの二人みたいな極大な個性がある方が異端なのだ。


 そんな一見普通な少女は俺のことが好きらしい。普通なだけあって一番ストレートに言ってくるから対処に困ることこの上ない。

 何だかんだこれが気掛かりなことの一つだった。解決した後の心配をしている当たり、油断しまくりだな俺。


「――さて、これから敵と戦いに行くつもりなんだが、覚悟しといてくれよ、乖離」

「うん……………………」


 戦いに行くのは確定だし、覚悟させるのも確定。

 俺と乖離は廊下を遅々と進みながら言葉を交わす。数百人が入る学校に一〇人もいない、広過ぎて暇だ。

 何というか解決の目処がたったからか、少し焦燥に駆られていた。祭りの後のような寂しさを感じてしまう。


「非日常かぁ…………二律背反だよな」

「…………何それ?」

「日常にずっといると非日常を求めてしまうものだけど、実際非日常に巻き込まれると日常が恋しくなる訳だよ」

「京都さんは…………非日常が日常だよね…………」

「だよね、じゃないけどな」


 俺は非日常が恋しいと思っているのだろうか?

 自分で自分のことがわからない。何に対しても積極的な感情を抱いていないことが原因なんだろうけど、これはもう直りそうにない。


「いや、違うか。どっちも同じなんだな――結論が出て良かった。たった今からは思う存分生きてられる」

「ん?」


 すると、前方からゴオオオオオオオォォォ――という重機を思わせる重低音が響いてくる。

 あの化物トリケラトプスが侵攻してくる音だ。意外と早く出会えたな。

 意識を内面に向け、霊的エネルギーを外側へと流した。一応、いつでも本気が出せるようにしておく。霊的エネルギーが一部歪んで黒ずんだ。


 ダーク・モンスターは強引に階段を下ってきて、真っ直ぐの廊下に姿を現すだろう。禍々しき角が確認できた瞬間、走り出すつもりだった。

 実際にそうはならない。

 横から手を引かれたからだ。

 乖離じゃない、乖離は既に離れて結界の準備に取り掛かっていた。

 教室から何者かが俺を掴んだのだ。左足に霊的エネルギーを流し込み、踏ん張る。


「何馬鹿なことやってんの…………! 早くこっちに来て!」

「乖離も早く!」


 もう一本出てきた腕に引き込まれ教室に飲み込まれた。



 ◎


「もうっ、心配掛けさせないでよ京都君! 好き!」


 既視感のある感触に包まれた。

 また抱き着かれたが、今度は逆宮鋭利である。遠慮がない分、実に瑞々しい身体がより密着してきた。彼女は気のせいか、俺に身体を許しつつある。危ない奴だ。


「まぁ、そこまで心配してなかったが良かったよ」

「助けに来てくれたの!? もうっ、どんだけ私を好きにさせるの!?」

「数日閉じ込められてるはずなのにおかしい、って。テンションが」


 額を俺の胸に擦り付けるようにするので背中を軽く叩く。飢餓で動けないかとも思ったが、こんだけ元気なら本当に大丈夫そうだ。

 持ち込んだ飲み物と食料を怜悧に渡す。


「遠路遥々お疲れ様。乖離が変なことしなかった?」

「いつも通りだよ」

「あは」と怜悧は笑う。「それはお手数お掛けしました」

「一人のミスは皆のミス、って?」

「そんな感じそんな感じ。で、どう? もう一人の私の身体の感触は?」

「……………………雪代のが良いよな」

「うわっ…………キモい」

「今のはジョークのつもりで言った」

「あー、報告しちゃお。良い身体だ、って言ってたって」

「褒め言葉、っぽいけどな」


 俺がそう言うと怜悧に軽く鼻で笑われた。

 同時に、胸の圧迫が強くなる。鋭利が頬を膨らませはしてないが、眉を寄せていた。


「怜悧と楽しそうに喋ってないでよ」

「そんなことより、ここは〈隠蔽結界〉の中で良いんだよな?」

「うん、ここにいればあの角の化物にもバレないよ。凄いでしょ?」

「あぁ、凄いな」


 俺が褒めるだけで年頃の乙女のような満面の笑みを浮かべる。

 雪代から警戒心とか、心配事とかを取り除いたらこうなりそう――っていう感じの純粋そうな女の子。

 これはこれで話していると疲れたり、ムカついたりもするが。


「まぁ、休みがてら話を聞かせてくれよ」

「うん、話したいことは山程あるからさ」



 ――彼女らがどうしてここに来たのかは乖離に聞いた話とほとんど一緒だったが、この廃校に来てからは結構な紆余曲折があったらしい。

 中級ゴーストは話通りいたらしいが、既に瀕死の状態だったとか。


「まさかそれが囮だなんてね、そしたら壁をぶち抜いてあの黒い恐竜みたいな奴が来たの」

「トリケラトプスな」

「それは知らないけど」


 鋭利が言うには、その時点では閉じ込める結界はなかったらしい。


「私達が耐えた上で、そいつの顔を見たから生きて返せなくなったんじゃないかな」

「なるほどねぇ。実はここにゴースト・プレイヤーの奴らが紛れ込んだんだが気づいてたか?」

「そうなの? 攻撃頻度が減ったから人数が増えたんだとは思ってたけど」

「その黒い化物に乗ってた男なんだけどさ…………京都は見た?」

「見た」


 年齢的には大学生くらいだと思ったが、それ以上の情報は思い出せない。カルシウムが足りてなさそう、という小並感満載の感想はでっち上げられるが。


「その反応だと覚えてなかったみたいね。あいつ――ゴースト・インベーダーだよ」

「……………………全く予想していなかった訳じゃなかったが、あんな奴がいたのか」

「まぁ、知らなくてもおかしくないと思うよ。十条が倒してたかもしれないし」

「ああ……………………」


 もはや懐かしい名前だ。

 彼はゴースト・ハンターズが誇る核弾頭である。ゴースト・インベーダー討伐戦で凄まじい戦果を上げた霊能力者最強格の一人だ。


「て、ことはやっぱりゴースト・インベーダーの再興の話は真実だった訳か」

「そう考えると結構ヤバいかもね」

「何が?」

「囮、って言ったじゃん」

「言ったな」

「言ったな、じゃないよ」


 つまり、どういうことだ?

 残念ながら俺は一から言われないと理解できないタイプの人間なのだ。言っていることは、この状況でマズイことが起きる理由があるということ。

 逆宮姉妹と俺がここにいて不都合があるか?


「何の囮か、が問題だな」

「四人も――あぁ、六人だっけ、これだけの数が釣られたんだよ。二人に対して」

「費用対効果は高そうだな。なるほど、大体わかったよ」


 俺達がここにいるだけで、ゴースト・ハンターズの人員がかなり割かれていることになる。もしも、そんなタイミングでゴースト・インベーダーが攻めてきたりしたら――という話だろう。


「ネガティブに定評のある俺だが、そこまで最悪は想定していないぞ」

「前と同じように先手が取れると? あっちも対策するに決まってるでしょ」

「不確定要素高過ぎだろ、それは。誰が来るかもわからないのに――」


 ――いや、そもそもインベーダーの行動理念自体が意味不明だ。まさかとは思うが、この囮すらも賭けなのかもしれない。

 それに囮が一つである保証はない。

 こういう角度の謀となると、こちらが不利なのは間違いない。


「…………早く帰った方が良いか?」

「別に良いんじゃない? その場合、ゴースト・ハンターズが壊滅する可能性は多分にあるけど」

「そんなことはないだろ。結局、数で押せばあっちが負けるよ」

「京都…………」


 ため息と共に名前を呼ばれた。一体何の文句があるんですかね?

 戦いは数、とは飽きるくらいに言われてる言葉だが動かしようのない真実だ。そりゃ、霊能力者という括りでなければ今回は成立しないが、ゴースト・ハンターズの物量は半端じゃない。


「それはそうだけどさ、圧倒的個によって戦況は左右される、ってのは前回のでわかってるでしょ? いや、わかってないか。だからこういう反応なんだね」

「馬鹿にしてくるな…………」

「自覚がない鈍感君なもので。あの戦い、結局四人の動きは誰にも止められなかったから」

「その中に俺がいると…………何か災害みたいな言い方だな」

「そのつもりで言ったんだけど」


 霊的エネルギーは完全に才能だ。残酷なくらいに決まりきっている。

 強い奴は何があっても弱いし、弱い奴は何をしても弱い。シンプルに強いが故に、知恵で打ち勝つのは難しい。だが、不可能ではない。油断はできない。


「その駒が一つここにあるだけで不利になるんだよ。これでわかったでしょ?」

「あくまでも可能性だろ」

「そうだけどさ」


 あっさり、と言い切ると怜悧は肩を竦めるのだった――そして、冷笑を浮かべる。


「そうなったら、桜子ちゃんはどうするだろうね?」

「……………………」

「誰、桜子って? 女だよね?」


 鋭利が顔を上げ、詰めてくる。

 怜悧な弾丸の次は、鋭利な刃物の攻撃らしい。俺に考える時間と、説明する時間をくれ。やはり、乖離しか勝たん。



 ◎


「――とにかく、ゆっくりする理由はなくても急ぐ理由がある訳だ。もしも、本当にゴースト・ハンターズがゴースト・インベーダーと争ってるとしたら劣勢にある、と」

「十中八九。それくらいしか奴らがこんなことする理由はないしね。もしかたら、ゴースト・プレイヤーの方を狙ってる可能性もあるけど、多分ない。あっちのリーダー、京都のこと結構意識してたし」

「何だよその話、知らんぞ」

「当事者はわかっててよ」


 鋭利と怜悧の体力回復も終わり、〈隠蔽結界〉から出て、ゴースト・インベーダーを倒す準備も整った。最後に、改めて状況をさらっている。


「しかしねぇ、戻るのに三時間掛かるからなぁ、始まってたら間に合わないかもしんないな」

「どうしてそんなにネガティブなの?」

「いやいや、当然の心配だろそこは。連絡を取るだけなら霊的エネルギーをオフにすれば良いだけなんだが」

「――あ? 早くやれよ」


 何忘れてんだ、とガチギレされた。

 別に忘れてはなかったよ。状況整理してたからこの場を離れる訳にはいかなかっただけで。

 今なら、風車さんへ連絡した時の返事も来てるかもしれない。


 しかし、タイミングはそれを許してくれない。

 その時、ゴオオオオオオオォォォ――と、爆音が押し寄せてきた。ダーク・モンスターの駆動音。

 どんな方法か知らないが、俺らの居場所を突き止めたらしい。近づいてくる。


「先に倒さないといけなくなったな」

「見えないだけでそこにはあるから物理的に接触されたらバレちゃうからね…………」


 だが、あいにくこちらには逆宮姉妹という戦力がある。そうでなくても俺は負けない。彼らには悪いが、巻で行かせてもらう。


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