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ゴースト・ハンターズ  作者: (仮説)
二章 ゴースト・インベーダー
25/48

5.人質

 

 ◎


「――仲間とか言ってたな? 最近の中高生はゴースト退治なんて趣味にするのか?」


 橋垣は視線を遠くに遣りながら、思い出したように乖離へ尋ねる。

 趣味、なんて本気で言った訳ではない。質問の体をした確認である。

 とは言え、質問相手はコミュ障に輪を掛けて挙動不審な少女だ、元より返答には期待していない。

 桜坂の彼女か何か知らないが何故こんな奴を連れてきたのか不可解だ。一人では何もできない無能、囮にもならないだろうに。

 橋垣の予想通り、乖離は過剰な程に頬をひくつかせて視線を泳がせた。


「え、ぇ……………………私、です……………………か……………………?」

「そのつもりだ」

「…………へ、へぇ…………」


 沈黙が降りた。

 ――相槌打つだけ打って何も答えないんかい。

 橋垣は心の中で突っ込んだ。同時に協力者としては不適だ、と判断した。この少女は桜坂の寄生虫でしかない。彼はこういうタイプの人間が一番嫌いだった。

 話は終わったかと思われたが、乖離にとってはまだ途中。呼吸を整え直し、葛藤した末、勝利した良心で返答する。


「そ、そんなこと……………………趣味にする、なんて……………………おかしい人じゃん……………………確かに京都さんはおかしいけど……………………私達は、ゴースト……………………ハンターズの指示で来ただけで……………………」

「――今ゴースト・ハンターズ、と言ったか? 言ったよな?」

「え、いや……………………えっと……………………いっ――」

「い?」

「い、い……………………」

「おい」

「いっ、言いまひたっ」


 厳つい顔の男に急かされれば噛むこともあろう。

 後退りする乖離はこれ以上ないくらいに壁にめり込み、背伸びをしてまで人から離れようとしていた。美術室から出る、という選択肢は桜坂が集合場所と設定した時点でなくなっている。


 頭がおかしくなっていた乖離を他所に二人の表情は硬くなっていた。

 嫁井は静かに立ち上がる。同様に、橋垣も。


「ゴースト・ハンターズ…………あの少年もそうなんでしょうね」

「あのまま放置はできなくなったな。相手がハンターズなら、協力は考え直しだ」


 青くなった乖離には不穏な会話も耳に入らず、視界も定まってない。正常とは程遠かった。

 ゴースト・ハンターズとゴースト・プレイヤーの確執は深い。

 逆宮乖離は瞬く間に、人質にされるのだった。



 ◎


 ――折角、迷宮結界から出たのだから敵を驚かす以外にも色々やっておきたかった。勿体ない精神の塊になっている。

 一応早めに戻りたい。ゴースト・ハンターズ本部に連絡を入れるくらいに留める。


「乖離が雰囲気に窒息するからなぁ」


 廃校での出来事を書面にて風車さんに送りつけた。伝えておくべきは四つだ。

 逆宮が結界に閉じ込められていること。

 中級ゴーストは既に消滅していること。

 霊能力者によって閉じ込められていること。

 ついでに、ゴースト・プレイヤーの人間に出会ったこと。


「さて、戻るか」


 あの少女は俺が結界に侵入するのを防ごうと考えているだろうが、俺には関係ない。とは言え、一階から入るのは危ない気がする。物理的な罠が怖い。

 だから、不意をつく。


「三階から侵入しよう。美術室がどこだがわからんが適当に――」


 潔癖気味の俺の作戦は――端っこからのローラーだった。一旦、中に入ってしまえば一部屋ずつ回れば良いだけだ。一発くらいは殴られるかもしれないが、何大した問題じゃない。

 足下に霊的エネルギーを集中し、せーの、っと数十メートルを飛び跳ねる。


 内から外が見られないように、外から内も見られない。

 侵入するには一度破壊するしかなさそうだが、下手に結界に干渉したくない。こんな場合の都合の良い攻撃を俺は持っている。

 〈霊纏〉を腕と足だけに纏うが、目には使わない。

 知覚不能の不可視のエネルギーを見えないままに扱う、というのは一見怖そうだが実際怖い。何せ、素手で窓硝子を殴りつけるだから。


 粉々に散った欠片の上に立ち、霊的エネルギーを完全にオンにする。こうして瞬間移動のトリックが完成する訳だ。

 飛んだ時点でここが美術室であることには気づいていた。一発で来れたのは運が良かったな。


「さて…………何とか逃げてきましたよ――」


 ――って、修羅場じゃねぇか。

 橋垣さんと、嫁井さんに椅子にグルグル巻きにされてるのは間違いなく逆宮乖離だった。二人共俺が唐突に現れたことに驚きは勿論、焦りを抱いている。

 我ながら凄いタイミングだ。

 乖離のコミュ力ならこんなことになる可能性もあるよな。

 誤解を解けば大丈夫だろう。

 ――何て、面白い妄想をするのも楽しいが。まぁ、違うよな。

 どうせ、ゴースト・ハンターズとゴースト・プレイヤーの下らないいざこざだろう。


「桜坂ァ! そこを動くな!」


 橋垣さんが威嚇気味に叫びを叩きつけてきた。嫁井さんは見せるつけるようにナイフを乖離の首筋にあてている。

 状況的には最悪から五歩六歩手前、ってところか。


「悪いなこいつを人質にさせてもらう」

「一応理由は?」

「お前らがゴースト・ハンターズだからだ。これでわかるだろ?」

「そんなことだろうとは思ってましたよ。それで人質を手に入れて何をするんですか?」

「物わかりが良いな、いや…………良過ぎる。都合が良過ぎるなんてこたぁ、俺の人生にあったことがない」


 どんな人生送ってんだよあんた。過酷だな、おい。

 俺がこうして突然美術室に現れたことも彼にとっては都合が悪い展開なのだ。慎重に慎重を重ねることは悪いことではない。


「まずは能力を明かせ、どうやってここに入ってきた?」

「その前に一つ」

「こっちに人質がいることを忘れちゃいねぇよな。それともお前にとってこいつは人質の価値もねぇのか?」

「乖離、どうして逃げようとしない」


 彼女は抵抗せずに受け入れている。

 霊的エネルギーが流れているナイフを首筋に突きつけられているからと言って、〈霊纏〉を貫けるかはまた別の問題。乖離の〈霊纏〉強度なら弾き飛ばせそうなものだ。

 では――どうして抵抗していないか、と言えば誰にも指示されていないからに他ならない。


 乖離は劣等感の塊だ。逆宮は自分を偽り、他人を欺く遊びをずっと続けてきた。

 そんな環境で育ったことにより、彼女は自分ではない何かになった時にしか咄嗟の力を発揮できなくなってしまった。

 鋭利みたいになれ、乖離みたいになれ――そう言えば彼女は動き出し、簡単に橋垣も嫁井も制圧するだろう。

 自由意志がない、それが無条件に悪いことだとは思わない。

 だが実際、乖離に自由意志はある。

 本来、劣等感と演技は別物。混同するからこうなっても動けずにいるのだ。

 どうしようもない、という態度がムカついて仕方がない。


「――乖離よ、舐められるというのは馬鹿にされるのと同じだぞ。この場合、馬鹿にされるのは君達(・・)全員だ」

「……………………!」

「戦えよ、失敗しても俺が絶対何とかしてやるから」


 彼女は、姉妹の果てなき遊びに興じている。

 劣等感に苛まれても止めようとはしていない。遊びを遊びのまま貫く信念を有している。

 乖離にとって、二人の姉妹はやはり大切だから――。

 次に目を開いた時、定まっていなかった瞳に光が宿った。霊的エネルギーの燐光だ。


 逆宮三姉妹の固有性質はそれぞれ異なる。結界に応用できるという共通点があるが、戦術は大きく変わる。

 乖離の識別名は――ゴースト・ストーカー。

 悪意満々の名前だ。それに、この名前は直接能力を示している訳ではなかったりする。

 ともかく、乖離の能力は特殊なタイプである。


「――〈結界〉」


 小さな呟きと同時に、半径二メートル程の球形結界が発生した。橋垣さんと、嫁井さんは瞬時に乖離に攻撃を仕掛けようとするが――それよりも早く、地に倒れていた。


「あ…………?」

「動けない!?」


 橋垣さんと嫁井さんの手足には手錠が着けられ、地面に繋がれていた。霊的エネルギーによって錬られた鋼鉄の錠、〈霊纏〉でも簡単に破壊できない硬度を有する。


「…………なるほどな」


 ――これが〈封印結界〉か。実際に見るのは初めてだ。

 霊的エネルギーの限り、結界内部にいる全てを拘束するようだ。

 乖離は椅子と括り付けられていた紐を引き千切って立ち上がると、ふらふら、と近づいてくる。酔っ払いのような足取りで抱き着いてきた。

 相当メンタルに来てたみたいだな。


「悪いな一人にして」

「本当に……………………死にそうだった……………………」

「もう、離れなくて良いから安心しろ」

「うん」


 石化したかのように離れようとしないから引きずって移動する。

 さて、彼らの処遇だが特に決めてない。ゴースト・プレイヤーだとしても、そうじゃないにしてもこの迷宮結界を抜けるのには関係ない。放置しても良い。この拘束具もいつかは外れる、死にはしないだろう。


「よし、探しに行くか…………」

「俺達を生かしておくのか?」


 橋垣さんがここを出ようとする俺に尋ねる。


「殺したら殺人罪で捕まりますよ。流石に高校生でそれはちょっと…………最低限大卒資格はないと困りますから、将来」

「そんなの霊力を使えば幾らでも誤魔化せるだろ」

「霊力ですか――何の努力もしないで手に入れた力なんて気持ち悪いとは思いませんか? できることなら使わないで生きたいものです」

「……………………」


 絶句したのか、俺に話し掛けるのが無駄だと思ったのか、橋垣さんは口を閉ざした。

 それとなく嫁井さんにも視線を遣る。


「嫁井さんも何か言いたいことがありますか?」

「……………………私達はゴースト・プレイヤーよ。あなたが本当にゴースト・ハンターズなら、私達の情報を欲しているはずよ。それをどうして放置できるの?」


 随分と己の所属している組織に心酔してること。俺には徹頭徹尾理解できない感情だ。俺はそもそも利用するつもりで入ったようなものだから、信用もなかった。

 だが、組織に助けられた者はそうではないか 。


「下らないんですよ、幽霊も人間も。何の因縁だか知りませんが勝手に巻き込まないでください――話はこれで終わりだ」


 乖離を引きずって美術室を出る。

 ああいう人もいる。正しさを騙り、悪行を行う者など世界に溢れている。愚かしいのは行動の善悪に自覚がないことだ。背負えない責任など抱えてはならない。

 愚者が偶然、俺の目の前に現れただけで、さして珍しいことではない。無自覚な悪意はどこにでも現れるのだから。


「乖離、そろそろ離してくれ。普通に疲れる」

「…………やだ…………」

「我儘に育ったな。片腕だけだぞ」


 結界の製作者である女は結界内にいる人間の数を数えることができる。但し、詳しい居場所は探れない模様。攻撃方法は結界の変形による圧縮。

 そして、ダーク・モンスターと呼ばれる化物を操る男。

 対して、こちらの駒は俺と乖離。〈封印結界〉でダーク・モンスターの足を止めることができれば戦いはかなり楽になる。


「その前に色々と話をつけておきたいが…………」


 蛮行の動機を探りたいが、碌な答えが返ってくる気がしない。

 対策を考えていると、腕を引っ張られた。


「ねぇ、鋭利と怜悧は?」

「生きてるとは思うよ。あの二人ですら生き残れるくらいだからな。でも、本気で逃げたとしたら俺達には見つけられないと思う」

「そ、そっか……………………〈隠蔽結界〉……………………き、京都さんは私よりも鋭利のことわかってるんだね……………………」

「卑屈になんなよ。つまり、あっちから見つけてもらうしかないんだがな」


 できることはこの事件の犯人達をどうにかすることだけだ。


「俺達がいることをどうにかアピールできれば合流もできるはず。両方同時に進めても良い」


 ともかく方針は決まった。

 怪しい奴らを捕まえ、犯人の顔を確認した。これにて冒険の時間は終わりだ。早々にただの夏休みに戻らせもらおうか――。


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