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ゴースト・ハンターズ  作者: (仮説)
二章 ゴースト・インベーダー
22/48

2.逆宮乖離

 

 ◎


「――さて、逆宮姉妹の無茶振りには慣れたものだが、一体どういう風の吹き回しだ?」


 突然の来客である逆宮乖離を部屋に上げ、椅子に座らせた。天然水を注いだコップを目の前に置いて話を切り出す。

 乖離は落ち着きがなく、俺の部屋を舐め回すように見てきた。


「おい、聞いてるか?」

「わ、わかってるよ。別に変なことしないから」

「……………………」


 何するつもりだったんだよ、君さぁ。

 挙動不審だな。

 乖離は、二人の姉妹に劣等感でもあるのか酷く自尊心が低い。人の表情をうざったいくらい窺って間違った選択をしてしまうのだ。


「ちょ、ちょっと頼み事があるだけだから」

「俺にねぇ、相当阿呆なことを頼むんだろうな」

「困ったことがあるの…………でも、私が話せる人は家族を合わせても四人くらいしかいないから…………」

「そこは言わんでも良い。若干の不憫さが滲み出てる、って」


 鋭利と乖離と俺以外に残り一人しかいないのか。俺は仲良くしてやるよ。かく言う俺も知り合いが多くはないけどさ、ここまでではない。

 こんな性格だから俺に対しても積極的な接触はなかった。


「実は、四日前に鋭利と怜悧があるゴーストを倒しに行ったの。ゴースト・ハンターズの司令で中級ゴーストをさ。だけど、帰ってこなくて…………」

「中級か。話の流れ的にはそうなんだろうな、情報はそれだけか?」


 確かに最近は怜悧からの面倒なメールも届いていなかった。関心がなさ過ぎて意識もしていなかったが、不自然な事態だ。


「場所くらいしかわかんない。三日前には助けに行こうと思ったけど二人がダメだったのを私がどうにかできる訳ないし。だから、き、京都さんに助けて欲しくて…………」

「じゃあ、その三日間は何してたんだ?」

「…………い、インターホン押すの、怖くて近くにいて、そうしたらいつ間にか…………」

「そんなことだろうと思ったよ!」


 コミュ障が過ぎる。

 しかし――こういうことを言うのは控えたいものだが、現実問題として彼女らが無事かもわからない。このようなケースでは大抵、ゴーストに返り討ちにされたとか、殺されたとかが多い。

 今も生存している可能性は低い。

 あくまでも、低いだけで絶対ではない。


「――助けるのは良いけどな。付き合いも長いし、助けられたこともある。だが、明日にしてくれ。眠いんだ」


「へ、へへへっ」と、乖離が何故か笑った。「ちゃんと寝るんだね、夜な夜な変なことしてると思ってた」

「馬鹿にしてんのか。いや、してるよな? 夜な夜な変なことしてるのは君だろ」

「わ、私は徘徊してるだけで人を驚かせたりはしてないし…………」


 怪しいな。台詞も口調も不安定過ぎて真偽の判断がつかない。

 ともかく、もう体力の限界である。今日は雪代と共にゴーストを倒したのでだいぶ充電がなくなっていた。

 とっとと寝るとして、乖離をどうするか。

 このまま徘徊させて良いものだろうか。


「まぁ、遅いし泊まって行けよ。その方が明日も早くに行動できる」

「えぇ? えぇ?」

「引き攣んな、にやけ笑うな。何を想像している?」

「へ、へへ、添い寝とかして良いの?」


 ふむ、頭からアホ毛が飛び出してるな。

 添い寝はさせてやろう、但し、俺とではなく半人半霊の娘とだが。



 ◎


 ――俺と、逆宮乖離との付き合いはそう長くはない。しかし、浅からぬ仲でもある。


 彼女と初めて出会ったのは、俺がゴースト・ハンターズに所属して二ヶ月程が経った頃だったと思う。

 当時は、赤い地獄を探すことに傾倒しており、専ら情報収集のために集会に参加していた。俺に優しくしてくれる人なんて風車さんしかいなかったが、あの人に気を遣わせることが一番申し訳なかった。

 ひっそり、と寺院を行き来している時に初めて〈逆宮〉に会ったのだ。

 その時は、彼女達が三姉妹ということは知らなかった。だから、同世代の霊能力者として片隅に置いていた。


「あ、もしかして君が最近入ってきた子?」


 と、彼女が訊いてきたので卒なく二ヶ月前だが、と答えた。

 いきなり話し掛けられて若干戸惑ったのは今でも覚えている。何だかんだ可愛い容姿をしているから嬉しかったんじゃなかろうか。


「私は逆宮鋭利、あなたは?」


 名乗った名前は鋭利だった。姉妹の中ではよくゴースト・ハンの集会に参加しているのが彼女である。

 彼女は俺に限らず、そこら辺にいる人達にも愛想を振り撒いていた。勘違いしないように、と言い聞かせるまでもない。


 何の変哲もない出会いである。

 問題は次の邂逅だった。次の機会は、ゴースト・インベーダーの討伐作戦会議の時に訪れた。

 利便性のある能力を有す逆宮鋭利も俺同様に作戦に呼ばれていたのだ。

 鋭利が来るんだな、と他人事程度に思った。

 そして、俺は「久し振り」と言われた。

 鋭利じゃない、鋭利と同じ顔に。

 顔は非常に良く似ているし、声も聞き分けできない。しかし、違和感が拭えない。雰囲気としか言えない何かに混乱した。

 だが、明確に違いを意識したのは保有する霊的エネルギーの動きが異なっていたから。

 すぐさま出た仮説は双子、というものだった。

 ミステリーでありそうな入れ代わりが目の前で起きている可能性に興奮していた。リアルにいるなんて、とかな。


 指摘したくなったが、もっと面白いタイミングが良かったからここは話に乗って久し振り、と答えた。それに、何かアホ毛が飛び出していたし。

 さて、ここまでは特におかしいことはない。


 ――彼女らに付き纏われるようになった切っ掛けはゴースト・インベーダー討伐作戦の後の、ゴースト退治の任務でのとある出来事から。

 逆宮鋭利に上級ゴースト退治の任務が課せられた。少々厄介な能力を持っているということで、ついでに俺も送り込まれることとなったのだが――拒否された。

「私だけで大丈夫だよ」と温厚な感じで言われては頑固に否定することはできない。

 その場では納得したが、俺はゴーストの目撃情報がある地点に先回りし、様子を窺うことにした。ピンチだったら助け、倒せたのなら一人で帰るだけのつもりだった。


 結構軽い気持ちだったから、鋭利が三人現れた時は僅かに驚いた。

 そこで三つ子姉妹ということと、入れ替わって遊んでいることに気づいた。こうして任務を三人で安全に遂行していたのだ。

 しかし、今回は分が悪かった。

 敵の上級ゴーストの能力は〈引力〉と〈斥力〉。霊的エネルギーに力を付与することができ、磁力のような現象を起こす。

 多人数で戦うには向いていない相手だった。三人いても、二人は弾き飛ばされ白兵戦に持ち込まれる。ゴースト・ハンターズの全員が全員、武闘派ではない。三姉妹も霊能力と、その性質は異なる。


 誰かが縊り殺されそうになったタイミングで飛び出した俺は〈霊纏〉で上級ゴーストを撃ち抜いた。そのまま、拘束から解放された誰かを抱き止めた(アホ毛が生えていたかは覚えていない)。

 そして――その誰かに(・・・)惚れられた。


 逆宮姉妹は、お互いがお互いに入れ代わり、成り代わり成り済まして生きていた。霊的エネルギーという個という概念を持ちながらも、限りなく像を共有する。

 一人が感じたことは、三人で共有される。あらゆる記憶も感情も。

 誰かが俺を好きなれば、他二人も好きになる。

 意味がわからない。だから、きっと遊びなのだろう。彼女からしたら楽しければ何でも良いのかもしれない。


 しかし、話はここで終わらなかった。俺は三人を見分けることができた、これが彼女らに目をつけられる理由となる。

 その内、彼女らは認めないが識別するための名前を知ることもできた。乖離、鋭利、怜悧――という名である。


 かくして、俺は逆宮三姉妹に好かれ、さらには付き纏われることになったのだ。

 そう言えば、三姉妹三人を同時に見たのはあれ以来ないかもしれない。二人も数回程度だ。ほとんどが怜悧と鋭利。


 もしかたら、久し振りに三姉妹を拝むことができるかもしれない――そんなことを思いながらソファーにて眠りについた。



 ◎


「あー……………………あ?」


 ソファーで寝ていたから寝起きが悪かった。特に腹に途轍ない重みが掛かって実に息苦しい。

 まるで少女が一人伸し掛かっているような感触である。アホ毛の生えた少女だ。


「幼女と同じ布団に押し込めたはずだが。まぁ、良いか」


 服を掴まれているため一人で逃げることもできない。時刻は早朝五時、夜型人間の乖離が起きるかは怪しい。

 上を脱いで、その場を離脱した。朝ごはんとしての果物をいつもの二倍の量切りながら、思考を巡らす。


 四日前――…………五日前に怜悧と鋭利は中級ゴーストを討伐しに行った。しかし、帰ってこない。考えうる事態として、ゴースト・ハンターズの判定が間違っていて実は上級以上のゴーストだったか、霊的現象とは関係ない理由か。交通事故や事件に巻き込まれる可能性は低い。〈霊纏〉があれば外界からの物理的攻撃は意味を為さない。


「――それか、邪魔者が入ったか」


 最近、ゴースト・ハンターズにあだなす組織――ゴースト・インベーダーが活発化していると言う。奴らが干渉してきたという線もなくはない。

 半年前にほぼ壊滅状態になったが、トップには逃げられた。

 前と同じようにゴースト・ハンターズを攻撃している可能性もある。

 あまり楽観視はできないな。


「一応、連絡しておくか…………乖離が連絡してる訳もないからな…………」


 風車さんにメッセージを飛ばす。

 一応、雪代にも連絡しておく。変に勘繰られても面倒だ。だけど正直に言ったら着いて来る、とか言いそうだな。

 適当な理由をでっち上げれば良いか。


「う、あぁ…………おぁ…………おおお、ああぁ…………」

「ゾンビみたいな目覚め方だな」


 午前七時、逆宮乖離起床。

 まずやらせたことは着替えである。こんなこともあろうかと女性用の服を買っていたのだ。一見、無駄遣いに見えたが機会はこうして訪れた。俺の人生滅茶苦茶だ。

 俺の好みの反映された白の半袖ブラウス、水色のロングフレアスカート。逆宮娘共は背が高いので絵になる。


「とりあえず寝癖ならぬアホ毛を直せ」

「アホ毛じゃないから…………これは…………遺伝。鋭利と怜悧も朝起きたらこんな感じだし…………」

「マジかまどかやな」


 見た目は本当に同じ。ならば、そうなんだろうな。

 演技していれば、乖離も怜悧みたいに人と話せるはずだが今はしどろもどろにも程がある。演技だからこそ、できるのかもしれない。

 逆宮が全員実はこんな感じ、と言うのなら笑えるけど。


 朝ごはんを食し、外に出て軽い運動をする。インドア派の乖離を引きずって多少のウォーキングを行った。


「京都さん、って健康的なんだね…………何かやだ…………」

「何でだよ」


 そんなこんなしていると鳳が扉をすり抜けてきた。

 乖離と鳳、二人が見詰め合った。雪代の件もある、険悪になるのだけは勘弁だが。


「…………」「…………」


 何事もなかったかのように目を逸して、行動を再会した。

 は? 無反応は普通に怖いわ。

 やはり、雪代は特別らしい。


「パパ、おはよう!」

「あぁ、うん。おはようございます…………」


 いつもと少し違う朝、これ以降はもっと退屈しないに違いない。夏休みは長い、少しくらい忙しい方が丁度良いだろうさ。


「じゃあ、話を聞かせてもらおうか」


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