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ゴースト・ハンターズ  作者: (仮説)
二章 ゴースト・インベーダー
21/48

1.千客万来

 

 ◎


 ――この上級ゴーストは奇妙な能力を持っている。


 念入りに〈霊纏〉をし、木々の見上げる位置に引っ掛かった不定形のヘドロを観察した。

 生物のモチーフはなし。戦闘に知能はなく、本能で霊的エネルギーの多い者に攻撃している。

 霊的エネルギーを触手のように操り直接攻撃をする。〈霊纏〉の応用だ、俺にもできる。やらないけど。

 特質すべきはその能力――霊的エネルギーを起点として、一メートル移動させるというものだ。


 たった一メートルだと思ったら、これが厄介過ぎた。霊的エネルギーのあるもののあらゆるの位置が滅茶苦茶になる。そこら辺の木々にすら流れているのだ、遮蔽物が突如現れ、自分も勝手に動かされるため避けられない。

 固く〈霊纏〉を使えばダメージは避けられるものの、攻勢に回ると目測を外され空振る。


 さて、雪代はどうやって奴を倒すのでしょうか?


「ちょっと! 見てないで手伝ってよ!」

「位置を逸らされて同士討ちしそうになったじゃないか」


 雪代に顔面を殴られるという貴重な経験もしたな。

 俺がそれをやったら雪代の首が千切れるため、下手に動けない、というのもある。

 霊的エネルギーオフにして裏に回って攻撃すればすぐにでも終わるが、それでは本懐を果たせない。

 今回は雪代の修行として上級ゴーストと戦っている。


「――ゴーストの動きを一瞬止められたんだろ? それが使えれば簡単じゃないか」

「できたらやってるよっ!」


 上手く〈結界〉を使って戦っているが依然劣勢である。

 このゴーストに弱点という弱点は見当たらない。

 だが、わかることはある。雪代が気づかないはずもない。


 クールタイムと、本体の移動不可条件――。

 クールタイムと言っても二秒あるかないか、その隙に攻撃を叩き込むというのが正攻法。雪代の保有霊的エネルギーならば十分可能だ。

 最短距離は勿論、タイミングを逃さない直観が必要になる。それを養うための訓練にはなっている。


 番外編としては、このゴーストが移動しきれないほどの濃密な霊的エネルギーを纏う、というもの。こちらも雪代ならできるかもしれないが、現実的に考えて一戦に全てを掛けるような愚行である。


「それなら――〈結界〉」


 雪代は掌に生み出した面の〈結界〉をゴーストの頭上に投げた。各辺一〇メートルの青い正方形が落ちてくる。

 次の瞬間には正方形は一メートルずれた。中央から僅かに外れる。

 だが、押し潰す、と言う公算なら不可能だ。怜悧のスキルがあるのならともかくあの薄さでは鉄板程度。


 と。

 ――そこには〈結界〉で作られた階段があった。

 雪代は駆け上り、跳ぶ。正方形の上からダイブギックを敢行したが、目測は一メートルずれたが四角形の上であることには変わりない。

 蹴りに押し込まれてゴーストは面の結界と木々ごと横倒しになった。凄まじいキック力だ。

 ゴーストは転移の異能を発揮し、雪代を外へ押し出す。

 ――前に、右腕の霊的エネルギーが火を噴いた。結界ごと剛腕を叩きつけ、貫いたのだ。

 上級ゴーストは跡形もなく霧散する。

 ゴースト・ハンターズではまことしやかに〈霊神法〉と呼ばれる技術。霊的エネルギーの制御は余裕そうだな。


「…………びっくりするほど強くなってるんだが…………」

「え、そうかな?」


 ゴリ押しじゃねぇかよ。

 俺がドン引きしながら褒めると雪代は嬉しそうにはにかんだ。


「足手纏いは卒業できそうだね」

「そんなことだろうとは思ってたよ。まぁ、俺が護衛しなくても良くはなったんじゃないかな」

「それは、喜ばしいことなのか…………残念なことかも…………」

「……………………」


 反応に困るようなことは言わないで欲しいな。

 最近、雪代は勘違いを助長させることを言ってくる。意識しているのか、していないのかそれによって俺の見る目が変わる。

 天然だったら笑い事だが、わざとだったら大爆笑の嵐だ。


「――それはさておき、ファミレス行こうぜ。流石に暑過ぎる」

「そうだね。最高気温三八度らしいし、休憩してから帰ろうか」


 ――季節は夏、しがない高校生である俺達は夏休みを過ごしていた。ゴーストのいる退屈する間もない日々を過ごしている。

 首都にある運動公園を出、近くのビルの一階にあるファミリーレストランに向かった。


 まず、冷気に迎えられた後、店員に席に案内され、お冷が置かれた。雪代は早速メニューを開いている。

 その間に、俺は風車さんに今回の任務の成功をメールした。

 今回は俺への依頼だったが、解決したのは雪代なのでそこら辺も言っておく。それなりに報酬が出るからな、嘘は吐けない。


「桜坂君はどうする?」

「ドリンクバーと、ドリンクバーで」

「ドリンクバー二つ頼んでも意味ないでしょ…………何、今のボケ?」


 渡されたメニューに目を通すものの、これといったものがない。こういうことは俺に限らずよくあることだろう。

 優柔不断と言いたげな目を向けられる。だってそんな食べたいものないんだもん。結局、適当に決めて注文した。


「こんなに早く夏休みに会うなんて思いもしなかったよ」


 メニューを脇に立てると、染み染みと雪代は言った。


「私から誘わないとどっかに行くとは思えなかったし。そもそも、一体どういうつもりで私を呼んだの?」

「言っただろ、修行、って。それ以上でもそれ以下でもない。だからと言ってジャストミートであるとも限らない…………」

「はぁ」


 ドリンクバーを取りに行って、雪代の話を聞いていると注文した料理が届いた。お昼ごはんにパフェなんて、乙女だな。

 とは言え、関心できることじゃない。


「健康的な生活を心掛けなさい。まだコンビニご飯生活してるんだろう?」

「最近はスーパーにも言ってるよ。自炊はまぁ…………次の機会で…………」

「おいおい。作りに行きたくなる、って」

「え? …………今から来る?」


 料理を作りに行くだけ、っておかしいだろ。おかしくなくしたらまた別の問題も発生するし、答えは決まりきっている。

 当然行く訳はなかった。

 あるとしたら、俺の住んでるところが燃えた時だけだ。

 勿論、冗談だが。



 ◎


 ――まぁ、家が燃える経験をする人間は比較的少ないはずだ。今のところ、俺は少数派に属してはいない。これからも家が燃える予定もない。

 帰り掛けにスーパーに寄ってから自宅に戻る。

 道中、見覚えのある後ろ姿が二つあった。女性としては高めな身長と小学生くらいの少女。二人は夏らしい服装を纏いながら手を繋いでいた。


「どうもこんにちは、関石さん。それと鳳」

「桜坂君」「パパ!」


 まぁ、そういうことである。

 今日は鳳を関石さんに預けていた。とどのつまり俺の危惧していた、霊的エネルギー無限供給問題は解決した訳だ。

 大方予想通り、関石さんは膨大な霊的エネルギーを有していた。それでも俺程ではない、ただ結界を使うことで俺よりも遥かに効率良く霊的エネルギーを供給できた。


「お忙しいところありがとうございます。まぁ、仲の方は大丈夫そうですね」

「大学生の夏休みは暇だよ。バイトでも始めようかな、と思うくらいだし」

「そうですか――えっと、鳳は?」

「すっごい楽しかったー!」


 子供らしい曇りない笑みを浮かべるのだった。それだけで不思議と癒やされる。人類は子供を好きになる本能が刷り込まれているようだ。

 子供じゃなくて、可愛い存在へかもしれない。

 特に男は辛いよ、愚かな程に。女は嫉妬の如く。


 おうおう、楽しかったのなら何よりだ。


「一つ、伝えとかなくちゃいけない重要なことがあるんだけど」

「口で言うほどですか」


 逆宮怜悧が言うなら冗談を疑うが、基本真面目人間の関石さんが虚言を吐くことはない。まぁ、鳳についてだろう。不可解な点が多いためこんなこともあるか。


「――鳳ちゃんだけど、普通の人にも見えてた、っぽい」

「マジすか」

「見たところ常時ではないと思う。感情が昂ぶってる時は気をつけた方が良いかも」


 思わず空を仰いでしまう。

 やらなければなないことが増えた。現実逃避したいが、そうもいかない。一息吐いて、関石さんに向き直る。

 不幸中の幸いなことに、今の時点で策が一つある。


「了解しました、何とかしてみます」

「できることがあったら言ってね…………――じゃあ、またね鳳ちゃん」

「またね、ママ」


 関石さんから手を離すと、鳳は俺の空いている方の手を取った。人間の子供の感触と何ら変わらない。温度があって、柔らかさがあって、血も通っていそうだ。

 むしろ、人に見えない方がおかしいくらい自然。


「鳳」

「何、パパ?」

「明日から修行しよう」

「しゅぎょー? 楽しい?」

「楽しくはない」

「嫌!」


 反抗された。子供には二回程反抗期があるらしい。一度目の反抗期は幼稚園生くらいの時、二回目は中学生くらいの時だったか。

 当たり前っちゃ、当たり前だが女親の方が接しやすいし、心を開きやすいものだ。


「それならしょうがない。修行はやめよう、そういうことにしておこう」

「パパ、帰ったら遊ぼ?」

「あぁ、何しようか」


 俺は基本面倒臭がりだ。俺だけではない、人間に総じて言えることでもある。

 だが、子供に優しくできないくらい器は小さくないつもりだ。疲れるだけで彼女が満足するなら幾らでも遊ぼう。二、三度はだけど…………。


 ――ピンポーン、と。


 鳳に付き合って三時間遊んだ後の深夜だった、インターホンが鳴ったのは。

 時刻にして零時を回ったくらい。

 何て奴だ、こんな時間に訪問してくるなんて。

 心当たりはない。勧誘がこんな時間に来る訳も、荷物が届く訳でも、知り合いがいる訳でもない。


「さて、どうしようか…………」


 玄関を開けることすら、魚眼を覗くことすら、憚られた。無視しようとしたら、もう一度――ピンポーン、と鳴る。

 随分と急かしてくる。不審者、悪戯の可能性が非常に高い。

 俺は知らぬ存ぜぬを通し、電気を消した。

 その瞬間――ぬるり、と悍ましいフローが部屋に入り込んできた。


「霊的エネルギーか…………」


 霊能力者が扉の先がいる。ゴースト・ハンターズないしは、それに関連する何者かだ。

 俺が目的なのか、それとも――鳳を。

 鳳は遊び疲れて俺の部屋でぐっすり寝ている。

 彼女はどこにでいる普通の女の子…………ではないけど、地獄から連れ出したのは俺だ。鳳を害する者なら俺の名誉に掛けて打倒する。


 ――〈霊纏〉。

 鍵を開くと同時に思い切り扉を押す。距離を取られていた、何者かが頭をぶつかることはない。

 驚きもせず、目の前の柵に背中を預けて立っていたそいつは実に詰まらなそうに作り笑いを浮かべる。


「危ないですね」


 へらへら、と何も考えてなさそうな顔。

 アイコンタクトもできないらしく、眼球と共に身体も右に傾いている。

 一般的な感性からすれば、ムカつく野郎とでも言われる不快な態度。

 顔立ちは良いのに、小馬鹿にするような表情をしている少女。

 無論、霊能力者だ。遭ったのはゴースト・ハンターズの集会で二回。それでも忘れられない理由がある。

 あまり表に出ないタイプだから、こうして目の前に現れるとどうにも不思議な気分だった。


「ひ、久し振り、き、きょ、京都さん」

「あぁ、久し振りだな。で、君は誰だ?」


 見慣れた顔と少し違う。だけど、相似。

 彼女は、頬を引き攣らせるようにしてニヤけた。怜悧とは似ても似つかない下手な笑み。


「逆宮乖離だよ、乖離…………」


 ひひっ、と楽し気に笑った彼女は逆宮三つ子姉妹の何番目かである。


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