緑 髪 鬼 ④
田中健太の日記
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「いったい何の用だよ?」
大森は不機嫌だった。久しぶりの休日だったのに、一番イヤな奴から電話でたたき起こされたのである。来る気はなかったが、監督と不倫関係にある女性スタッフに手を出していることをバラすと言われ、仕方なく出向いてきたのである。
大森と田中健太は同じプロダクションに所属するスーツアクターである。同じ特撮物に出演しているが、大森はヒーローで、田中健太は怪人役であった。スーツアクターといえども、格差は存在する。花形と脇役では立場が違うし、大森は何かにつけて、鈍臭い薄毛の田中健太をいつも小馬鹿にしていた。周りの連中も親分気取りの大森には逆らえず、一緒にからかったりしている。大人と言えども”イジメ”はある。それでも田中健太はアクションスターを夢見て歯を食いしばってきていた。
大森は田中健太の背中を横目で見ながら扉を閉めた。今日は撮影も稽古も休みなので、呼び出された稽古場には誰もいない。その稽古場の中央で田中健太は背を向けてじっと座っていた。
雑居ビルの4階の中は猛暑のおかげでサウナのような暑さである。緑の髪をした田中健太は大森の声に反応すらしなかった。
「せめてエアコンくらい点けろや。」
大森は壁にあるエアコンのスイッチを入れ、送風口の前に立った。生ぬるい風が大森に降り注ぐ。まだ冷たくはないがそれでもこの淀んだ暑さよりもマシであった。
「よく、こんなとこに居られたな。あ、そうか、ハゲは暑さが気にならないんだっけ。」
大森は笑った。
「あ、そうそう。ウィッグがあるから、やっぱ暑いか!」
ケラケラと笑い声が誰もいない稽古場に響いた。
「・・・・オマエノ・・嫌イダ。」
ボソリと呟く声が聞こえた。
「俺だって嫌ぇだよ、てめえは特になぁ。最近監督に褒められるからって、調子こいてンじゃねえぞ。タコすけ。」
ほんの数日前まで、切れの悪い演技でアクションで監督にダメ出しされていた田中健太だったが、最近は見違えるように切れがいい。常任離れした動きに、アクション監督も手放しで喜んでいた。前からバカにしていた田中健太が褒められるようになると、大森への要求が厳しくなりつつあった。怪人役とヒーロー役を交代してはどうかと言う話まで持ち上がっては、大森としても面白くはない。しかも馬鹿にしていた相手とである。
「俺とやろうっていう話かよ。」
大森はエアコンの送風口に立ちながら、チラリと木刀が置かれている場所をみる。空手を習得し、かつてはヤンキーだった大森。素手でも負ける気はしないが、それはそれである。
ゆっくりと田中健太が立ち上がった。
「ケッ、俺とやる気満々かよ。身の程知らずがぁ。」
大森はニヤニヤしながら構える。フルコンタクトで有名な空手の有段者である大森は負ける気がしない。
(適当に痛めつけて、こっから追い出してやる。)
田中健太はゆっくりと振り返り、大森を見つめている。
ゾッとした・・。
田中健太の目はすでに常人のモノではなかった。大森を見ているはずなのに、視線がどこかズレている。見ているようで見てない。頬がピクピクと揺れていて、少しばかり口角が上がっていた。しかも腰まである緑の髪が蠢いているように見える。
大森はたまらなくなった。言いようのない恐怖が彼を襲い、背筋に冷たいものが走り抜けた。
「このミドリハゲ野郎!」
先に動いたは大森の方である。彼の間合いには少し遠かったが、恐怖が大森に味方した。大きく踏み込んで放った正拳は彼のボディに突き刺さった。彼の気持ちに手加減と言う文字を恐怖が削除した。みぞおちを抉られた田中健太は大きく吹き飛び、壁に叩きつけられた。
「ハァ・・ハァ・・おどかしやがって・・・。」
見事な一撃を食らわせたハズなのに、大森の恐怖心はぬぐえていなかった。嘘のように汗がしたたり落ちるのは室内の温度のせいだけではなかったのである。なにか・・・言いようのない恐怖がまだ彼を包んで離さないのだ。
壁に叩きつけられた田中健太はズルズルと滑って、壁に背をつけたまま座り込む。口から血が流れていた。内臓が大きく損傷しているに違いなかった。一瞬、死んだのかと思ったが、田中健太の口角は上がったままで、小さく揺れる胸が田中健太の生存を証明していた。だが、苦しんでいる様子もない。
「え?」
まるで・・・まるで逆回しのフィルムでも見るかのように、田中健太は壁に背をつけたまま立ち上がった。いや、壁に張り付いたまま移動した。しかもそのまま天井にまで移動したのである。
田中健太は大森の頭上に居て、ニコニコと笑っていた。口から少しずつ流れる血の雫が大森の顔に落ちた。
「・・・コロス。・・オマエ。。」
大森はあまりの恐怖に失禁して座り込んだ。天井に大きく広がった緑色の髪が田中健太の背景にあった。その髪が生き物のように蠢いている。
(ヤバイ! ヤバイ! ヤバイ!)
大森は動こうとするが腰が抜けて、思うように動けない。それでも少しずつ木刀の方に向かって這いずる。
(動け! 動け! 俺の足ぃーー!)
必死の形相で這いずる大森を天井から眺めながら、田中健太は天井に寝ころびながら、そのままの姿勢でゆっくりと大森を追う。重力が完全に無視されているかのように、大森の動きに合わせて音もなく天井を移動してゆく。
ポタリ、ポタリと田中健太の口から滴る血の雫が床に大きな血の印をつくる。
大森が窓の外に助けを求めようとチラリと見るが、あいにく隣のビルは低く、屋上には数羽のカラスが停まっているだけである。しかも稽古場は防音完備がなされ、音は外に漏れない。窓を開けて飛び出そうにもここは4階である。それよりも腰が抜けて、立ち上がれないのである。
「来るな・・・来るなよテメェ! ぶっ殺すぞォオ!!」
やっとつかんだ木刀をめったやたらと振り回す大森の姿は滑稽にさえ見えた。
「やってみろよ。」
天井から見下している田中健太の右腕が大森の顔面に向かって伸びていた。垂直に。真下に。
フッ・・・と反重力の呪縛が解けた。
バチン!
ガラガララ・・・・。
クレセント錠が外され、4階のサッシ窓が開いた。
なんとも言えない爽快感が田中健太を包み込んでいた。風が室内に入り込んでくる。熱風のような風ではあったが、それすらも心地よく感じる。サッシの枠にはあの大森の血がべっとりついていた。
田中健太の後ろには、頭を握り潰された大森の死体が転がっている。首から上が潰されたリンゴのように散らかっていた。まだ動いている心臓が、首から血を吐き続け、血の溜まりが広がっていく。
「うん。気分がいい。」
ほほ笑む田中健太の向かいの屋上でカラスが「ガァー!」と一声鳴いた。早くも死骸の匂いを嗅ぎつけたのであろうか?
その時、稽古場のドアが開いた。
田中健太がゆっくりと振り返ると、そこには紺のスーツに身を包んだ見知らぬ女が立っていた。
何者かは田中健太は知らなかったが、なぜか恐怖のようなものに捕らわれたのである。
『ここに居てはいけない。』
感情とも本能ともつかないようなモノが心に突きあげてくる。
田中健太は、窓から飛び出した。5mはあろうかという向かいのビルの屋上に飛んだのである。カラスがギャーギャー鳴きながら飛び立った。
田中健太は屋上の端まで走ると、再びそこから飛び降りた・・・いや、彼の髪がビルの壁面にへばりつき、物凄いスピードで下に移動してゆく。
そこはビルとビルの間に挟まれた狭い通路であった。壁には空調の配管がむき出しになっている。その間を器用にすり抜け、地面に降りる。
一息つく間もなく背後を見ると、そこに大きな赤ら顔の男が、黒い犬を連れてこちらに歩いてくるのが見えた。人通りなどありそうもないのに、今不思議な光景を見たであろうハズなのに。臆することなくゆっくりと歩いてくる。
(こっちは危険だ。)
また本能のような物が、突き上げてくる。
田中健太は大男と反対の方向に走り出す。角を曲がって通りに出た。すると今度はこちらに向かって走ってくる2人組の男がいる。
田中健太は踵を返して、路地にもどる。挟み撃ちにあった形だが、こっちなら壁伝いに上に逃げることが出来る。
「頭を狙え!」
長髪の男が低く叫んで印を結んだ。