緑 髪 鬼 ③
田中健太の日記
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7月3日
きょうはアメリカのけん国記ねんビだ。そうだ。なんとなく気もちが公用する。大森はバカだ。いつかコロス。コロス。コロス。からだカルい。とべるな。これは。とべるとおも
けがまたのびた。あこがれのちょうはつロン毛。みどりのロン毛。かっくええ。かくーえ。かっくええーーーーーーーー!!!!!!!!!!
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吊革にぶら下がっている百目鬼を見た。電車に乗るには非常に不釣り合いな服装かもしれない。電車の中はそこそこ混んでいるが、気のせいか百目鬼の周りには『近づくな』オーラが漂っているらしく、なんとなく周りが離れている。右手で吊革に手をかけ、左手には覆いがかけられた鳥かごのようなものをぶら下げていた。それが何なのか、百目鬼は説明しなかったが、彼の印象には不釣り合いなイメージがあった。
俺は少し離れた場所に座っていたのだが、百目鬼が可笑しくて、ずっと笑いをかみ殺していた。もっとも俺の周りにも人はいない。泥に汚れたスーツに左の頬が赤く腫れている。誰も怖がって近寄ってこない。
『伊吹。』
百目鬼の声が聞こえた。いや、聞こえたというより頭の中に響いてきたような感じだ。ムー的に言えば、これがテレパシーってやつか。
『伊吹。聞こえるか?』
『聞こえてるよ。』
『もっと集中しろ! 私の存在を強く意識するんだ。』
『へいへい。。。』
恋人同士じゃあるまいし、百目鬼の存在なんか意識できるかってーの。
『馬鹿者。私だってその趣味はない。』
「やべ・・・。」
テレパシーってやつは、便利なようで不便だ。
『心配するな。慣れてくれば、自分の送りたい念だけを送れるようになる。』
くそっ! 本当に不便だ!
「お前・・・・人間か・・?」
伊吹は闘志を失った。相手が人間ではないと悟ったからではない。化け物であれ、神であれ、攻撃されればいつだって戦う。しかし、百目鬼からは殺気が消えていた。どうやら下僕採用テストは終わったらしい。もっとも、伊吹はまだ納得していないが・・・。
「百目鬼は、人ではない。彼が何者なのか君に説明している余裕は・・・実は無いんだ。」
土岐がいつの間にか操作室から出ていた。
「彼の事・・と言うより、仕事の事は後でキチンと説明しよう。だが今は、時間が無い。すぐに百目鬼と行きたまえ。事件の詳細は彼が知っている。彼の言う通りに動きたまえ。」
それが数時間前の事だ。百目鬼は自分の車に伊吹を促し、最寄りの駅から電車に乗った。車で直接行けばいいんじゃないかと伊吹は主張したが、百目鬼は無言であった。後で思えば、この時彼は、テレパシーで他の仲間とずっと交信していたのだろう。神妙に見える彼の額にうっすらと汗が浮かんでいた。
『我々の仕事は無線など使わない。これは訓練なんだ、集中しろ!』
『わかったよ、で? 仕事の話だ。俺は何をさせられるんだ?』
『まずは標的の尾行だ。我々のチームはすでにターゲットをマークしている。それに合流する。それまでに自由に念を送れるようになれ。』
『スパルタだね、まったく。』
伊吹は頬杖ついて、足を組む。近くにいた人がそそくさと席を立った。
『事件の概要を教える。』
百目鬼は伊吹に事件の概要を語り始めた。もちろんテレパシーでである。
1か月ほど前、都内のある公園の植え込みの陰から、ホームレスの変死体が発見された。一見して衰弱死のようだが、髪が変色して茶色になっていた。髪を染めているというより、植物が枯れたような印象をもった警察官が検死に回したところ、髪の毛から人間ではないDNAが検出された。このことは上層部に報告されたが、報告は握りつぶされ、検死結果報告書が改ざんされた。その検死結果が公安部・・・土岐の所に回されたのである。
『その生物はオガクロリアというが、こちら側では”緑髪鬼”と呼ばれているニャ。』
『ニャ? 緑髪鬼? こちら側?』
『・・・細かいことはどうでもいい。下僕は黙って聞け。』
『・・・・。』
『ともかく、それは寄生生物なのだ。滅多にあることではないが、時折人間にも寄生する。しかも厄介な事に宿主の生命を栄養素とし、生存するために宿主の身体能力を異常なまでに上げる。』
『それで?』
『オガクロリアは、宿主の生命が尽きる前に種子を別の宿主に宿す。今回寄生された人物は、もうすぐ寿命が尽きる。このオガクロリアが別の宿主に種子を撃ち込む前になんとか確保したいのだ。』
『確保?』
『ここでおりるぞ。』
百目鬼は伊吹の質問には答えず、電車から降りた。伊吹も百目鬼に倣って電車から降り、改札を通り抜けた。少しばかり後ろを歩いていたのだが、百目鬼が歩く速度を落としているの気が付き、伊吹は横に並んだ。この町はよく知らないが、お決まりのように商店街が並び、夕暮れを間近に控えた買い物客でごった返していた。
百目鬼は無言のまま雑踏の中に足を踏み入れていく。
「目的はここじゃないもう少し先だ。」
「いいのか? 普通に話しても。」
「かまわんさ。歩きながら話しても、すれ違う人間には断片しか理解できない。後ろを歩く人間もこちらには注意を払わん。」
もっとも、強面らしき二人連れの真後ろに接近してくる普通の人間はそういない。歩きながら百目鬼は少しばかり歩調を速めた。商店街の雑踏を抜けると、人影はまばらになった。百目鬼はじっと前を注視している。
7月も中旬に入り、本格的な夏だ。夕方とはいえ、気温が大して下がらない。今年も異常なまでの暑さで汗が滝のように流れる。どこか日陰に入りたかった。前からやってきた二人連れの女子高生とすれ違う。
「あれって、絶対コスプレだよね。」
「マジ笑う。ハロウィンの練習かなあ・・・この暑いのに・・・」
すれ違った二人の会話はすぐに聞こえなくなった。なるほど、確かにそうかもしれない。
「首輪のない犬は通報されるからな。面倒な世の中になったもんだ。」
『首輪のない犬?』どうやら、百目鬼の独り言らしい。誰かとテレパシーで会話していたようだ。
「仕事の内容は、あらかた黒夜に聞いただろうが、ターゲットに接触したら周りの景色が変わる。風景が青みを帯びたら躊躇するな。」
「何をだ・・・。黒夜?」
突然ビルとビルの隙間から、緑色の頭の若い男が飛び出した。腰まである緑色の髪の毛が、風も無いのに動いていた。まるで数万の虫が蠢いているような感じだ。よく見ると、Tシャツとデニムの前が血だらけである。
百目鬼が走り出す。
それに気づいた緑の髪の男はビルとビルの隙間に踵を返して走り出した。百目鬼も彼を追ってビルの隙間に走りこむ。一瞬遅れたが伊吹も百目鬼の後を追ってビルの角を曲がった。人が肩を並べて歩くには少し狭いようなビルとビルの隙間にはむき出しになった空調の配管が壁に並び、慌てている緑の髪の男がこちらを見た。男の背後には赤ら顔の大男と、鎧を付けた黒い大きな犬が男を威嚇していた。
「頭を狙え!」
低く叫ぶ百目鬼は、両手で印を結んだ。




