トッキシン草と呪王ジャグロア
ブックマークが減って少しだけ悲しくなりましたが、こんな拙いお話にまだブックマークしてくださっていることが嬉しいです。ありがとうございます。
シリアスに少しのコメディを入れてみました。
「・・・最悪の毒薬?トッキシン草がですか?」
「そうだ、信じられないか?」
「そう・・・ですね。というよりも、そんな危険な草が生えている山にお嬢様が足を踏み入れることをオードリューさんや旦那様がお許しになるとは思えません」
アズサが顔を上げてオードリュー瞳をじっと見つめる。オードリューはそれに頷き、口髭をそっと撫でた。
「確かにあの草自体に毒の成分が含まれているなら、私達はあの山を封鎖しただろうな」
オードリューの言い回しにアズサは首を傾げ、その目で真意を彼に尋ねた。
「トッキシン草はな、毒薬を無色透明、無味無臭にし、しかも体内で分解させてしまうことが出来る」
「・・・は?」
アズサは他の人から見たらほぼ無表情、オードリューから見たら驚き100%の顔でオードリューの話を聞き返した。
「まあ、全ての毒をというわけではないが・・・私が知っている毒でも10種類は無色透明、無味無臭にすることができるな」
「何故そんな危険な草が生えている山を立ち入り禁止にもせず放置していたんです?!下手をすれば殺し屋や人殺しを考える危険な人間がこぞって来てしまっていたかもしれないですし、お嬢様がその人達と鉢合わせしていたかもしれないんですよ?!」
今までオードリューの隣で背筋を真っ直ぐに伸ばした立ち姿で話を聞いていたアズサだったが、「アンナが危険かもしれなかった」という事実に怒りが抑えられず、足を仁王立ちにするとオードリューの胸ぐらを片手で鷲掴み、引き寄せて大声で詰め寄った。
しかし、オードリューはそんな彼女の行動を予想していたのか、胸ぐらを掴まれても彼女の唾が顔に飛んできても眉一つ動かさずに言葉を続けた。
「それはない」
「なんでそんなことが言えるんです?!」
「トッキシン草の裏の事実を知っているのは限られた人間だけだからだ」
「限られた人間?!誰なんです?!」
「サンタマール家当主と国王陛下だ」
「・・・・・・」
アズサの動きがピタリと止まり、オードリューはその間に自身の胸ぐらから彼女の手を外し、胸ポケットのハンカチで顔に飛び散ったアズサの唾を拭った。
アズサは彼が唾を拭い終わっても、固まったままだったため、オードリューはハアと息を吐くと彼女の肩を揺らした。
「いい加減動け」
「!すみません、予想の遥か上を行かれたもので固まってしまいました。というか、なんですか?その組み合わせ。なんで地方貴族と国王陛下なんです?ちょっと接点見当たらないないのですが。もしかして、実はサンタマール家は王族の血筋が入っていたりするのですか?成程、それなら納得です、何が納得ってお嬢様に王族の血が入っているということです。流石ですお嬢様、お嬢様の優美さはその血筋からも培われていたのですね」
今度はオードリューの胸ぐらを掴むことも、唾を飛ばすこともなかったが、ブツブツと息継ぐことなく話し出す。
様子を見ていたドルトルは若干引き気味だったが、オードリューにとっては彼女のこれは日常茶飯事のモノだったため、特に気にすることなくこの状態になった彼女の対処法を繰り出した。
ビシッ
「いい加減にしないか。動揺するのもわかるが途中からお前の妄想になっているじゃないか」
「・・どうしてチョップで止めるんですか、オードリューさん」
「どうせ声をかける、肩を揺らす程度では話すのを止めないだろう、お前は。いい加減その焦ると息継ぐ間もなく話す癖をどうにかしろ」
オデコを両手で押さえながら、無表情だが実は痛がっている顔を向けるアズサをオードリューはフンッと鼻を鳴らして見下ろした。
「全くお前の妄想に付き合っていたら日が暮れる、話を戻すぞ」
その瞬間、花畑に緩やかな風が吹き、サルラの花弁を、オードリューの口髭を、そしてアズサのメイド服を揺らし、最後にドルトルの美しい金の髪を撫でて消えた。
「トッキシン草のことを知るのはサンタマール家当主と国王陛下のみ、これには訳がある」
「まあ、無いわけありませんよね、サンタマール家は王族でお嬢様はその血を引いて・・・」
ビシッ
「・・・痛いです」
同じ部分に二度目のチョップは流石に痛かったのか、それともオードリューが先程より威力を強くしたのか、アズサの瞳には薄らと水の膜が張っていたが、オードリューは気にせず仁王立ちになり見下ろした。
「今、お前の妄想は必要ない。黙って聞け」
「・・・はい」
(この状態のオードリューさんを怒らせるのはマズイです、次はきっとチョップじゃすみません)
アズサはコクコクと首を縦に二度動かすとそれから口を開かず、オードリューは彼女のその様子に満足そうに頷くと、また話を再開させた。
「その訳は約300年前に遡る。アズサ、約300年前の有名な国王が誰かわかるか」
「300年前で有名な国王といえば・・・第132代目国王のジャグロア王ですね」
「そうだ。通称『呪王ジャグロア』だ」
呪王ジャグロア
彼の父王が腐敗させた国を立て直した賢王としても有名だが、それ以上に有名なことがこの通称とこの通称を付けられた理由である。
彼は第131代目国王ロドロア王の11人生まれた王子の中で6番目に生まれた王子であり、母の身分は側妃の中でも下から数えて3番目という王になるはずのない王子だった。
しかし、彼は玉座に座ることになる。
何故なら、彼以外の王子が全て玉座に座れる状態ではなくなったからだ。
ある者は心臓の発作で命を落とし、ある者は突然手足が痺れて動けない状態になり、ある者は奇声を上げて何か怯えるようになった。
彼以外の王子が全てこのような状態になったため、彼が玉座に座る他なかった。病に犯された王子と繋がりのある者達は何らかの毒が利用されたのではと調べ尽くしたが、証拠は何も出てこず、彼を訴えることなどできなかった。
そして、彼が玉座に座ったその日、亡くなった王子の母、第31代目国王ロドロア王正妃アンドレアは悔しそうに呟いたという
「ジャグロアは私の王子を呪い殺したに違いない」
その一言が貴族中、果ては庶民にも広まり、彼は国中からこう呼ばれるようになった・・・『呪王ジャグロア』と。
「そのジャグロア王の呪いにトッキシン草が絡んでくるのだ」
「・・・・・・まさか」
アズサの背に冷たい汗が一筋流れた。
「ああ、ジャグロア王の兄弟王子達を苦しめたのは突発的心臓発作や奇病なんかじゃない。トッキシン草を使った毒だ」
「しかし、王子達の繋がりのある者達は調べたのでしょう?」
アズサは呆然としながらも自身の疑問を口に出したが、それにオードリューは首を横に振った。
「言っただろう、トッキシン草を使った毒は体から検出されない」
「・・・・・・」
(スケール大きすぎませんか?)
アズサは自分の想像以上の話に頭がパンクしそうだったがオードリューの話は続いた。
「そして、このトッキシン草を使って他の王子達に毒を持ったのが・・・・・・ジャグロア王に忠誠を誓った殺し屋、サンタマール家初代当主レイバン=サンタマール様だ」
「・・・・・・は?」
アズサの想像の斜め上をかっ飛ばしたような話がオードリューから放たれたことでアズサの脳内はパンクし、彼女は一切動かなくなった。
「おい、オードリュー。彼女動かなくなったが、大丈夫か」
「想像もしなかった話に脳内がついていけなくてパンクしたようです。ですが、これもサンタマール家の使用人、しかもお嬢様専属です。こうすれば、意識は戻ります」
オードリューはそう言うや否やいつの間に持っていたのか右手のナイフを彼女に向けて突き出した。
「なっ?!」
あまりの速さにドルトルは静止の言葉も出せなかったが、問題はなかった。
カキーン
こちらもいつの間に持っていたのか、アズサは左手のナイフでオードリューのナイフを受け止めていた。
オードリューはそれも想定内だったのだろう、眉一つ動かさずにアズサに話しかけた。
「意識は戻ったか」
「はい、おかげさまで」
一方のアズサもその無表情を一切崩すことなく頷きを返した。
それにオードリューも頷きを返すと、ナイフをスーツの内側にしまい、アズサは白エプロンの中にしまった。
それを見ていたドルトルは呆然としながら口を開く。
「意識を取り戻すのにナイフをぶつけ合うのか?」
オードリューとアズサはその一言に一度ドルトルに目を向け、またお互いに顔を合わせてから声を合わせてドルトルに言った。
「「こんなの日常茶飯事ですが、おかしいですか?」」
「今までおかしくないと思っていたのか?」
空かさずツッコミを入れてしまったドルトルだった。
呆れたようなドルトルの目に苦笑してこの行動の理由を伝えた。
「まあ、サンタマール家の専属執事、使用人は主の護衛も兼ねていますので、私もアズサも専属執事、使用人として日々体を鍛えるための修行をしなくてはいけないのですが、主の世話もしなくてはいけませんから、日々の何気ない時間にこうやってナイフを向けたり躱したりして鍛えているのです」
「中々物騒な日々だな」
「勿論、主の前でやり合うわけにもいきませんから、お互い何かを運んでいるときとか休憩している時を狙います」
「なるほど・・・流石サンタマール家といったところか」
「恐れ入いります」
ハハハと口を引きつらせつつ、作り笑いをするドルトルにオードリューは腰を折って頭を下げた。
「・・・・・・オードリューさん、すみませんでした。今ので少し頭が冷えましたので、続きをお願いします」
アズサは首を左右に振って自身の意識がはっきりしていることを確認すると、オードリューに目を向けて首を縦に振り、それを受けたオードリューも首を上下に動かしてみせた。
「ああ、わかった。サンタマール家初代当主レイバン=サンタマール様は呪王ジャグロアの玉座が確固たるモノになるまで、彼の側で影となり支えたらしい。しかし、彼はジャグロア王の地盤が揺るがないものになると、殺し屋の自分が側にいるべきではないと考え、王都を去ることを決意したそうだ。ジャグロア王は引き止めたが彼は引かなかったそうだ。そして、渋々彼が去ることに了承をしたジャグロア王は今までの行いの褒美に彼に貴族の位と土地を与えることを伝え、どこの土地が欲しいかを尋ねられた。そして、レイバン=サンタマール様はレザン山とその周辺の土地を希望したのだ」
そこでオードリューは息を吐き、また語りだそうとしたが、それを他の声が遮った。
「レイバン=サンタマールは我が祖先にこう言ったのだ。『トッキシン草の裏の使用法を知るのは今のところ私のみ。ですが、もしかしたら、いつか誰かが気づくかもしれません。そして、それが陛下を、そして陛下の子孫を脅かすやもしれません。そんなこと、私には耐えられません。ですから陛下、私にあの土地を、そしてトッキシン草を管理する権利をお与えください。私とそして私の子孫がアレの秘密を必ずや守りぬいてみせましょう』とな。それを聞いたジャグロア王はいたく感動し、その土地を彼に与えた。そして、レイバン=サンタマールはジャグロア王にトッキシン草の秘密を守るため、これ以降の王族との関わりを拒絶することを誓い、それにジャグロア王は涙したという話だ」
ドルトルは話し終えると腕組みをして頷きながら、最後に一言加えた。
「流石アンナのご先祖だ。美しい心の持ち主だ」
「「全くですね」」
オードリューとアズサは深く頷いた。
もう少しでアズサが仮面をつけるところにいくのではないかな~と思います。
少しずつの更新で申し訳ありませんが、これからも気長に読んでやるかと思って頂ければ幸いです。




