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イオルド=サンタマール

どんどんシリアスになっていきます。

でも、もう少ししたらコメディタッチになるはずです・・・

 「……待ってください。確かにトッキシン草がすごい毒薬になるということはわかりましたが、旦那様の死に全く繋がらないのですが」

 アズサが片手を上げて疑問を口にしたが、それにはすぐに答えが返された。

「……旦那様は命の危険を感じておられた」

「え」

「なんだと?それは本当か」

肩を震わせながら拳を握りしめるオードリューにアズサは驚きの瞳を向け、ドルトルは彼の肩を掴み揺らした。


 オードリューは俯き、一度唇を噛みしめると再度口を開いた。

「私がサンタマール家の秘密を知っているのは、旦那様が私にお話になったからです。本当なら私は知るべきではなかった・・・それを敢えて旦那様は私に伝えました。万が一何かあった場合、サンタマール家の秘密が後世に伝わるように、と」

「……何故アンナにではなく、お前に伝えた」

「お嬢様は当時13歳、この秘密を知るには若すぎました」

オードリューは俯けていた顔を上げ、真っ直ぐ上を見上げた。

 その瞳に雲ひとつない澄んだ青空が映り、オードリューはイオルドの死から一度も晴れたことのない己の心との違いに口元が歪んだ。

「あの日もこんな澄み渡る青空でした」



―オードリュー回想―


「……久しぶりにレザン山を歩きに行かないかい?」

 シェドゥール国の西に位置するロドナン地方のまたその西側にサンタマール家の屋敷は位置していました。

 あれは領地内で行われる祭りの運営や、協会へ寄付するためのチャリティーパーティーの企画についての書類の確認を、執務室で旦那様と一緒に終わらせた時のことでした。

 旦那様が私をレザン山の散策へと誘ってくださったのです。


 その頃旦那様は何かと塞ぎがちで部屋に篭ってしまうことも多く、私がその理由を問いただしても何も答えてくださいませんでした。

 そんな旦那様のお誘いに私はもしかしたら旦那様の憂いの理由を聞き出せるのではないかと思い、旦那様とレザン山の散策に出かけました。


 旦那様は何も話さずレザン山を登り続け、私は旦那様がお話になるまではと……その後ろを付いていきました。

 30分位経った後でしょうか、旦那様はその歩みを止められました。

「オードリュー、君に頼みがあるんだ」

 私に向かって振り返った旦那様の顔に木々の木漏れ日が降り注ぎました。

 しかし、優しく降り注ぐその光とは裏腹に暗くしかしどこか美しい旦那様の瞳が私を射抜き、そして私の胸を騒がせました。

 はっきり言いましょう、その頼み事を聞きたくなかった。聞いたら旦那様を失う……そんな予感がしたのです。


 しかし、私は長年旦那様にお仕えしてきた執事です。そんな心情をあの方に悟らせるわけにはいきませんので、私は素知らぬ顔で応えました。

「旦那様からの頼み事を私が断る訳がありません」

「ありがとう、オードリュー。いつも君に頼ってしまって申し訳ないね」

「旦那様、私は旦那様の専用執事です。旦那様がそのように謝る必要などございません。いつでも私をお使いください」

 山風がレザン山の木々の葉を揺らし、旦那様の緩やかな桃色の髪をも優しく吹き上げた。彼の赤色に近い桃色の瞳が悲しげに弧を描いたのを見せると私の胸騒ぎは更にひどくなりました。

「……私にとっての君は兄であり父であり、何より唯一無二の友なんだけどな」

「身に余る光栄です」

「そんな君だから、いや、君にしかこんなことは頼めないし、伝えられない」

「……旦那様?」

「オードリュー……僕の頼み事を聞く前にひとつ昔話をさせてほしい」

 旦那様はそう仰ると私にサンタマール家の、そうトッキシン草とジャグロア王について語られました。


「旦那様、何故そのようなお話を私にしたのです!? それはサンタマール家当主のみに引き継がれるべきものなのでしょう?!」

「本当はそうなんだけれどね、今回はちょっと問題があってね」

「何が問題だと言うのです?!」

 私の叫び声と変わらない大声が山の中で反響し、逆に旦那様の発せられた声はとても、とても静かでした。


「オードリュー、僕はもしかしたら、もうすぐ命を落とすかもしれない」


「?!」

 旦那様のその一言で、今まで出していた声が嘘のように声が出なくなりました。

 そんな私を旦那様は可笑しそうに静かに笑いました。

「勿論、死なないように頑張るけれどね。でも、狙われちゃうと回避は難しいと思うんだ」

「狙われる?! 何故です?!」

「どうもね、トッキシン草の秘密が漏れたらしいんだよ」

「なっ!?」

 言葉もない、そんな私の様子を旦那様は可笑しそうにクスクスと笑っていました。私はそんな旦那様の様子に全身が熱くなるのを止められませんでした。

「何を笑っておられるのです!一体誰が旦那様を狙っているのですか!?」

「それは君が知るべきことじゃない」

「っ」

 今まで笑っていた顔は無表情になり、穏やかな声色は突き離すような冷たいものになりました。それに怯んでしまった私に旦那様はそのまま続けました。


 「それを知ればきっと君も平気じゃいられない、それは困る。君には可愛い僕の天使を任せるのだからね」

 その一言で私は旦那様の頼みが何か悟りました。

「旦那様……」


「オードリュー、もし僕が死んだらアンナのことを頼む」


 山の坂の上から私を見下ろす旦那様の赤色に近い桃色の瞳が暗い覚悟を秘めていました。


―オードリュー回想終了―


 「その3ヶ月後、旦那様が王都に向かわれることになりました。私は付添を申し出ましたが旦那様がお許しくださいませんでした。そして……あの事故が、いえ、殺人が起きたのです!」

 (本当は事故だなんて信じられなかった! 調べたかった! しかし、旦那様との約束があったから私は……!)


 オードリューは両手で自身の顔を覆うと花畑に両膝を付いた。

「オードリューさん……」

 アズサはオードリューの隣に膝を付くと彼の背中を労わるためゆっくりと撫でた。ドルトルもオードリューの側に膝を付きその肩に触れたがその行動はオードリューを労わるためのものではなかった。

「イオルドは、トッキシン草の秘密が漏れたとそう言ったんだな?」

 オードリューを労わることなく発せられた言葉にアズサは一言言おうと口を開いたがオードリューがそれを制し、覆っていた掌を顔から離すと深く頷いた。

「はい、旦那様は確かにそう仰いました」

「それで、お前はトッキシン草の使用手段について聞いているのか?」

「どのようにして毒を無色透明、無味無臭にし、体内から検出されないようにするかということですか?いえ、それは聞いておりません」

「そうか……」


 ドルトルはオードリューの返答に深く頷くと数秒目を閉じて黙り込んだが、すぐに瞼を開くと碧眼の瞳で二人を射抜いた。

「実は、今王都では国政に関わる役人や貴族が命を落とす事件が続いている。」

「「?!」」

 ギョッとドルトルを見る二人の様子に気がついていながらも、それには触れずにドルトルは話を続けた。

「現在でも10人が命を落とす原因はまちまちだ。事故死、転落死、溺死……そして毒死」

「「!」」

「事故死、転落死、溺死……これらは皆、暗殺者の仕業だろう。やり方から暗殺者にはある程度目処がついている。だが、この毒死が問題だ。毒死で死んだ者を解剖したところ毒が検出された……猛毒だ。しかし、どれも強い臭いや色があり、隠して飲ませるには不向きなものだ。しかし、死んだものはそれを食事中に知らずに口に入れているのだ」

「それは……!」

 オードリューは思わず、手を花畑に突き、サルラの花達を鷲掴み、自身の肩に触れるドルトルを見上げて目で問う。

 ドルトルはその問いに頷くことで答えた。

「私はこれにトッキシン草が関係しているのと睨んでいる。初めはサンタマール家当主が王家を裏切ったのではと考えたのだが……」

「「そんなことありえません!」」

「だろうな。私が調べたところ、イオルド=サンタマールは逆にこの毒殺を調べていたようだ。きっと、そのために彼は殺されたのだろう」

 ドルトルの考えを聞いた瞬間、オードリューは拳で地面を叩き、額を花々に押し付けた。

 四つん這いの姿になったオードリューの肩は微かに震え、伏せた顔から嗚咽が漏れていた。

「だ、んな様!どうして!どうしてお一人でお調べになったの、ですか!」

「オードリューさん……」

 オードリューの背中を摩りながら、アズサは彼のその姿に胸が苦しくなった……もし、アンナが同じことをすればアズサもオードリューと同じことをするだろう。

「……」

 ドルトルはそんな二人の様子を静かに見ていたが、オードリューの嗚咽が治まってきたのを見て、言葉を続けた。


「私は・・・トッキシン草のことを調べるためにこの町に来た」

「「!」」

 驚いた顔をする二人にドルトルは碧眼の瞳を向けた。

「トッキシン草の秘密を知っているのはサンタマール家当主を除けば、国王である私だけだ。故にこの殺人事件は私が調べなくてはならなかった。まあ、王都で政務してこちらに来て調べて、また王都で政務というような感じだったが・・・ある程度収穫はあった」

「収穫・・・・・・?」

 オードリューが目を見開いてドルトルに目を向けた。彼の目はギラギラと光り、イオルドへの死の復讐ができるのではという期待に満ちていた。

「今、サンタマール家の屋敷、領地、レザン山を管理しているのはフォルト家なのは知っているな?」

 ドルトルの言葉にオードリューとアズサは頷く。

「はい・・・・・・まさかフォルト家が?!」

 オードリューが立ち上がってドルトルに詰め寄ろうとしたが、アズサが彼の右腕を掴みそれを阻止する。

「落ち着いてください、オードリューさん。フォルト家のご当主、ピグリット様はそんな大胆なことができる方ではないと思います。あの方の小心者具合は有名ではありませんか」

「その通りだ。ピグリット=フォルトは白だ、彼は何も知らずにレザン山を管理している」

 アズサとドルトルの言葉に冷静さを取り戻したオードリューは一度大きく深呼吸をするとドルトルに顔を向けた。

「申し訳ありません。取り乱しました」

 オードリューの言葉にアズサは安堵の息を吐き、ドルトルは大きく頷いてみせた。

「気にするな。先程も言ったがピグリットは白だ。しかし、彼が新たに雇った使用人の行動に不審点があった」

「不審点?」

 アンナは首を傾げてドルトルを見上げた。

「その使用人は時々、レザン山に袋を持って入っている」

「では、その男を締め上げればいいのではないですか?」

「その男と接触しようとしていた矢先に・・・殺された。自殺に見せかけてな」

アズサは溜息混じりで答えられた自身の問いの答えに息を飲んだ。

「その後はトッキシン草を採っている者は確認できていない。死んだ男が相当採っていたらしいからな、ほとぼりが冷めるまで採らないのかもしれない」

「ではそれまで調査は中断なさるのですか?」

 オードリューの苛立ちを隠しもしない視線にアズサは彼の袖を引き、ドルトルは不敵に微笑んだ。

「問題ない。その男がトッキシン草をある商人の部下に渡しているのは確認できている」

「!なら」

 オードリューの目が期待に輝くがドルトルは首を横に振る。

「ただ、この商人、王都の上流貴族という貴族に物を売っている男でな。この男を問い詰めても嘘をつかれて終わるだろう」

「では、どうなさるおつもりなんです?」

「この商人が王都の貴族殺しの主犯とは思えん、裏に黒幕の貴族がいるはずだ。王都に帰り、そこを探るしかあるまい」

「「・・・」」

 ドルトルの話に二人は自分達では何もできないことに歯がゆさを感じ、黙って俯いた。


「・・・それでだ」

「「?」」

 ドルトルは一度深呼吸をすると体をもじもじとさせ、今までの真っ直ぐ二人を見ていた瞳が嘘のように目をキョロキョロさせては時々二人に目線を送った。

 そんな様子のドルトルに二人は首を傾げたが、次の瞬間体がピシリと固まらせた。

「アンナを私の正妃にすれば、正妃の家系としてサンタマール家復興の理由になるし、レザン山もサンタマール家に戻ってきて一石二鳥だと思うのだがどうだ?アンナが正妃で王都にいてレザン山の管理が難しいなら、管理はお前達に委託すればいい。お前達なら安全だ」

「「……」」

 ドルトルの話に呆然となっていた二人だが、アズサの方にある考えが浮かんだ。その考え通りであるならば彼女は彼が国王だろうとなんだろうと許せないとドルトルを睨み問うた。

「まさか・・・陛下はサンタマール家にレザン山を管理させるためにお嬢様に近づき、正妃にしたいと仰ったのですか?今サンタマール家がレザン山を管理すればある程度この事件の予防になりますよね?」

 ドルトルは思ってもいなかった問いにギョッと目を開いてアズサを見た。そして彼は確かに見た・・・アズサの後ろにおどろおどろしい怒りのオーラが漂っていることを。

 彼は急いで首を左右に大きく振った。

「ち、違う!誤解だ!私はアンナを愛している!彼女がサンタマール家の者だろうとなかろうと、もっと言えば貴族だろうと庶民だろうと彼女に隣にいてほしいと思っている!」

「……」

 ドルトルは無表情のアズサが今自分を睨みつけているのだとわかった……この短い間に彼は彼女の表情が少し読み取れるようになっていた。

 彼は更に首を左右に振った。オードリューはまさに首が千切れそうな程というのはこのことだと変に感心した。

「ほ、本当に誤解だ。確かに私はアンナを正妃にと思っているが、それもこの事件を全て片付けて、他の諸々も落ち着いてから正妃に迎えようと考えているのだ!」

 アズサは嘘を言っているとは思えない真剣な碧眼の瞳をじっと見つめた。

(確かにこの方はただのロリコン国王ではなかったわけですが・・・)

 アズサの中でドルトルという男はあの喫茶店で会った時の印象よりも良いものになっており、信じてもいいと思えているのだが、それでも彼女にはまだ疑問点が残っていた。

「では、何故この前喫茶店で正妃に迎えたいと仰ったんです?事件が片付いた後でもよかったのでは?」

「私はこれから王都に帰って政務と事件の調査をしなくてはいけない。昨日した9日後の喫茶店で会う約束がこちらに来れる最後の日だろう。その日を過ぎたら私は事件解決までアンナと会えないだろう・・・解決まで一体どれくらいかかるかわからないんだぞ? その間にどこぞの馬の骨にアンナを攫われてしまえば私は狂ってしまう!」

 この国で一番尊い男の言い分にアズサは開いた口が閉じなかった。

「つまり、今のうちに結婚の約束をしてお嬢様をどこにも行かないように縛り付けておきたいと、そういうことですか・・・」

 呆然としてしまい何も言えないアズサの代わりにオードリューが呆れたような声を出しながら問うと、ドルトルは力強く頷き、力拳を作って答えた。

「その通りだ! 情けないとでもみっともないとでも何とでも言えばいい。中年の真の恋はみっともないものだ!」

 その姿にオードリューもアズサも彼のアンナへの想いが偽りだとは思えなかった。オードリューはその国王陛下の様子に顎に手を当てて考え込み、口を開く。

「しかし、事件が早期解決するとは思えませんね。トッキシン草のことを知っているのは陛下だけですし、その陛下はご政務がお有りで思うように動けないでしょうし・・・」

「うっ」

 ドルトルの額に汗が流れる。それは彼も考えていたことであり、この考えがあったからアンナに求婚をしたと言える。

「事件解決は数年掛かるかもしれませんね・・・そうなってしまえばお嬢様は完全な行き遅れになってしまいますね。そうなれば、周りの者から指を刺されるのはお嬢様です。そんなことが許せるかアズサ」

「許せるはずがありません」

「ううっ」

 アズサは首を大きく左右に振る。アンナに早く嫁がれるのは嫌だが、彼女が行き遅れと中傷されるなどもっと嫌だと複雑な使用人心だった。


 そして、そんなアズサにオードリューは大きく頷く。

「そうだな、私もそれは許せない。ですので、国王陛下に私から提案がございます」

「「・・・提案?」」

 ドルトルとアズサの声が重なった。


今回はサンタマール家当主と王都の事件の話になりました。

さて、オードリューの提案とは・・・?

次でやっとタイトルの仮面の意味がわかります!


今回もこのような拙い文章を読んでいただきありがとうございます。


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