似てない兄妹
「いやー。こわいよー。おたすけー」
わたわたとふざける詩雄は、けれど器用に人混みを縫いながら、大きな口を開けたファストフード店に侵入した。
中からは、まだ状況が読めていない様子の客と店員が逃げ出てくる。恐怖と困惑にまみれた意識は、外部から現場に踏みいるという少女の不可解な行動に、違和感を抱く暇が無い。
そこまで来ると、詩雄は馬鹿馬鹿しい演技をやめて悠然とした姿勢に戻す。被害を受けたと見られる気を失った者たちは、邪魔と呟き、ぶっきらぼうに店の外へ放り投げていく。
店内が自分だけになった事を確かめて、辺りを見回したが……上憑の姿は見えなかった。
「――ちょっとぉ、どうせ生きてんでしょ。早く出てきなさいよー。……む」
呼び掛けながら、偶々足下に転がっていた、包み紙が開いていないハンバーガーを手に取る。お腹が空いていたので食べてみる。
「うお、これテレビで見た。最近流行りの、海のライバル仲良しタコイカバーガーじゃん。ふむふむ、中々イケる……じゃなくて」
もふもふしながら前に向き直る。散らかる瓦礫を蹴り飛ばして上憑を探すが、やはり姿は無い。詩雄は若干イラつき、厨房へと――壁を破壊して直進する。
「…………あんにゃろ」
そこにも上憑はいなかった。厨房の奥、裏口が半開きになっている。
歩きながらタコイカバーガーを平らげる。ついでに置きっぱなしの包丁を拝借。
裏口から外に出た先は駐車場になっており、その中心に――服に付いた埃を払う上憑の姿があった。
「……うわ、追って来やがった……」
詩雄を確認した上憑は苦い顔をする。
「……君さぁ、折角ひとがフレンドリーに接してるのにさぁ、いきなりあれはないんじゃない?てかイカレてるだろ。もう君、一般人に顔バレしてる筈だよ」
誰かと接するときのいつもの顔はもうない。際立った表情の変化は無かったが、静かに、上憑は憤慨していた。
そして詩雄と向き合う彼に外傷は見られない。普通なら内臓が潰れてもおかしくない一撃をもらって、上憑は平然としていた。むしろ、服の心配を優先している。
「お生憎様。モブにどう思われようが知ったこっちゃないの。どのみち明日が最後だし」
包丁の刃先を人差し指に立て、器用に回す。詩雄の姿勢に変わりはなく、余裕に満ちている。
先程の突拍子も無い行動、見るからに傲慢な態度、禍々しい雰囲気。この女はただのシンカではない、上憑は思った。
どちらかと言えば自分たちに近いものを感じる。恐らく豪快な一面を見せたのは今回が初めてではない筈。だというのに何故こんな奴が今まで、こんな風に街中を彷徨けていたのか。
……けれど、すぐに答えは出た。元から気にしていないんだ。でなければあんな真似はしない。つまりこの女は、本気で狂っている、と。
「つうーかあ、警察が来る前にさっさと終わらせたいのよ。ねぇ、おじさん。痛い目に遭いたくなかったら、あんたんとこの組織の情報、教えてくんない?」
包丁を上憑に向ける。ニコっと愛らしい微笑みも忘れずに。
「……君、名前は?」
「詩雄」
「詩雄……詩乃……、君も僕たちの事を知りたいのか。兄妹か」
「だから?」
「――似てねぇぇ……けど、やはり君たち、何か知ってるんだな。それなら、ますます仲間にしたくなった。でも……まず、詩雄ちゃん。君はおいたが過ぎるから、少し教育が必要だね」
「――ぁ?」
愛らしい顔の眉間にシワが寄る。包丁を振り上げ投擲。顔面に迫る刃を、上憑は二本指で挟み止める。
「物騒な女。そういう所を、教育してやろうって言ってるんだよクソガキ」




