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廃鉱山の風道

 廃鉱山の奥へ進むには、空気が足りなかった。


 灯り石の火が弱くなる。


 息が重い。


 アルトはすぐに引き返した。


「今日はここまでです」


 レムが驚く。


「まだ歩ける」


「歩けるうちに戻ります」


 ミナはうなずいた。


「いい判断」


 外に出ると、ロッコが大げさに胸をなで下ろした。


「生きて戻る職人は、商売上たいへん価値があります」


「死んだ職人は?」


 ニコが聞く。


「帳面に載せたくありませんな」


 廃鉱山を使うには、風の道が必要だった。


 ダン老人が昔の記憶をたどる。


「山の反対側に、細い抜け穴があったはずだ。子どもの頃、風が鳴る穴と呼んでおった」


 ミナはすぐ人を分けた。


「探す組と、入口を守る組。ニコは」


「入口!」


「なぜ先に言う」


「留守番って言われる前に」


 結局、ニコは入口で絵札を描く係になった。


 山の反対側には、草に埋もれた穴があった。


 大人が通るには狭い。


 だが、風は確かに出ている。


 アルトは穴の周りの石を見た。


 崩れているが、完全には塞がっていない。古い金網と、折れた鉱車の板が使える。


「広げすぎると崩れます。風だけ通します」


 ミナが確認する。


「人は通れないまま?」


「はい。魔物も入りにくい方がいいです」


「それで」


 アルトは穴の入口を整えた。


 崩れた石を外し、鉱車板で上を支える。古い金網を伸ばし、獣が入らないよう固定する。割れた筒をつないで、奥へ風が抜けるようにした。


 レムが筒を持つ。


「まっすぐじゃない」


「曲がっていても、風は通ります。詰まらなければ」


「人も?」


 レムが小さく聞いた。


 アルトは少し考える。


「たぶん、人もです」


 レムは何かを飲み込むようにうなずいた。


 風道が通ると、鉱山の入口で灯り石の光が強くなった。


 ミナが手をかざす。


「風が動いてる」


「これで奥の作業時間を少し伸ばせます」


「少しだけ」


「はい」


 アルトは先に言った。


 ミナの目が少しだけ柔らかくなる。


「覚えてきた」


 奥へ入ると、古い鉱車が見つかった。


 車輪は壊れている。線路も途切れている。


 けれど、荷台は浅い箱として使える。


 アルトは車輪を外し、底へ滑り板をつけた。


「鉱車そりにします。引けば、鉄片をまとめて運べます」


 ロッコが入口から叫ぶ。


「そりなら橋でも軽く渡せますな!」


 ミナが答える。


「叫ばない。石が落ちる」


「へい」


 鉱車そりが最初の鉄片を運び出した時、村人たちは拍手しなかった。


 代わりに、すぐ次の荷を積んだ。


 それが一番うれしい反応だった。


 使える道具は、使われる。


 夕方、鉱山の入口に新しい札がかかった。


 風道を塞がない。


 一人で入らない。


 灯りが弱くなったら戻る。


 ニコの絵は少し怖かった。倒れた人の絵が妙にうまい。


「これなら戻る」


 ミナが評価する。


 ニコは得意げだった。


 アルトは風道から流れる冷たい空気を浴びた。


 鉱山は、ただの危ない穴ではなくなった。


 村の鉄を生む場所になりつつある。


 捨てられた山の奥にも、まだ仕事が残っていた。


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