王都工房の偽物修理
最初に違和感に気づいたのは、レムだった。
ガラクタ市に持ち込まれた手押し車を見て、彼は眉を寄せた。
「これ、直ってない」
持ち主の男が慌てる。
「王都工房で修理済みと言われたんだぞ。高かった」
手押し車は、見た目だけはきれいだった。
新しい塗料が塗られ、金具も光っている。
だが、アルトが車輪を持ち上げると、軸が嫌な音を立てた。
古い割れを隠すように、表面だけ金具がかぶせてある。
荷を載せれば折れる。
ミナの目が冷たくなった。
「使った?」
「まだ。帰りに荷を積むつもりで」
「積まなくてよかった」
男の顔が青くなる。
ロッコが帳面を開いた。
「王都工房の印は本物ですな。ただ、これを主任が見たかは別です」
アルトは黙って手押し車を見た。
バルドなら、こんな雑な修理を許すだろうか。
王都工房の看板を守る男だ。
見た目だけ整えた危険物は、彼の価値観とも違う。
ミナが言う。
「王都全部を敵にしない。まず、何が危ないか見せる」
「確認台を作ります」
アルトは即答した。
「確認台?」
「荷を載せる前に、車輪や軸が持つか試す台です。壊すためではなく、壊れる前に見つけるための」
材料は、旧砦の厚い板、壊れた石臼の台、鉱車そりの余った輪。
アルトは作業小屋の前に、低い台を組んだ。
手押し車を載せ、重りの石を少しずつ増やす。危ない音がしたら、レムが印をつける。ニコは絵札を持って、近づきすぎる人を止める。
「危ない顔した車輪」
「顔ではなく音」
「音の顔」
ミナは止めなかった。
「わかるならいい」
確認台に手押し車を載せる。
石を一つ。
二つ。
三つ。
ぎしり、と軸が鳴った。
アルトが手を上げる。
「ここまでです」
次の瞬間、隠れていた割れ目が開いた。
男が息をのむ。
「帰り道で折れていたのか」
「重い荷を載せれば」
アルトは表面の金具を外した。
中の木は腐り、古い割れはそのままだった。
ロッコが低く言う。
「見せかけ修理ですな」
周囲の村人がざわつく。
王都工房で直したから安全。
その信頼が、音を立てて崩れた。
アルトは手押し車を完全に元へ戻すことを諦めた。
荷車としては危ない。
だが、平地で軽い薪を運ぶ台車にはできる。
「重い荷は駄目です。薪や布だけ。坂も駄目」
ミナが札を書く。
軽い荷だけ。
坂道禁止。
割れ音がしたら止める。
男は札を見て、深く頭を下げた。
「危ないまま帰るところだった」
アルトは首を振る。
「持ち込んでくれて助かりました。知らないままだと、誰かが怪我をします」
その日のうちに、ロッコは王都へ手紙を書いた。
宛名はバルド。
内容は短い。
王都工房印の見せかけ修理品あり。
確認台で危険確認。
再生村で用途変更済み。
ミナが手紙を読む。
「挑発に見える」
「事実だけですぜ」
「事実が一番刺さる時がある」
ロッコは肩をすくめた。
王都では、その手紙を読んだバルドが無言で立ち上がった。
書類の角はそろっている。
だが、指先が白くなるほど紙を握っていた。
「誰が、この修理を通した」
職人たちは誰も答えない。
バルドの声は静かだった。
「王都工房の看板を、安い塗料で汚した者を探せ」
再生村を軽んじた王都側の歪みが、王都工房自身へ返り始めていた。




