ミナの村長会議
再生村に、四つの村の村長が集まった。
壊れた鍋を抱えた村。
井戸縄の切れた村。
橋板が腐った村。
粉挽きを借りたい村。
広場は市の日より静かだった。
誰もが笑っていない。
困っているから来たのだ。
ミナは作業小屋の前に立った。灰色の外套は古いままだが、腰の真鍮鍵だけは磨かれている。
アルトは、ミナの指が鍵の輪をいつもより強く握っているのに気づいた。
無料で全部受ける、と言えば楽だった。
その場の顔は明るくなる。
けれど、その後に倒れるのは再生村だ。
ミナは一度だけ息を吸い、村長たちを見た。
「最初に言います。再生村は、何でも無料で直す場所ではありません」
年配の村長が眉をひそめる。
「困っている村から取るのか」
「取ります」
ざわめきが起こる。
アルトは思わず前へ出かけたが、ミナは視線だけで止めた。
これはミナの仕事だ。
「ただし金だけではありません。食料、木材、鉄片、人手、見張り、道の補修。出せるものを出してもらう。そうしないと、この村が倒れる」
ロッコが帳面を広げる。
「倒れた工房は、誰の鍋も直せませんぜ」
別の村長が聞いた。
「順番はどう決める」
ミナは板を出した。
「水。飯。火。怪我を防ぐ物。道。商売。その順」
「うちの祭りの鐘は」
「後」
「村の大事な鐘だ」
「今鳴らなくても、水は飲める?」
相手は黙った。
ミナの声は冷たくない。
ただ、順番を譲らない。
アルトはその背を見ていた。
自分なら、困った顔をされれば全部引き受けていた。
そして倒れて、結局誰も救えなくなっていた。
ミナはそれをしない。
だから村が続く。
会議の途中、王都工房の話が出た。
「王都に逆らって大丈夫なのか」
橋の村長が不安げに言う。
「王都工房は、規格外の修理を危険だと言っている」
彼は折りたたまれた紙を出した。
王都工房の印が押された通達だった。
王都工房以外の修理品は保証しない。
事故が起きても、王都は責任を負わない。
危険を避けたい者は、王都工房へ依頼すること。
言葉は丁寧だった。
だが、辺境の村には「黙って王都へ金を払え」と読める紙だった。
アルトは前へ出た。
「危険なものは危険だと書きます。元通りにできないものは、別の用途にします。橋板なら、人は渡れても荷車は駄目、と札をつけます」
レムが、作っておいた札を持ってくる。
人だけ。
荷車は軽く。
飲まない水。
火のそばに置かない。
字の横には、ニコの絵がある。
村長たちがそれを見て、少し表情を変えた。
難しい規格ではない。
誰が見てもわかる約束だ。
ロッコが言う。
「王都の紙より、現場の札が事故を減らすこともありますぜ」
ミナは最後に、全員へ向き直った。
「この会議で決めたいのは、助け合いではなく、続く約束。再生村だけが得をしても続かない。ほかの村だけが頼っても続かない」
真鍮の鍵が、彼女の指で小さく鳴る。
「壊れた物を持ち込むなら、直した後の使い方も一緒に覚える。材料を持ち込むなら、どこから来た物か記録する。人手を出すなら、見習いとして覚えて帰る」
沈黙の後、一番年配の村長がうなずいた。
「若いのに、厳しい」
「厳しくしないと、子どもが食べられません」
「その通りだ」
会議は夕方まで続いた。
決まったことは多くない。
だが、最初の依頼順と、交換の形と、使い方を覚える約束ができた。
広場の板に、四つの村の印が並んだ。
ニコがそれを見上げる。
「仲間?」
ミナは少し考えた。
「まだ、約束相手」
「仲間じゃないの」
「約束を守ったら、仲間になる」
アルトはその答えが好きだった。
夜、ロッコが帳面を閉じる。
「辺境の村長会議。王都が聞いたら、嫌な汗をかきますぜ」
ミナは火を見つめた。
「汗だけで済めばいい」
アルトは広場の依頼板を見た。
再生村は、周辺村の暮らしまで背負い始めていた。
だからこそ、背負い方を間違えてはいけない。




