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世界が呼吸する場所で、君と出会った  作者: 優耀
ふたりたび

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27/32

揃う風

更新遅くなりました、、、

風は止んでいた。


 いや、正確には違う。


 止んでいるように“揃っていた”。


 丘の上へ続く獣道。草は揺れている。木々も鳴っている。けれど、その揺れ方が妙だった。右から吹けば右へ、左から吹けば左へ、本来ならばばらばらになるはずの動きが、まるで見えない拍に合わせられている。


 ざわ、ざわ、ざわ。


 一定。


 呼吸のように。


 リュカは無意識に足を止めた。


「……まただ」


 胸の奥が浅くなる。


 耳鳴りに似た感覚。けれど音ではない。頭蓋の内側を薄く撫でるような圧迫感。


 隣を歩いていたミアが、不意に眉を寄せた。


「今、変だった」


「ミアも分かるのか?」


「分かるっていうか……」


 彼女は自分の喉元を押さえた。


「息するタイミング、間違えそうになる」


 その言葉に、リュカは妙な寒気を覚えた。


 “間違えそうになる”。


 それはつまり、本来の自分の呼吸ではないものに引っ張られている、ということだ。


 ざわ、ざわ、ざわ。


 風が鳴る。


 木々が擦れる。


 そしてその間に、自分たちの呼吸まで混ざり始めている。


「……戻るか」


 反射的に口から出た。


 丘へ行く理由ならあった。昨日から帰っていない羊を探しに来たのだ。けれど今は、それよりも“ここに居続けること”そのものが危険に思えた。


 だが。


「待って」


 ミアが小さく言った。


 視線の先。


 道の脇、少し窪んだ場所に、白いものが見えた。


 羊だった。


 倒れている。


 二人は顔を見合わせ、慎重に近づく。


 羊は生きていた。だが眠っているようでもあり、気絶しているようでもあった。腹は上下している。傷もない。


 けれど。


「……なんだ、これ」


 リュカは思わず呟いた。


 羊の呼吸。


 草の揺れ。


 枝葉の擦れる音。


 全部が同じ間隔だった。


 吸って。


 止まって。


 吐く。


 ざわ。


 吸って。


 止まって。


 吐く。


 ざわ。


 まるで見えない指揮者が、この場すべてを一つにまとめているみたいだった。


 ミアが後ずさる。


「気持ち悪い……」


 その瞬間だった。


 羊の耳が、ぴくりと動く。


 閉じていた瞼が、ゆっくり開いた。


 そして。


 ぴたりと。


 ミアを見る。


 ぞわ、と背筋が粟立つ。


 動物の目じゃなかった。


 空っぽなのに、視線だけが合っている。


 その違和感。


 リュカは咄嗟にミアの腕を掴んだ。


「下がれ!」


 叫ぶより早く。


 羊が立ち上がる。


 不自然なほど静かに。


 四肢が同時に動いた。


 普通の生き物なら生まれるはずの“ずれ”がない。


 完璧すぎる動き。


 まるで。


 最初から決められた動作をなぞっているみたいに。


 そして羊は、一歩だけこちらへ近づいた。


 ざわ。


 その瞬間、風まで同じ拍で鳴った。


 ミアが息を呑む。


 ――合った。


 一瞬だけ。


 この場の全部と、羊の動きと、風の音と、自分たちの呼吸が。


 完全に。


 揃った。

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