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世界が呼吸する場所で、君と出会った  作者: 優耀
ふたりたび

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25/32

均しの侵食

 揃った拍は、前からも来ていた。


 風が吹く。強さが、同じだ。


 葉が鳴る。高さが、同じだ。


 足音が、地面に吸われる。間が、同じだ。


 リュカは、わざと歩幅を崩した。


 一歩だけ大きく踏み込む。次を短くする。


 それでも、三歩目で戻る。


 身体が、勝手に合う。


「……気持ち悪いな」


 言うと、隣でミアが息を浅くした。


「うん」


 短い返事。間が、揃いかけている。


 リュカは意識して、吸うのを遅らせた。


 吐く長さを変える。


 胸の奥に、わずかな引っかかりが戻る。


「ミア、呼吸」


「……分かってる」


 肩が、不規則に揺れる。


 その揺れだけが、この場で浮いている。


 道の先に、薄い跡が並ぶ。


 ひとつ。ふたつ。みっつ。


 数えるための印みたいに。


 中心を避けるように、二人は歩く。


 靴底の下で、何かが抜ける。


 踏んでいるのに、残らない。


 押し返しが、来ない。


「……歩きづらいな」


「軽いけど、引っかからない」


 ミアの言葉は、昨日の軽さと違う音をしていた。


 良い、ではない。


 楽、でもない。


 ただ、通る。


 それだけ。


 風が、止んだ。


 ぴたりと。


 遅れて、音がひとつ消える。


 そして――


 足音が来た。


 乾いているのに、湿っている。


 軽いのに、重い。


 一定でないのに、揃っている。


 リュカは顔を上げる。


「……来る」


 ミアはもう見ていた。


 跡のひとつで、空気が歪む。


 影が、遅れて浮く。


 輪郭が曖昧で、地面に触れていない。


 それでも、そこにいる。


「……静かすぎる」


 ミアの声が低い。


 影が、一歩踏み出す。


 音が、一拍遅れてついてくる。


 ズレているのに、合っている。


 影が、跳ねた。


 低く、横に。


 一直線ではない。


 けれど、迷わない。


 跡をなぞる。


 最短で、来る。


「来るぞ!」


 リュカは横へ崩れる。


 前には出ない。


 地面を強く踏む。


 わざと音を散らす。


 間を崩す。


 影の動きが、ほんの一瞬だけ鈍る。


 その隙に、ミアが手を伸ばした。


 触れない。


 ただ、沿わせる。


 吸う。


 止める。


 吐く。


 場から外れる。


 空気が、ほんの少しだけ歪む。


 影の進路が、わずかに逸れる。


「右!」


 石を掴み、投げる。


 少し先へ。


 音が散る。


 影が、引かれる。


 だが、戻る。


 跡へ。


「……戻るのかよ」


 リュカは歯を鳴らす。


 逃げない。


 離れない。


 そこに、合わせ直す。


「倒せない」


 ミアが言う。


「分かってる」


 崩すしかない。


 リュカは踏み込む。


 強く。


 大きく。


 間を壊す。


 呼吸を外す。


 影が、止まる。


 揃いが、ほどける。


「今!」


 ミアが、通す。


 溜まりを逃がす。


 空気が、抜ける。


 一瞬。


 跡に、穴が空く。


 影が揺れる。


 進めない。


 戻れない。


 ただ、迷う。


「走る!」


 二人は同時に動いた。


 揃えない。


 崩したまま。


 ばらばらに。


 地面を蹴る。


 足音が散る。


 呼吸が乱れる。


 背後で、追う気配。


 だが、遅い。


 揃え直している。


 距離が開く。


 風が戻る。


 今度は、ばらばらに。


 葉が、それぞれ違う音で鳴る。


 ようやく、音が散った。


 しばらく走って、二人は止まる。


 肩で息をする。


 不規則な呼吸。


 自分の呼吸。


「……はぁ……」


 胸が熱い。


 重さが、ちゃんとある。


「ミア、大丈夫か」


「……うん」


 彼女の肩も、ばらばらに上下している。


 それを見て、リュカは少しだけ息を落とす。


 揃っていない。


 それだけで、安心する。


 ふと、背後を振り返る。


 何もいない。


 影も、跡も見えない。


 なのに――


 耳の奥で、まだ鳴っている。


 刻む音。


 同じ間隔。


 同じ高さ。


 ここにはないはずの拍。


 ミアの指先が、わずかに震えた。


「……これ」


 息が、少し浅くなる。


「消えてない」


 リュカは、もう一度前を見る。


 道の先。


 薄く、同じ跡が続いている。


 ひとつ。


 ふたつ。


 数えなくても、分かる。


 増えている。


 そして、そのさらに奥。


 木立の隙間で――


 誰かが、一歩だけ動いた気がした。


 音は、遅れて、同じ拍で届いた。

面白い、続きが気になると思って頂けましたら、

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