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世界が呼吸する場所で、君と出会った  作者: 優耀
ふたりたび

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22/32

測る人

本話は2話連続投稿の2話目です

 対岸に、人影があった。


 長い外套。細い杖。年齢は分かりづらい。

 若くも見えるし、年老いても見える。


「旅の人か」


 リュカが声をかける。


 その人物は、ゆっくりと振り向いた。


「ええ。あなた方も」


 声は穏やかだった。


「ここ、昨日より軽いね」

 

 リュカは軽く話した。

 その人は、沢を見ながら言った。


「整えましたから」


 さらりと言う。


 ミアの指が、わずかに動く。


「……整えた?」


「ええ。少しだけ。流れを計り、滞りを外しました」


 杖の先に、淡い光が宿る。

 派手ではない。

 だが、確実に意図がある。


「計った?」


「ええ」


 その人は、地面に小さな金属の板を置いた。

 刻印があり、微細な線が刻まれている。


「歪みは感覚ではなく、変動です。

 変動は観測できる」


 ミアの視線が、鋭くなる。


「……観測して、どうするんですか」


「安定させる」


 即答だった。


「溜まれば、溢れる。

 溢れれば、壊れる。

 ならば、均す」


 リュカは、その言葉を理解できた。


 村のことを思い出す。

 街のことを思い出す。


「それで、ここは?」


「軽くなったでしょう」


 事実だった。


 息が、楽だ。


 ミアは、沢の水に手を浸す。


 流れは確かに通っている。

 だが――


「……きれいすぎる」


 ぽつりと言う。


 旅人は、微笑む。


「不自然ですか?」


「少し」


「安定は、不自然に見えることがあります」


 その言葉に、ミアは黙る。


 リュカは、二人を見比べる。


「それって……悪いことなのか?」


 自分でも分からない問いだった。


 旅人は答える。


「いいえ。

 人は安定を好む」


 ミアは、静かに言う。


「でも……動きが、なくなる」


「動きすぎるよりは、良い」


 思想が、初めて交わる。


 争いではない。

 音のない圧。


 リュカは、沢をもう一度見る。


 確かに、楽だ。


 だが、昨日の水音とは違う。


「……全部、整えるんですか」


 ミアが聞く。


「必要なところは」


「誰が、必要って決めるんですか」


 旅人は、少しだけ目を細めた。


「計測値が」


 ミアは、何も言えなかった。


 間違っていない。

 理屈は、通っている。


 けれど――


 胸の奥が、少しだけ重い。


 リュカが、その沈黙を感じる。


「……俺は」


 二人が、彼を見る。


「昨日の水も、嫌いじゃなかった」


 それだけだった。


 旅人は、笑う。


「感覚は大事です。

 ですが、感覚は揺れます」


 ミアは、小さく息を吸う。


「……揺れても、いい」


 それは、反論ではなかった。

 願いに近い。


 旅人は、それ以上言わなかった。


「旅は続きます。

 いずれ、また」


 そう言って、静かに去っていく。


 沢は、整ったままだ。


 リュカは、ミアを見る。


「……どう思う」


 ミアは、少し時間をかけて答えた。


「……分からない」


 初めてだった。


 ミアが、はっきりと迷った。


 水は流れている。

 でも、少しだけ、音が変わった。


面白い、続きが気になると思って頂けましたら、

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