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世界が呼吸する場所で、君と出会った  作者: 優耀
ふたりたび

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20/32

水音

水の音が、先に聞こえた。


 高くも低くもない、細い流れの音。

 岩に当たっては跳ね、また集まり、途切れず続いている。


 道を外れて少し進むと、小さな沢があった。

 幅は狭いが、水は澄んでいる。底の小石がはっきり見えた。


「……いい場所」


 ミアが言う。


 さっきまでの重さが、嘘みたいに薄れている。


 リュカは膝をつき、水に手を浸す。


「冷たいな」


「うん、軽い」


 ミアも隣に座る。

 指先を水に触れさせると、小さく波紋が広がる。


 その波紋を、じっと見つめる。


「……ここ、流れてる」


「さっきは溜まってたな」


「うん」


 ミアは目を閉じ、ほんの少しだけ手をかざした。


 風が、ふっと抜ける。


 魔法というほど大きなものではない。

 ただ、流れを整えるだけ。


 水面が、一瞬だけ滑らかになる。


 リュカが、それを見て言う。


「それ、便利だな」


「便利って言うと、ちょっと違う」


「違うのか?」


「直してるわけじゃない。

 ちょっとだけ、通りやすくしてるだけ」


 リュカは、石を拾って水に投げる。

 波紋が重なる。


「俺も似たようなもんだ」


「どういう意味?」


「さっきの魔物も、倒してない。

 ちょっとだけ、通りやすくしただけ」


 ミアは、少しだけ驚いた顔をしてから、笑った。


「ほんとだ」


 しばらく、二人は何もせず、水を眺めた。


 日差しが強くなり、風が少し温む。


「腹、減ってないか」


「ちょっと」


 簡単な干し肉とパンを取り出す。

 豪華ではないが、沢の音があるだけで味が変わる。


 ミアは一口食べて、ふと呟く。


「こういう時間、好き」


「戦ってないからか?」


「ううん。

 ……一緒に、何もしてないから」


 リュカは、言葉に詰まる。


「何もしてないって言うな。

 ちゃんと休んでる」


「それ」


 ミアは、少しだけ近づく。


「休めるって、すごいこと」


 沢の上を、小さな光が跳ねた。

 ミアの指先が、水をすくい、軽く払っただけだ。


 水滴が空中で一瞬きらめき、消える。


「それ、魔法か?」


「……たぶん」


「曖昧だな」


「大きいのは、あんまり好きじゃない」


「派手なのは?」


「疲れる」


 リュカは笑う。


「俺も」


 沈黙が落ちる。

 でも、気まずくない。


 沢の音が、会話の代わりになる。


 しばらくして、ミアが言った。


「ねえ」


「ん?」


「もし、どこにも行かなくてよくなったら」


「うん」


「こういう場所、探して暮らすのも……ありかな」


 リュカは、少し考える。


「……そのときは」


「そのときは?」


「ちゃんと、家建てる」


 ミアは、吹き出す。


「焚き火じゃなくて?」


「屋根付き」


「窓も?」


「ある」


 沢の音に、笑い声が混ざる。


 世界は、今日も少し重くて、少し軽い。


 でも今は、ただ流れている。


 二人は、もう少しだけ、そこにいた。

面白い、続きが気になると思って頂けましたら、

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