回り道
道は、細くなった。
踏み跡はあるが、迷いが混じっている。
誰かが通ったが、誰も続かなかった道だ。
リュカは、足元を確かめながら歩く。
転がる石の位置、崩れやすい土の色。正面に進むより、横に逸れる方が安全だと分かる。
「さっきの……」
ミアが、歩きながら言う。
「逃げたこと?」
「うん」
責める響きはない。確認だ。
「正解だと思う」
リュカは、即答した。
「入ったら、終わってた。
倒せても、続かない」
「……分かる」
ミアは、少しだけ肩の力を抜いた。
「ここ、通り抜ける場所じゃない。
溜める場所」
「街の空き地みたいな?」
「似てる。
でも、もっと古い」
世界が、用途を変えられないまま残している場所。
人が使うには重すぎ、放っておくには深すぎる。
二人は、正面を避けるように歩く。
回り道だ。
「遠回り、嫌い?」
ミアが聞く。
「嫌いじゃない」
「即答だね」
「近道で、痛い目を見たことが多い」
ミアは、小さく笑った。
「……私も」
道は、緩やかに下る。
空気が、少しずつ軽くなるのが分かる。
リュカは、後ろを振り返らない。
背中に、まだ重さはあるが、引き戻される感じはない。
「ねえ」
「ん?」
「さっきの場所、
私が触ったら……楽にはなった」
「でも?」
「たぶん、動いた」
リュカは、歩みを緩める。
「動くのが、悪い?」
「……分からない。
でも、今じゃない」
それで十分だった。
道の脇に、小さな流れが現れる。
水は澄み、音は軽い。手を浸すと、冷たい。
「休む?」
「少し」
二人は腰を下ろす。
距離は、自然と近い。
「回り道ってさ」
リュカが言う。
「目的が分からないと、
無駄に見えるよな」
「うん」
「でも……」
言葉を探す。
「歩いてると、
続いてる感じがする」
ミアは、水面を見つめたまま頷いた。
「止まらないから」
「そう」
回り道は、止まらないための道だ。
しばらくして、立ち上がる。
正面ではない方向へ、足を向ける。
「こっち」
ミアが指す。
「軽い」
リュカは、その言葉を信じた。
遠回りでもいい。
今は、それが一番まっすぐだった。
二人は、歩き続ける。
世界は、まだ先にある。
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