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52話 長く感じる今月

 数日後、学校の休み時間に新座(にいざ)黄麟(キリン)三郷(みさと)楽阿(ラクア)に様子を聞きにきた。能力者になったお祝いの会で触れた、ラクア自作トランプゲームの件だ。キリンは同級生で十四人目の能力者。なった順番をトランプになぞらえて覚えられるよう、ラクアはゲームに使う絵柄を差し替えていた。そこに十四のナンバーを追加するという編集は、果たしてうまくいったのか。

 恐らく苦戦しているとキリンは思う。ラクアのチャットのアイコンはそのトランプだったのが変更されている。きっと編集中の合図で、完成していたらアイコンも戻しているはずだ。


「あのときは悪かったな。俺が転校すれば、トランプを直さなくて済むなんて言って」

「ああ……いいって。過ぎたことだし」


 だがラクアは気にしていなかった。その話自体たった今まで忘れていたくらいだ。仮に完成しても、キリン以降も能力が目覚める同級生が現れる可能性はある。だがもう彼のトランプには関係のない話だ。用済みになってからは触れておらず、ノベルゲーム作成に戻ったり、新しい約束に向けた準備を始めている。


「できたのか? 十四までのソリティア」


 キリンはラクアのやろうとしていることが難しいのか実はそうでもないのか、あらかじめ調べていた。結果、前例がないと分かった。だから彼は手を貸せず、ラクアならどうしたかを知りたい。


「……作ってない。十三までのままだ」


 ラクアの方針は諦めだった。彼もナンバー一つ増やすのはルールに影響を与えることと理解しており、増やしてゲームをプレイできるように直せたものの列数や初期配置はノータッチでいいかと悩んだ。

 そこで彼は、そもそも悩まなくて済む方向に進んで楽になった。だがキリンを仲間外れにしたわけではない。


「……俺は」

「ああ悪い悪い、ちゃんと入れた。代わりに俺がズレて、チシロとセットのナンバー十二。なったの同じ日だし」


 パソコンは自室なのでこの場で見せることはできず口頭で説明する。ラクアと水天宮(すいてんぐう)千城(チシロ)は同日に能力者になった。今までは二人を十二、十三としていたが、同日であることを表現するにはどちらも十二にする方が望ましい。すると十三が空くからキリンを割り振ればいい。これが一番楽な解決策を気づかされた彼は、絵柄だけ変えて一件落着だ。


「そうか……じゃあ、もう一人増えたら」

「お手上げ。だからそうなる前に元のトランプに戻した」


 他のメンバーは別の日に能力者になったから、もう同じ手で対処できない。追加するならルールも考えることは避けられない。そこでラクアは、そもそもトランプの絵柄を元のに変えた。ナンバーとメンバーを関連させる遊びはもう終わりだ。



 キリンと話したときのラクアはその判断に微塵も至っていなかったから、聞いて驚くのも無理はないと思う。ラクア自身、一人では思いつかなかった。以前このゲームを遊ばせてあげると約束した相手に、直すから少し待ってと伝えたら、彼女に提案されたのだ。


「確かに増やしてルールも直せばいい。けどルールを複雑にしたら、数字で順番を覚える余裕なんてねえんだ」

「……確かに」


 ゲームのルールを頭に入れていることは前提で、ナンバーと顔写真で能力覚醒順を覚えられる。それがラクアのゲーム独自の良さ。ルールを変えたら攻略に関係ない絵柄を見ている場合ではなく、彼ので遊ぶ必要がない。

 かといって放置しておけば、今後現れた能力者はゲームに反映できない。その問題を解決するために、元の絵柄に戻して問題ごと封印した。

 発端はラクアがたまたま十三人目だったから始めた遊びであり、そうでなかったらトランプの絵柄を彼らの写真にしようという発想に至らなかった。始めたこと自体が偶然だから、諦めるのは惜しくない。


「だからあのゲームのことは忘れてくれ」

「じゃあチャットのアイコンは……」

「もうあれは使わない」


 キリンはラクアのアイコン変更の疑問が解決した。編集にてこずっているSOSではなく、過去のことと割り切った証明だったのだと。


「……ってことはもうアイリに?」

「ああ、凄いぜあいつ。全然関係ない話をしながらクリアするんだもの」


 過去になったのなら約束はもう果たしたことになる。キリンはラクアに、好きな子を家に呼んで一緒に遊んだのかと尋ねる。ラクアは頷き、その日の気づきを話した。同じ小学校の頃は知らなかった一面を、興奮しながら伝える。


「……きっとたくさん練習したんだよ」

「絶対そう。最初に遊び方ちゃんと読んでたけど、絶対俺を騙す気だった」


 そんな芸当ができるくらい実力をつけていた。頑張った成果だとキリンは考えると、それを台無しにするようなナンバー追加のアレンジを止めて正解だったと思える。むしろ彼女が、練習を無駄にしたくないからルールを変えない案を出したようにも思えた。


「とにかく良い思い出になって良かったよ。これでラクアのゲームも」

「あっ、待て。その話は内緒で」


 キリンは能力者になってラクアの"同期"に加わり、彼らの課外活動であるノベルゲーム作成に参加した。彼はラクアが自身と好きな子をモデルにした恋愛もののストーリーを作っていると知り、今回の出来事はネタにできて良かったと思った。

 だがラクアは口を塞ぐ。ゲーム作成は公言しているが、中身は部外者に内緒にしている。どこで誰に聞かれるか分からない学校で、話題にされるのは困る。



「正直お前にも知られたくなかったけど、その話は外でやるな」

「わ、分かった。ごめん」


 能力が目覚めるのは突然のことだから、キリンが今月そうなったのはラクアにとっても誤算だった。ただ"同期"に加わった以上、やると決めたことは協力してやらないといけない。だからせめて、無関係な人にまで知られないよう注意する。

 一方キリンは人に知られたくないゲームを作り始めたわけではない。恥ずかしいなら始めなければよかったのにとラクアに言い返したくなるが、彼の名誉のためにも言われた通りにした。


「とにかく来月になればもうメンバーは増えない」

「四月組だものね、中三の」


 現状"同期"の区分は月を跨がない。だから来月になってから能力者になる分には、"同期"として加入してこないのでゲームの中身を明かさなくて済む。ラクアは妙に長く感じる今月が早く終わってほしいと願った。長いと思うのは、能力者になって他校生との関わりができて、新しいことも始めたからであり、あくまでも体感的なものだ。


「今月って三十一日じゃないのか」

「そこはラッキーだよ」


 日数の多い月でないことがせめてもの安心できる点だった。三十日が最後なのをキリンは残念がるがラクアとしては最終日までのカウントダウンが少し少なくて気持ち的に楽だ。


「でもよその学校ならいいでしょ?」

「まあそうだな」


 話は月の日数から逸れて、"同期"に学校の壁はない。同学年で同じ月に能力者になった仲間を指し、彼らにも二人いる。その距離の相手なら、今月中にまだメンバーが加入しても彼らとは面識がないわけで、妥協して歓迎できるとラクアは思った。

 片想い相手をモデルにしたヒロインを、彼自身がモデルの主人公で攻略するという、未練を晴らすための自分中心のゲームを作っている事実を知られても、精神的ダメージは少ない。気持ち悪いと思われるのは嫌だから、知られる範囲が狭いに越したことはないのだが。


「ところでこの前の写真の反応は?」

「反応? ああ、安心しろ。見せてない」


 次にキリンが聞いたのは先日ラクアが男装女子カフェで撮ったチェキへの反応。しかし彼は穏便に済ませていた。家に呼んだときにうっかり見られないように、店員とのツーショットをトリミングしておいた。ポーズもトランプで十三を意味するKを指で表現しただけの自然なもので、趣向を覗かれるものではなくしておいた。

 好きな子にもし見られていたらどんな顔をされたか気になるが、危ない橋を渡る真似はしない。無難に乗り切ったラクアを見て、キリンは少しつまらないと思った。



 帰宅後、ラクアはパソコンを起動する。トランプの件が片付いた今、作業はノベルゲームに集中できる。学校でキリンが言っていたように、トランプ絡みでの収穫は大きい。ヒロインのモデルへの理解が深まったから、キャラクターの構成が一層具体的になる。


 特に使命。物語においてキャラクターがどんな目的を持っているか。これは前々から練っており、ヒロインの使命は自身の味の好みを理解してくれる人と会うこと。その味はハッカ味で、ラクアは今もその良さが分からない。だがこれは彼女の味覚が少数派であり、だから彼女は理解者を求める。反対派に叩かれることから守ってくれる存在うを。これはモデルと同じだから、モデルへの理解度が上がることがそのままキャラクターの掘り下げに繋がる。


 ラクアは彼女が使命に関してどんな行動をしているかは、トランプで遊んでもらいに家に呼んだときに一部知った。それはインテリアの手作り。ミントの香りで心を落ち着かせるもので、彼もパソコン作業でストレスが溜まるから使ってみるのを勧められた。だがこの部屋には無い。八つ当たりで壊したら申し訳ないから試用は自分で買った物にすると彼は言って断ったので、現物は彼女がそのまま持って帰った。


 心を込めて作ったそれは、きっといずれ会える理解ある相手へのプレゼントにするつもりだろう。友達か、あるいは好きな人か。だがラクアは自分はどちらでもないと考える。彼女を泣かせたくないために見栄を張って美味しいと嘘をつき、今も明かせていない。このままでは駄目だと思う彼は、プレゼントを断った。嘘つきに受け取る資格がないというのが本音だが、そうと明かす覚悟ができていないから、貰い物を壊したくないとまた嘘をついた。


 それで終わりにしたくないから、自分で買うときに選ぶのを手伝ってほしいと彼女に頼み、トランプの件が済んでもまた会う約束を取りつけた。本音を明かす機会は、まだ失っていない。

 ゲームでも同じだ。プレゼントを渡されるイベントを追加し、ここで選択肢を作る。受け取るか断るか。ラクアの描くトゥルーエンドに行くには後者が正解だ。逆に前者は、多くの人にとって理想的なハッピーエンドに行ける。ただそれは告白して付き合うのをゴールとした意味の良い結末であって、物語に描かれないその先には、悲しい未来が待っているだろう。好きではないのに好きと言って相手の機嫌取りをしていたつけが回ってくる形で。



 ラクアは手が止まった。渡されたのを拒み、代わりに買い物の付き添いを依頼する。それは自然なことだが、問題はそれが主人公がヒロインを求める動機に過ぎないこと。彼からすれば相手が彼女でなくてはならない。手作りするくらい詳しいし、同伴する意義がある。

 けれども逆に彼女からすれば相手が彼である必然性が無い。ストレスを抑える香りが欲しいなんて誰でも言える。彼のように頼めば、相手が誰でも彼女は拒まないだろう。なら彼女にとって彼でなくはならない理由はあるのか。深く知るほど、それは無いように思えてくる。

 だからこそ長年の片想いという現実を突きつけられるわけで、ラクアは気が沈む。


 モデルからヒントは得られない。家に来たのはラクアたちとは違う中学校に進学したから旧友の今を写真で知りたくてゲームをしに行ったのであって、目的は彼ではない。そのゲーム作りでうまくいかないことがあるとイラついたから香りでリラックスしてもらおうと提案したのはただの親切。断られてなお頼みを引き受けたのも親切で、相手が彼だからそうしたと思える要素がどこにもない。そもそも親切な理由も、彼を味の好みが合う仲間と騙されていて、貴重な仲間を失いたくないがゆえの行動力にも見受けられる。だからこそ余計に、嘘つきの自分が嫌になる。正直になって今の関係が途切れてしまうより、うまいことごまかし続ける方が楽と思ってしまうから告白することもできない。


 ヒロインの使命が物語に関わっていても主人公には無関係だという点は前々から課題だった。いずれ発見できると思っていたが、それは楽観視だったと思い知る。

 彼は自身が彼女に相応しい存在になれるのか、自信を無くした。


 捻り出した案は、みっともないものだった。自分を必要としてくれる相手が良い。それが彼女の考えとした。モデルがそんな都合の良い考え方をしているとは思っていない。これはゲームと割り切って、主人公が主人公たるためにこじつけた必然性に縋らざるを得ないと判断した。

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