49話 よく覚えてるね
待ち合わせ場所は小学校前の交差点。片方が早く着いて待ちぼうけしている様を知り合いに見られるのも良くないから、時間通りに着くよう三郷楽阿は提案した。だがラクアは結局十分早く来てしまった。
合流したら彼の家でゲームをする約束だから今は手ぶらでいいはずなのに、忘れ物が気になって途中で気づいて引き返してからでも間に合うよう早く出発した結果、そうした意味もなく早く着く。歩くペースを落として時間調整しようとしたが、すでに美南哀月が交差点で待っていることに気づき、逆に速めた。
するとアイリも彼に気づき、彼が来た方向は今から向かう先と同義なので歩み寄った。結果、予定より少しズレた地点で合流した。
「なんでもう着いてたんだよ」
「時間通りに来ようと思ったけど、時計が少し進んでたみたい」
「スマホのが正確だろ」
歩きながらラクアは訳を聞く。するとアイリは懐中時計を持ち上げ、時間を勘違いしていたと謝る。彼は納得するも、わざわざそんな物に頼らずスマホで確かめれば間違いないのにとダメ出しする。
「ごめんね、今度から気をつけます」
「今度から……」
アイリは普段から待ち合わせには早く来る。待っていたのではなく時間を間違えていたと伝えれば、相手に気を使わせなくて済む。だが時間通りでないと認めない相手には通じない言い訳と理解し、そう約束したなら従うべきと考えを改めた。
一方ラクアは、またこうして待ち合わせることをアイリが意識したと勘違いし、今日会う中で次に会う約束をしたい気持ちが強まった。
ラクアは隣を歩くアイリの私服が気になりチラチラと見ていた。すると小学生の頃から変わっていない胸のポケットに入れた時計に見覚えがあり、それは六年生の記憶だと気づいた。
「……その時計、修学旅行に持ってきてた奴?」
「あ、うん。よく覚えてるね」
その記憶は正しかった。三年前に一度、三日間持ってきていただけだが、それを振り返る機会はいつでもある。その手段にアイリは心当たりがある。
「ラクアも見返すの? 写真」
「いやっ……別にそんな」
図星を突かれたラクアは咄嗟に否定する。まさか片想い相手の写真を自室で眺めているなんてバレるわけにいかない。だが時計に覚えがあると言った時点で、ボロを出した彼のやらかしだ。
「腕時計じゃないの珍しいなって思ってたから」
校外学習であろうとスマホは禁止で、代わりに児童は大抵は腕時計を着けていた。けれどもアイリは首にぶら下げる懐中時計だったのが特徴的で、ラクアの記憶に残っていた。それは事実なので言い訳に使って、実は写真で思い出したことをごまかした。
「これ、ネックレスに見えるでしょ? 似合わないかもだけど、時計っていう用途があるから恥ずかしくないんだ」
アイリは人並みにおしゃれをしたいが自信がない。けれども可愛い子とお揃いのファッションをしたい。だから見た目上はおしゃれで実態は他に目的があるコーディネートを決めている。そのための時計だと明かした。
「じゃあ買いに行くか。ネックレス」
「……お願いしようかな」
似合わないという自己評価がラクアは腑に落ちない。けれども彼女が気にしているなら力になりたいと思い、加えて次に会う約束を取りつけておきたい気持ちも強い彼は誘ってみた。
人が選んでくれたなら気持ち的に楽になると考えたアイリは誘いを受けた。
「ところで今日は他に誰が来るの?」
ただその話を掘り下げているとラクアの家に着いてしまうかもしれないので、目先の話題に移した。彼の家を知らない自分だけ迎えが必要で、他の友達は現地直行かもしれない。それが誰なのか尋ねると、彼は目を丸くした。他には誰も呼んでいないし、サプライズで来られても嬉しくない。二人で過ごすのを楽しみにしているのだ。
「……誰も来ない。だって今日で終わりにするし」
「終わり?」
「トランプの絵柄、写真じゃなく普通のに戻すんだ」
かといって後日招待するわけでもないとラクアは明かす。それはゲームが今の形であるのは今日が最後。アイリにプレイしてもらったら、役目を果たして元の形に戻す。
「あれは遊びながら俺の同級生が能力者になった順番を覚えられるようにデザインした。メンバーが増えたからトランプに十四とか追加しますだと」
「うん。そのルールを攻略することに頭使わないといけなくなるのよね」
「その通り。アイリに言われて気づいたよ」
ラクアはプログラミングを覚えるためにソリティアを自作した。その後能力者になった彼は、指定したファイル名の画像をトランプの絵柄として表示するよう開発できる点と、自身が同級生内で十三人目の能力者だった点を活かし、なった順とトランプのナンバーが合うように画像を彼らの写真に加工した。
だが問題点があり、その後能力者が増えるとトランプにも新しいナンバーが要る。現に昨日一人増えて、ゆえにラクアはゲームのルールも見直さないといけないから、遊びに来るのは待ってほしいと昨日アイリに連絡した。
だが新しいルールにプレイヤーが適応することに労力を割いて、写真を気にする余裕がなくなるのでは本末転倒。そこでアイリが出した案は、同日に能力者になった二人は同着扱いで一枚に収めて十四人を十三番つまり通常のトランプに収めるというもの。ラクアは納得し、ルールは据え置きで画像を加工するだけの修正で済ませられるようになった。
「トランプの枚数と合わなくなったら、このゲームは成立しない。そうなる前に封印する」
これで直面している問題点は解決。だがまた一人現れたらどうするか答えが出ていない。なら出さなくていいと割り切ったラクアは、問題そのものを消すと決めた。つまり十四番目が現れる前に絵柄を元に戻す。トランプで順番を覚えるゲーム自体を抹消するということだ。
元の画像で一括上書きするだけの、一瞬の片付けでいい。いつ誰が能力者になるか予測がつかないから、処置が早いに越したことはない。
「でもアイリとは約束したし、消す前にやらせてあげたくて」
だが片付けするとアイリとの約束を破ることになる。だから彼女を誘って、約束していない他人には声をかけていない。誰も来ないのはそういうことだとラクアは告げる。
「……そっか。せっかく作ったのに、残念だね」
「まあソリティアができることに変わりはないし、作った写真も何かで使えるかも」
片付けといっても努力が水の泡になるわけではない。ラクアのパソコンで遊ぶ利点がなくなるもののゲームは従来通りできるし、写真は素材になる。だから彼は惜しいと思わない。アイリを家に招く大義名分になっただけで十分なのだ。
「加工の仕方教えられるとかな」
「あ、そうそう。ちょっと見せてもらいたくて」
編集技術がついたのも成果で、教わりたいというアイリに応えられる。今日はプレイする前に、写真を直す工程を彼女の前で実演する約束もしている。
「お邪魔します……私の部屋よりきれいね」
「そう? でもアイリ、小学生の頃は掃除好きだったよな?」
部屋に着き、アイリは初めて見るラクアの部屋を褒めた。彼はあまり物を買わず、パソコンでゲームをする時間が多い分、散らかりにくいのも一因と思っている。逆に彼女はおしゃれに凝って色々買っていて、こんな殺風景な部屋とは対極なのだろうと彼は想像する。
けれども多くても整理はされているイメージを彼女に対し抱いている。
「まあ、雑巾で滑るのは好きだけど……部屋は狭いからやる気になれないし」
滑って遊ぶのは好きだが掃除そのものは苦手だとアイリは告げる。ラクアも一緒にふざけた記憶があり、光景を思い出して笑いが溢れた。
「でもちゃんと床に道はあるわ。プリントを敷いて、入り口からベッドに滑って飛び込めるの」
「何だよそれ、怪我するぞ」
散らかっているなりに利点もあると彼女はアピールするが、真似する気も起きないラクアは流し聞きしつつパソコンを起動する。まずは写真でトランプの絵柄を作る。
「といってもトランプのは素材で、それを背景に写真を重ねて完成。写真は背景を消して、縮尺をそれっぽく」
肝心の写真加工だが、肌色や輪郭補正など複雑なことはしていない。人に見せるものではなく、写真自体は同級生がグループチャットに投稿したもので、それが加工済なこともある。こだわっているように見えたら、それは元からだ。
枠組みは無料の素材。私的に利用するから著作権は気にしない。好みのトランプを探して、それを背景として用意する。
写真はチャットのアルバムからダウンロードして、まずは背景を消す。これもツールが写真を認識して背景だけを消去してくれる。白背景になるわけではないから、被写体の輪郭をなぞって切り抜く必要もない。この状態で四角形の選択をざっくりとマウス操作で行い、背景の素材に重ねて、見映え良く収まるよう拡大や縮小を行う。あくまでも十一以降の話で、今回ノータッチの十までのナンバーは中央のマークを被写体に重ねる一手間が加わる。
「一人でも二人でも流れは同じ」
「えー、もっと寄ろうよ」
「そういうのじゃねえから」
十二のナンバーに二人を収めることになったから、その片割れのラクアとセットの女子がカップルに見えるようアイリは意見を出す。だが彼女にはそういう感情のない彼は拒否し、あまりこだわらず完成と見做した。
「これ何のポーズ?」
「アルファベットのK。ほら、俺元々十三だったし」
同日に能力者になった二人だが、五十音順ではラクアが後。だから当初はキングの配役に彼を充てており、この写真を撮ったときもトランプのナンバーを意識してポーズを取った。その後アイリの助言でクイーンに移動することになったが、どっちが前かを示す意味でも、十三の名残があった方が良いと思い、そのポーズを採用したのだ。
「で、同じように他のマークも……はい、完成。後は十三だけど」
ナンバーごとに一つできたら後は背景を変えるだけ。元が同じサイズだからズレる心配もなく、淡々と出来上がった。残りは新しい十四人目で作る十三のナンバーだ。
「アイリ、やってみる?」
「いいの? じゃあぜひ」
「そっちじゃねえ!」
ラクアはマウスをアイリに預け、パソコンの前を空ける。すると彼女は意気揚々と、彼が完成と言った画像を弄り始めた。恋人みたいに扱わなくていいとストップをかけ、任せたのはもう一種の方だと説明した。
「こんな感じ? それとキリンも能力者になったんだ……」
「うん、上手。俺もびっくりした」
アイリは自分でもできたことに感動し、一方で旧友に能力者がまた増えたことを、被写体を見て実感する。そこでラクアも昨日の出来事を語る。
「それで昨日、二人でお祝いしたんだけど……ちょっと揉めてさ」
「揉めたって、ケンカ?」
「そこまででもないけど、このトランプのこと話してさ」
男装女子カフェで記念にチェキを撮ることになり、たくさん集めてトランプを作るのも一興という話から、ソリティアに十四が要るという話に発展した。そこで出た案は、転校すれば十三人のままで、ゲームを直す手間が省けるというもので、ラクアは反対した。
「一人いなくなれば同級生は十三人に戻るとか言い出して、俺は嫌だと言った」
「ああ……もしかして、それが理由で封印を」
アイリは一理あると思いつつも、良い案とは思わなかった。ラクアは彼らと幼い頃からの付き合いで、本気で出ていきたいと言い出すとは思えない。
だが道中で彼が宣言したゲームの封印と今の話は関連していると彼女は察した。まさしくその通りで、揉め事になる前に火種は消す気なのだ。
「無いとは思うけど、こんな物でトラブルになるのは嫌だし」
「そうかもね」
トラブルの絵柄を戻すと最初に聞いたときは、他に良い案が思いつかないがゆえの自棄になった決定かとアイリは思っていた。けれども事情と彼の思いを聞いて、彼の優しさゆえの決意と分かり、彼への認識を改めた。
「見つかるといいね。トランプ以外で、良い方法」
確かにトランプでは十五人目以降に対応できない。けれども他に方法はあるはず。そこをラクアが見つけられるといいと願い、アイリは応援した。
「そうだな。見つかったら、そのときはまた」
まだ案は無い。けれどももしも見つけたらラクアはアイリに連絡すると決意した。そしてこれから、二人で直したゲームを彼女に遊んでもらう。彼女の意見もきっと、その案を編み出すときに参考になるにちがいない。




