47話 学校が違えば
"同期"交流会の解散、女子に内緒の男子会が始まった。新座黄麟は女子たちを駅で見送った後、近くのカフェに入店。場所を三郷楽阿に連絡し、彼が来るのを待つ。
初めて来たうえ、外からキリンの姿は見えず場所が合っているか不安なラクアはチャットで入念にやりとりをし、かといってうろうろしているのを通行人に見られるわけにもいかず、思い切って扉を開けた。正面のカウンターにキリンがいて、安心して横の席に着く。
まずはドリンク注文。未成年の彼らはアルコールを頼めないのでソフトドリンクから選択した。
「……メイドさんじゃないんだな」
「うん。男装女子の店員さん」
キリンがメイド好きなことは知っていたから、彼が待ち合わせに選んだカフェはそういう系統と予想していた。そんなラクアは心の準備をして入店したが、光景も挨拶も予想と違った。混乱ではなくむしろ落ち着きを得て、取り乱さず合流できたので結果オーライではある。
大人の異性という現実を、服装で同性寄りと認識したおかげで、緊張せずやりとりできたのだと考えた。
「メイドカフェ、十八歳未満は入店できないから」
「なるほど、それで」
定休日だとか営業時間外だとか、日を改めれば解決する問題ではない。中学三年生のラクアたちが行けるようになるのは、まだまだ先の話だった。
「それにここ、学割が利くし」
「ああ、それで学生証持ってこいと」
今はできないこともあれば、今しかできないこともある。学生証で受けられるサービスを活かすために、未成年でも入れるメイドカフェを探すのではなく、近場のメイドではないコンセプトカフェを選んだ。
出発前にキリンから持ち物を聞いていたラクアは用途に納得した。会計のときに提示すれば安くなるサービスは、どこでも受けられるものではない。
「では改めて、能力覚醒おめでとう」
「お互いに、な」
注文したソフトドリンクが届くと、お祝いの乾杯をした。今日が記念日のキリンと、半月前だがこういう形のをまだやっていないラクア。お互いに、能力者になったのを祝して贅沢な時間が始まった。
「横に男子一人いるだけで落ち着くわ」
「そう? そうか、さっきまでラクアだけだったのか」
店員も他の客も女性ばかりだが、居心地は悪くない。ラクアはそう感じる理由を自覚する。隣に同性の友達がいるからで、疎外感が薄れるためだと。そしてその実感を覚えるのは、カフェにいる間だけではない。
今日のお祝いのきっかけでもある、特殊能力の覚醒。キリンがそうなる前は、今月の覚醒者はラクア以外が女子だった。前と後、それぞれの居心地を比べて、後者の方が気楽だと思う。
交流会とカフェ、どちらにおいてもキリンがいると安心できる。それがラクアの本音だ。
「でもそのおかげでもあるんじゃない? 女子だらけだったから、このカフェでも緊張しないっていう」
「そうかもな」
他にもラクアは好きな子と偶然会って、会話したり二人で歩いたりする出来事があった。刺激に心が慣れてなければ、仮に男友達がいても平静を保てなかったのかもしれない。そう考えると、価値ある期間と経験だったように思えた。
「ラクア的には男子が多い方が良い?」
「ああ。今月まだ何日もあるし、キリンの後に男子二人増えたら勢力逆転だ」
ラクアの"同期"は中学三年生の四月に能力者になった仲。そしてキリンが五人目で、今は中旬。あと半月で二人の男子が能力者になったら、女子より大人数になる。そうなればもっと気が楽になるのだ。
「そもそもうちの学校、男子の方が多いじゃん、能力者。なのに他所は逆」
「あの二人の学校もそうだね」
同級生では男子の方が能力者の比率が高い。だがそうでもない他校がある。現に"同期"の他校生は二人とも女子で、彼女らの同級生の能力者も女子のみ。キリンは能力者になったのを機に、誰がどこの中学所属かをスマホで調べていた。
「……うちから男子が派遣されたら、お互いバランス良くなるね」
「飛ばされる側としては溜まったものじゃないけどな」
そんな問題を解決する手段は転校。ただでさえラクアの同級生には他校と比べて能力者が多い。キリンの加入により、差はさらに広がった。均す意味でも、転校は合理的に思える。話が進んでいるわけではなく憶測だが、ラクアは乗り気ではない。
「別々の高校……俺はそれも良いと思う」
「そうか? まあ、たまにこういう所で会うっての悪くない気はするけども」
しかしキリンは賛成、というより、いざ転校させられたらできるようになることをしたいと前向きに捉えている。同じ学校ではできないことだ。
「高校は文化祭があるだろ? あれ、同じ学校だとクラスの出し物は限られる」
「似た店はいくつも要らないから、だよな」
それは文化祭。祭りの屋台と同じで、系統の同じ店が乱立すると競争になるだけ。そしてキリンはメイド喫茶があればいい。だから異なる時期の文化祭を次々と回り、様々な喫茶店に入りたい。
「でも学校が違えば関係ない。皆のメイド喫茶を俺は見て回りたいんだ」
「そうか……じゃあ、その日に備えて勉強しておこう」
果たして皆がやる気になってクラスの出し物として採用されるかとラクアは疑問に思ったものの、その手の店の中で言及するのは失礼だと踏み留まった。
「というわけでチェキ……後でお願いします」
彼はオプションの写真撮影を注文し、けれどもどう撮るかを考えていないので少し待ってもらい、キリンに相談した。
「どんな風にやるの?」
「俺は毎回ポーズ変えてもらってるけど」
店員を撮影するかツーショットにするか。初めてのラクアは思い出としてどのスタイルが良いか尋ねた。するとキリンはアルバムを取り出し、これまでの写真を見せてきた。常連になるならそのスタイルはアリだと思ったが、その予定は無い。
顔写真の並びを見てラクアは自身のパソコンのフォルダを連想し、そして閃いた。その写真を編集し、オリジナルトランプを作ってみようと。
結果、ラクアはツーショットを依頼した。ポーズは三本指でKを表現し、二人で同じ構えをするもの。綺麗に撮れた彼は、帰宅後にトリミングして自分の顔を差し替えることにした。
これで今できることは解決した。トランプ絡みの問題はもう一つある。
「俺さ、同級生の覚醒を時系列で分かるトランプを作ったんだ」
「言ってたね。ちょうど十三人だからって」
そのときキリンは理解した。ラクアの言いたいことは、十四人目の自分をどうするか、なのだと。写真はある。だが配役が無い。
「じゃあジョーカーは?」
「そうなるけど……ソリティアでは使わねえんだよな」
ラクアはパソコンでソリティアのゲームを作っており、今月の能力覚醒を受けて絵柄を彼らの顔写真に加工する工夫を施した。そしてそのゲームは数字の札しか使用しない。それに別のゲームを作ったとて、十五人目以降がもしも現れたときに対応する配役が残っていない。
「余りが出るなら、元の柄に戻した方がいいし」
悩むならいっそ正規の絵柄にすればいい。以前の画像は保存してあるので、戻すのは簡単な作業だ。ただ、もったいないとは思う。だが元々、ラクアで十三人だったという偶然にあやかった発想だったわけで、そうでなかったら思いつきもしなかった。偶然の産物だったのだ。
けれども彼が気がかりなのは、約束の放棄でもあることだ。キリンは知らないが彼は春休みに好きな子と会い、連絡先交換のときにソリティアの工夫を話した。そして彼女は、彼のパソコンで後日遊ばせてほしいと頼んだ。彼は快く承諾したが、まだ実現していない。せっかくチャットでやりとりできるようになったのに、お互い何も連絡していない。
「キリン、他に誰かから連絡あった?」
「あった。入れてもらったチャットからだけ」
個別には来ていない。ラクアにも通知が来ている全体チャットでの挨拶がすべてだというのが答えだった。それを受けて彼は、能力者ではないその子は、まだキリンの覚醒を知らないと推測した。風の噂が広まるか、誰でも見られる能力者データベースに興味本位でアクセスするか、知られるのは時間だろう。
そうなったときに考えられるのは、もう十三人ではなくなったから古いトランプは要らないと約束をキャンセルされることだった。こうなる前に誘っておけばよかったとラクアは後悔するも、現実は過去に戻れない。ノベルゲームのように、保存せず閉じて前のセーブ地点に戻るなんて芸当は不可能な世界だ。
「……だったら、増やせない? 十四を」
「増やす……そうか! そうだよ、ありがとう!」
これは実物のトランプを使用しない。だからこそ増やす解決策があることに、キリンの提案で気づいた。ラクアは彼の肩を叩き、昂ったまま感謝を伝える。
十三までを使うことはプログラムで制御している。そして五十二種の写真を参照させているだけであり、増やすのも減らすのも可能だ。写真も当初はフリー素材を用いていたが、今は顔写真。存在しない十四の札も、写真さえあれば加工できる。キングの次が何かを考えるのは後にして、とにかく増やすことが解決策として最適だ。
さっそくラクアは好きな子に個別チャットを送る。以前ハーブ園で約束した、自作ソリティアを遊ばせてあげる話について、キリンの加入によって作り直す時間をちょうだい、と頼んだ。送信した。
「できるの?」
「多分。別にトランプはソリティアのために十三までなわけじゃないし」
理想通りに追加できるかラクア自身も確証はない。ただトランプ自体、一年が四つの季節それぞれに十三週あることが由来で作られたもので、それをベースに七並べや大富豪などのゲームが作られた。前提である週が多くても少なくても、同じようにゲームは生まれていただろうから、頑張れば実現できると彼は信じている。むしろできたら自信を持てる。
「問題は作っている間にまた一人増えたりすることだけど」
「それな。でもそこは考えても仕方ないし、だったら急ぐ以外に打つ手は無い」
今月だけでラクアも含めて三人、同級生が能力者になった。このペースが今後も続くなら完成までに増えてやることも追加される、なんて事態に陥りかねない。
だが能力者になりたくなければならなくて済むわけではなく、天の気まぐれ次第といったところ。
それなら善は急げ。少なくとも今なら一つ分の追加で済むのだから、やると決めたらすぐ始めるのが一番の対策になる。
「……一応、測定をしなければいいって話もある。後は……転校とか」
能力者になるのは防げなくても、能力者として扱われるのは多少ごまかせる。特殊能力が目覚めても、それがどんな性質でどれだけ評価されているかは測定を以て確認できる。つまり測定しなければ世間では能力者と認識されない。もし完成前にまた一人現れたら、ラクアのゲーム完成まで待ってくれと頼めば、十五までで作り直しとならなくて済む。
また最後の手段として、転校によって同級生を減らすという案をキリンは挙げた。あくまでも同級生のうちで覚醒順をトランプに当て嵌めたものだから、ラクア以外が転校すれば十三人に戻すことも可能で、それなら割当てた画像の差し替えだけでいい。言ってしまえば、キリン自身が学校を去ればそもそも修正が必要ない。
「……止めろよ。メイドカフェのためとか言って出ていくのは」
キリンの案を聞いてラクアは釘を刺した。文化祭の出し物の野望のために転校に賛成のキリンと、彼が去れば同級生トランプに十四人目を追加する問題が解消されるラクア。利害の一致から転校を決意するのではと勘づいたラクアは、彼を引き留める。ひとえにそんな理由で去られるのは嫌だ。
「確かにキリンが来たおかげで俺に課題ができた。でも、能力者仲間になれて嬉しいし、しかも"同期"でこれからノベルゲーム作りを一緒にできるなんて、楽しみでいっぱいだ」
「俺もだよ。でも、別に学校が違っても」
「違う。違うんだ……」
キリンの言う通り他校生でも能力者仲間で、"同期"として課外活動をしている。仮に彼が転校しても、その繋がりは変わらない。ならいいのではと捉える彼に、そういう理屈で納得する話ではないとラクアは否定する。
同じ学校でないと駄目な根拠がパッと出てこない。追い出すみたいだとか楽したいためだとか、動機がネガティブなもので嫌だから。そんな感情的な根拠しか浮かばない。
こんな思いをするのなら、トランプの話題を切り出さなければよかったとラクアは後悔した。
いっそキリン一人に気負わせないために、すぐにもう一人同級生の能力者が誕生してほしいと願った。




