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38話 繋がりを辿って

「あの対戦のことだけど」

「ああ、昨日やったやつか」


 翌日、三郷(みさと)楽阿(ラクア)は普段通りに登校した。昨日は他校の友達を家に呼んでゲームで対戦し、そのことを話している鎌ケ谷(かまがや)速(ハヤト)には解散後にチャットで連絡していた。無事に終わり、そして勝ったと伝えた。チャットは少しのやりとりで終わったが、ラクアは直接話したい内容があり、それを翌日の学校の休み時間に持ち越して、今に至る。


「対戦?」

「ハヤト以外には言ってなかったな。隣の中学の最近できた友達と、昨日対戦したんだ」


 同級生でハヤトと同じく幼馴染の赤羽(あかばね)十四哉(トシヤ)が会話に混ざってきた。ラクアは対戦相手と一番面識があるのはハヤトだったから情報収集がてら対戦のことを打ち明けていたわけで、トシヤを除け者にしたわけではない。


「隣の……それって能力者繋がりか?」

「ああ。けど対戦はゲームで、能力関係ねえけど」


 ラクアがその対戦相手と知り合ったのは、お互いが特殊能力者になったから。まだ能力が覚醒していないトシヤは彼と面識がない。とはいえ能力者自体がレアな存在で、同級生の大多数がトシヤと同じ立場だ。

 ラクアは春休みに学校を跨いで能力者同士集まって出掛け、ゲーム仲間と知った。知るきっかけが能力者だっただけで、対戦自体はそのゲームをやり込んだ者同士の力比べ。能力抜きの、考察とプレイングそして運勝負をした。


「ちなみにそいつ、ちょっと危ない奴だから。黙ってたのは、何かあったときの犠牲はラクアだけで済むようにと」

「え、そんなこと考えてたのかよ!?」

「まあ無事来られて良かったじゃん」


 ハヤトはラクアから、対戦はオンラインではなく家に呼んで対面でやると聞いたとき、相手が彼に危害を加えないか心配した。忠告もしたが彼は気にも留めず、以前会ったときなんとかなったからと楽観視していた。そこでハヤトは対策を講じず誰にも相談せず結果を待つことにした。もし相手が暴走しても被害に遭うのはラクアだけで済む方がいいと判断して。

 なおそんな真意があったことをラクアは今に至るまで考えもしなかった。ただ結果を見れば何事もなく終わったわけで、見捨てる行為は時効だとハヤトは押し通す。



「そうだな。トシヤもやるか? また約束すれば多分」

「いやいい。ただ気になっただけだ」


 遊びたがっている友達がいるとでも伝えれば、ラクアは相手をまた家に呼べると考える。希望するなら仲介役になると彼は提案するもトシヤは断る。隣の中学の同学年との繋がりを得たいわけでも、ゲームで対戦したいわけでもない。そういう話題が知らないところで増えていることをトシヤは気にしていた。


「ラクアもすっかり能力者の仲間入りだなって。この話はまた後で。ごめんな、いきなり混ざって」

「おう…… 別に聞いててもいいのに」

「忙しいんだろ」


 ハヤトの言う通り、トシヤは忙しない。幼馴染の色々な会話に途中から混ざっては途中で抜けていく。けれども内容は覚えていて自分の意見も出して、また戻ったときにもスルッと溶け込んでいく。彼のそんな日常は、能力者が増える度に、接点が増えたり話題が他校生に広がったりして、考えることが多くなっている。

 ラクア自身、こういう会話は無能力者だった先月までは無縁だった。


「勝敗は昨日チャットで話したけど、カナタのことで色々分かって、それを話し合ってみたくてさ」

「なるほどね…… 家に呼んだことなんか俺も無いからな」


 その分かったことというのを恐らくハヤトは知らない。面識はあったが偶然同じイベントに参加したことと、後に能力者になってAランク同士の仲になって一ヶ月経っただけであり、一対一で接した記憶は薄い。

 そしてそれをポジティブな雰囲気で言っていることから、闇落ち前の素の面を見たのだと推測し、耳を傾けた。



「部屋を見て真っ先にさ、火事が起きたらどうするかと聞かれた」


 だがこの一言でハヤトは諦めた。いつ出火するか分からず危険だと反対されても押し切って壊れたメカを連れて帰ったことが背景にあるとすぐに気づいた。それは紛れもなく闇落ち後の一面だ。


「でもそうなったら困るよな。ラクア、自分のパソコンでしかできないゲーム作ってたじゃん」

「……確かに」


 資料やメモはノベルゲーム作成チームの共有ドライブに保管しており、メンバーでも新しいパソコンでもアクセスできる。だがパソコンを紛失したらジ・エンドのデータもある。ラクアがこれまで作ったゲームや始めたばかりのプログラム。火事などでそれらが消えたら、作り直しになってしまうのだ。

 そんな考えは今ハヤトに言われるまで微塵も考えなかったし、コンセント周りをごちゃごちゃさせていないから大丈夫と返してこの話は終わっていた。


「あいつ、もしかして俺のパソコンを見て……大事なら万が一に備えとけって忠告してくれたのか」

「さあな。でもあいつは、自分で全部言わない。相手が気づくのを待つ奴だ」


 ラクアの思い過ごしの可能性は捨てきれないが、部屋の火事対策を無条件で聞いたのではなく、ラクアの部屋を見て予防策を講じるよう促したとも考えられる。本人が答えない限りは真相は闇の中だが、その推測が妥当というのがハヤトの認識。


「……考えたら不安になってきた」

「大丈夫だろ。あいつの意見を正論と思い込んだら終わりだ」


 火事の心配が真面目な話に思えてくると、学校にいる間に出火しないか焦りが芽生える。心当たりがあるわけではないのだが、堂々と杞憂と構えられるほどの安心感もない。焦燥感に囚われるラクアに、考え過ぎだとハヤトは釘を刺す。彼がどんなゲームを作り始めたかを知らないからそう言えた節もある。


「でも今は大事なゲームが…… いや、なんでもない」


 だがラクアも、片想いの旧友をモデルにしたヒロインとの恋愛ものを作成しているなんて安易に言い触らすわけにいかず、ボロを出す前に踏み留まった。ただ能力者の"同期"内での活動としてゲーム作成を選択したことはハヤトも知っているので、ラクアの言う大事なものがそれを指しているのは察しがついた。きっとメンバーにとっても大切だから、不注意で失いたくないのがラクアの本心なのだと。


「確かに、"同期"と一緒に作ってるゲームは大事だよな」

「そう、大事」


 ここで双方誤解している。ハヤトは知らないが実際は個々で作成しており、ラクアの作品が消えてもメンバーに影響は無い。だが意見を出し合う意味で共同作成しているので、ハヤトの意見にラクアは頷く。


「……でも、良かったな。チシロは前から友達だけど、そいういう仲間と出会えてさ」


 メンバーの一人は水天宮(すいてんぐう)千城(チシロ)。二人やトシヤとも幼馴染で今も同級生。ゆえに旧知の仲だが他とは先月まで面識がなく、それでも今では協力して課外活動を進め、ラクアは台無しにしたくない強い思いを抱えている。それをハヤトは良いと感じた。


「じゃあ学校に持ち込んだら? パソコン」

「そうするか。学校でやるわけじゃないし、見つからなければセーフだし」


 特殊能力者になってできることが増えたとはいえ、解決策はパッと浮かばない。そこでハヤトは肌見放さずを提案し、バレない範囲ならそれがベストとラクアは受け入れ、話は決着した。


「ああ、そうだ。対戦は俺が勝ったけど、あいつ俺のことよく見ててさ」


 そして話を戻し、昨日の対戦でラクアはゲームに夢中だった一方で相手は彼の仕草を観察して判断材料にするテクを披露していたという新しい気づきを話す。共通の知人について語り合った。



 放課後、ラクアはトシヤと話の続きをするため彼に会いにいくと、彼が呼んだ三人もそこにいた。新座(にいざ)黄麟(キリン)、大手町(おおてまち)白(キヨシ)、そして新都(しんと)昌太(マサタ)。皆トシヤと同様、まだ能力者ではない同級生だ。そしてラクアとチシロも先月までこの仲間にいた。


「ラクアの意見を聞かせてほしい。他校の能力者と関わりができて、逆に俺らとの関わりは減っていることの」


 トシヤに聞かれた質問はさっきの話に関わるものだった。能力者同士の繋がりから他校に共通の知人がいて、けれども能力者ではない立場では何も知らず、会話に混ざれない。能力は突然覚醒するから母数は徐々に増えているとはいえ島全体で見ても少数で、ゆえに他校とも交流に積極的という背景がある。トシヤたちが今後そうなる可能性はゼロではない一方で、かといって全員がそうなれる確証もない。

 現実的なのは、誰もが無能力者だった中学一年生までとそれ以降では、幼馴染の繋がりは変わってしまったままということなのだ。


「確かにその自覚はある。放課後とか休日に、能力者としての集まりに混ざるようになってから。でも学校は違う」

「そうだな。でもさっきの話に俺は混ざれなかった」


 トシヤの言い分にラクアはハッとした。学校にいるうちは他校生との交流は無い。だから学校生活は能力の有無に関係なく、垣根なく友達でいられる。そう思っていたが、他校生の話をするのは駄目だ。知らない人には分からないのだから。


「ま、まあラクアたちに悪気は無いと思うし……」

「そうそう。趣味の話だって一部でしか通じないし」


 キヨシとキリンがフォローに入る。実際ラクアとハヤトは二人だけの場でスタートしており、話題が他校生だっただけでそれが趣味の話だとしても誰もが理解できるとは限らないから、能力関係なくてもそういう類にも言えることだ。


「俺は気にしてないけどな。高校でもまた一緒になるんだし」

「そうだった。これは能力のおかげだよ、トシヤ」


 彼らは中学三年生になった。だがマサタの言う通り、来年は同じ高校に進学する。この島の決まりで、公立は高校までは地域で進学先が決まっている。受験して違う学校に通うのは私立を選んだ人だけだ。中学校生活はあと一年だが、それで彼らが散り散りになることはない。そうなるのはもう三年後、大学受験のときなのだ。

 この決まりがあるのは受験のハードルを上げ、中学でバラバラの能力者が結集するのを抑えるため。つまり能力の存在が壁を作る一方で、離れ離れを先送りにしてくれている。


「どうだかな。うちだけ妙に多いから、特例で分けられかねない」

「それはそう。全体祭は去年で優勝だったのに、今年はもっと差がついた感」


 だがこの学年、不思議なことに彼らの学校だけやたら能力者が現れている。ラクアで十三人目だ。毎年九月に全校一斉体育祭があり、当時は六人でそれでも他校と差があり優勝に一役買った。今年は現時点で倍以上になったのにもう半年で増えたら、いよいよバランスが崩壊する。それが来年だけでなく高校の三年間にも言えることだから、大人が何かしら策を講じるとトシヤは睨んでいる。

 能力者になりたくてなったのではないから、生徒としてはただの大きなとばっちりだ。

 

「もし高校がバラバラになったら、もう集まれなくなる。俺は嫌だ。そうなるのはもっと先でいい」


 これがトシヤの言い分だ。大人の勝手で三年も早く散り散りになったら、一緒にいられるのは今年が最後になってしまう。大人になるとそれぞれの進路に向かうのは理解している。だからこそ彼は若いうちである今を長く一緒にいたいと願う。ただラクアたちは同じ気持ちでないようにも思う。能力を通じて他校との交友が広まって親しい相手ができて、そこへ編入が決まったらむしろ喜ぶように思える。


「他校と繋がりが広がったラクアたちは、そんなこと思わねえかもだが」

「じゃあ、そうなったら他校生を使って集まろう」


 最近他校との縁ができたラクアは、ここを去りたいとは思っていない。そしてもしトシヤのいうバランス調整目的の転校をさせられたら、そこの人脈を辿ってまた会おうと提案した。


「もしも高校が別々になったら、そこの能力者と友達になって……その繋がりを辿っていく」

「……そういうことか」


 離れたのを機に疎遠になりたくない。離れたならそれを利用して繋がりを開拓する。トシヤは納得し、その事態に備えてできることを続けると決めた。


「じゃあ俺のやることは今まで通りだ。皆がどんな繋がりがあるか把握する。誰が遠くにいっても何とかなるように」 

「ああ、頼んだぜ」


 トシヤの悩みに答えが出て、キヨシたちも安堵する。理想論を語ったようでそれは現実的であることを、ラクアは告げる。

 

「それに学校が別々でも距離は縮められるって、最近実感した」


 二年前に私立中学に進学した小学校での同級生。ラクアと彼女との距離が先月より縮まっているのがその例だ。小学校のクラスメイトだった頃にもなかった経験をした。そのきっかけはたまたま駅で再会したことで、彼がそこへ向かったのは能力者同士の交流会の終わりの見送りにいったから。

 

「それってアイリのこと?」

「よく分かったな。まあ春休みに色々と」


 ラクアがアイリを好きなことは当たり前のように知られているので彼自身も誤魔化さない。

 土産を貰ったことや二人きりで植物園を散策したこと、そして今度家に呼んで彼が作ったゲームを遊んでもらうこと。周りには内緒だが、片想い相手との距離を段々詰めている。彼女は他校生かつ能力者でない。それでも繋がりを得られると彼は胸を張って言える。


「それに高校で帰ってくるかもしれないし」

「ふーん……」


 まだ彼女の意思は決まっていないが、私立は中学で終わりにするかもしれない。そうなれば高校でまた同級生になれるのをラクアは楽しみにしている。そして彼女の決断は、彼の告白を決め手にしてみせるとやる気だ。


「俺らよりアイリの方が大事と」

「いや、そういうつもりじゃ」

「でもラクアさ、高校のクラスがアイリと同じかどうかで反応変わりそうだよね」

「同感。またかよなんて言いつつニヤけてるのが目に浮かぶわ」


 惚気を聞かされトシヤは拗ねたが、友達も大事だとラクアは弁明する。ただ誰がクラスメイトだと嬉しいかの差が生じそうと思われた点は、彼自身否定し切れなかった。

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