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37話 心は胸に秘めて

 約束の勝負の時間。三郷(みさと)楽阿(ラクア)と溜池(ためいけ)彼方(カナタ)はお互いのゲーム機を起動し、準備を始める。友達コードを登録し、カナタのゲーム機をラクアの家のワイファイに接続する。それからゲームを操作し友達部屋に入り、対戦ルールとモンスター編成を選択して、お互い画面を相手に見られないよう向き合ってスタートだ。

 プレイヤーの役目はモンスターへの指示で、コントローラーの操作の技術は要らない。勝てる編成の考察と、読みと知識を活かしたプレイング、そして命中精度やダメージ量の乱数、確率で起こる追加効果に救われる運。それらが勝利の鍵を握る。


 これは真剣勝負。カナタはその気概で臨む。きっとラクアは対戦の約束をしたときから、友達同士気軽に楽しめると期待していたのだろうと彼は思う。そしてラクアが自分の好きを貫いて、クモ系モンスターで固めたネタ編成を用意してきたと思い込んでいる。いくら好きでゲームにも詳しくても、そんなふざけた編成など強い編成に蹂躙されるだけ。それを思い知らせてやるのだ。


 ここで相手の編成が公開される。これを見て六匹中三匹を選択し、一匹ずつ戦わせる。だがカナタは考えるより先にツッコミが出た。


「クモ統一じゃねえじゃん」 


 ラクアの編成はカナタと同様、バランスの取れた強いものだったのだ。彼もまた本気で勝つことを考えていた。対戦での強さとは別にクモが好きだから、ぬいぐるみを買っていた。そんな彼はカナタの編成が考察通りだったので、迷いなく三匹を選択し、決定する。この時点で流れは彼に向いているが、鼓動が高鳴り武者震いする。


「そういうカナタは予想通りの受け構築だな」


 普段通りの編成で相手にすると骨が折れる。だからラクアはカナタの編成を読んでそれに強い編成を準備していたので、読みが当たって嬉しく思う。だが間もなく対戦は始まるし、編成は予想通りでも選出や技構成は未確定だから、現段階で見えた情報が読み通りでも決して安心はできない。



 お互い三匹を決定し、バトルが始まった。ラクアとカナタは先発を繰り出すと、行動を選択する。このゲームは迅速な操作は要求されず、お互い選択してから場面が動く。どちらが先に選択したかは関係ない。

 先手を取ったのはラクアのモンスター。撃ったのは自分のアイテムを相手のと交換する技で、そのアイテムを持つモンスターは技が最初に使用したものしか使えなくなる効果がある。

 ラクアは技が決まって安堵した。普通に撃ち合えば相手は回復技があるので押し負けるところだったが、これで相手一匹の行動を制限できる。技の使い分けができなくなれば警戒することも減る。代わりに貰ったアイテムは、持っていても効果がないがそれは読めていた。相手から取ることで防御力を下げるという意味がある。

 だがカナタはラクアの戦略を読んでいた。彼のモンスターは後手でアイテムを投げる攻撃をした。元々持っていたアイテムは交換時に取られたものの、これで制限は無くなった。


「うわ読まれた」

「決断が早いんだよ」


 カナタはラクアの手元を見ていた。対面してすぐ指が動き待機していたから、相当自信のある一手を打ったと予測がついた。だからその手を一点読みし防いだのだ。

 これがオンラインでの対戦だったら相手は見えないので判断材料を得られなかった。家が近いからと部屋に読んだラクアは己の判断を恨むのだなと遠回りに忠告した。


 次のターンもラクアのモンスターが先制。順序はステータスで決まる。同速なら運次第だが、この対面は彼のが速い。カナタもそれを考慮してパラライズ、相手のスピードを半分の半分にし稀に行動不能にさせるデバフ技を選択したが、相手の技はそういう非攻撃技を打てなくするものだったため、何もできず過ぎた。

 カナタのモンスターの攻撃技は属性相性が悪く無効化される。次のターンは交代を選択しようとしたが、ラクアのモンスターのスキルによって交代不可と表示される。つまり攻撃か降参を選択し直すしかない。


 そこから数ターンはラクアが主導権を得た。カナタは技封じが解除されるまで耐えても、次のターンにまた封じられる。交代して解除しようにもスキルでそれができず、何もできずダメージが溜まっていく。回復技も使えず、ノックアウトされた。


 これで残り三対二。ラクアの先発はほぼ無傷だから、実質今からハンデ戦を始めるようなものだ。ただカナタは二ターン目の時点でこうなることは読めていたからすぐ二匹目を繰り出す。

 それはラクアのモンスターに属性有利で、しかも仕込んだアイテムで先制できる。彼が気づかず居座ってくれば無傷でイーブンに持ち込める。だがラクアは交代して有利なモンスターを出した。一撃で倒すための技は、それはあまり効かない別のモンスターに受けられた。このときラクアは首を傾げた。想定外の技を撃たれた。


 不利なら交代、有利なら攻撃。カナタの編成が得意とする戦略だ。それを封じたラクアは、返しに自分がその戦略に走っている。だがこれが準備した対策ではない。ここで彼は、一番強い技ではなく、確率でパラライズ状態にさせる攻撃技を選択した。

 その技はカナタの交代先の三匹目に命中。大きなダメージではないが読みを外したこと、運が悪いと一発でパラライズ状態になる心臓に悪い攻撃を食らったことに動揺したのだ。


「……さすがに一発じゃ起こらないか。でも、試行回数なら稼げる」

「ラクア、お前の狙いは受け構築の弱い所を突くことか」


 ラクアが仕掛けたのは運任せの攻撃。しかし目的は何度か試して一回でも確率で追加効果を引くこと。そして受け構築は食らって回復してを繰り返すスタイル上、回数を確保しやすくその運が舞い降りるチャンスが多くなる。そこを狙っての戦略だとカナタは見抜いたが、バレて苦しくなるものではないからラクアは動じず頷く。



 次のターンはラクアの不利対面から始まる。運任せの攻撃すらできず先制され一撃で倒されるから交代を選択。カナタの三匹は判明したので、交代先は役割が薄い先発。代わりに攻撃を受けさせると、一撃でノックアウトさせられた。これで残り二匹ずつ。

 初手でカナタの先発に削られていたからではない。スピードと攻撃力が高く、アイテムで技一つしか使えなくなる代わりに火力を増強している。だがその技は当てる度に攻撃力が下がる。クッションにさせられた一匹は無駄な犠牲ではなかった。


 ここでラクアはようやく三匹目を出す。それはカナタのと同種族。そしてミラーマッチは先手必勝だ。育成次第では同速対決、つまり運で勝敗が決まる。もしもさっき一発でパラライズ状態にできていたら、スピード差がついて運勝負ではなくラクアが有利だった。

 だがお互いもう一匹ずつ残っており、展開を動かせる。ラクアは運に委ねて攻撃し、カナタは二匹目と交代してその技を受けた。ダメージは七割弱。攻撃力が半減したが、乱数つまり運次第で次の攻撃は耐えられる。


 ラクアは警戒して交代した。普通なら攻撃して、運悪く耐えられても一発耐えればもう一発当てて勝ち。さっき首を傾げたとき、その技があるなら耐えられない技は持っていないと推測できるから、耐える前提のプレイングは間違っていない。

 だが気になるのはカナタの判断。一撃で倒せないのに交代してきた理由だ。考えられるのは、相手より先に二発当てて倒すこと。それを実現させるアイテムを警戒したラクアは、耐えられるかの運に頼らない別の勝ち筋を辿った。


「そうやって首傾げるのもな」


 動きから思考が読めたカナタは、交代読み交代を成功させた。両者交代し、ラクアの二匹目と彼の三匹目が対面する。これは二度目でラクアの不利対面。さっきはラクアが先発に交代して三匹目を無傷で場に出せたが、もうノックアウトされたので同じ手は打てない。ここまでか、とラクアは項垂れたが、まだ降参はしない。


 次のターン、カナタの攻撃は外れた。命中精度という運が傾いた。ラクアは思わぬ希望に救われ拳を握り、選択していた攻撃技を当てる。しかしまたもパラライズ状態にならず、今度はカナタに運が味方した。


 さすがに二連続外しは起こらず、ラクアの二匹目が一撃でノックアウト。残り一対二。二匹目によって少しダメージを受けていたが、それが無くても吹き飛んでいた凄まじい一撃は、代償でカナタの三匹目は攻撃力が半減した。だがその状態でも無傷の残り一体を倒す破壊力がある。



 つまり再び、結局運任せの対面だ。カナタが先制し命中すれば決着。ラクアが制せば残す二体目との一騎討ち。パラライズが一度でも発動していたらラクアがここまで追い詰められてはいないが、こういう要素も含めたのがこのゲームの醍醐味。現に今、彼は楽しんでいる。


 一方カナタは負けを悟り、冷めた心は胸に秘めていた。ここからは運の勝負ではない。勝負が成立するのは同速という前提ありき。技の属性を増やす代わりに速度のステータスを一下げた育成が裏目に出たのを察しているのだ。

 だから相手が奇跡的に外してくれないとこの対面は倒され、最後の一匹が一回外れるか耐えないと勝負にも負ける。避けるチャンスが合計二回あるが、うち一回は自分が外すリスクも背負っている以上、期待できない。仮に勝てても、それは運が良かっただけ。お互い同じ手順で再現を繰り返すとラクアが勝ち越す。


 勝負のターン、お互い行動は即決した。先制したのはラクアで、この時点で運が良く喜び、今度は命中を祈る。そして技のエフェクトが出ると、体力ゲージが無くなるのを待たずノックアウトを確信する。残り一対一となり、これで最後の運勝負に持ち込んだ。

 残り一匹なのでカナタも悩まず選択する。時間切れを狙うのも無理だ。そして迎えた最後の対面も、お互いやることは決まっている。ラクアの読み通り、先制したのはカナタだが一撃で倒せる技は飛んでこなかった。スペースがなく、会得させていなかった。

 その攻撃を耐えてラクアのモンスターが動く。当たれ、次は倒せと祈り、叶った。残り一対ゼロで決着、彼の勝ちだ。



「よっしゃあ! 対戦ありがとうございました」

「ありがとうございました。完敗だ」


 ラクアは喜び、負けたカナタの実力を認める。対戦前はもっと余裕を持って勝てる算段だったが所詮は脳内シミュレーション。終わってみれば接戦だった。今回は手の内が読めていたうえでこの結果。前情報なしだったらどうなっていたか考えたくもない。


「ところでラクア、雷と雪なら雷派なんだな」

「え? ああ、まあ……今回は雷優先した」


 パラライズ効果狙いの技とフリーズ効果狙いの技がある。枠があれば両立も可能で後者を使用していれば属性的にもっと楽に勝てていたターンがあったが、ラクアはそうしなかった。ただカナタに言われる前は気づかず、対戦中に後者にすれば良かったと後悔することはなかった。


「そういや、カナタって人のことよく見てるんだな。俺対戦に夢中で」


 今のやりとりで対戦中カナタに指摘されていたことを思い出す。判断の即決や、疑問が動きに出る点。相手の前での一挙一動が無警戒だと言われていたことだ。これらは無意識にやっており、普段はオンラインで相手に見られていないから態度に出ていてもバレない。だが今回は目の前でやっている。それもラクアの要望で。

 そして彼の挙動をカナタはマークしており、考察材料に利用していた。これはラクアが迂闊というより彼が鋭いと褒めた。


「楽しんでないから視野が狭まらない」

「……集中しているけど熱中はしていないみたいな?」

「おお、それ採用」


 ゲームなのに楽しまないなんて皮肉な言い方だとラクアは感じつつも、言い換えれば意識を周囲に割くのを心掛けていると肯定的に捉えた。するとカナタはその考え方を使わせてもらおうと考えた。


「難癖つけられたらそう言うわ」

「あ、そう……けど、俺の入れ知恵だとか言うなよ?」


 面倒事を嫌うラクアは我関せずのスタンスに逃げた。


「じゃあ、三匹目ちょうだい」


 話は戻ってゲームのお約束。希望するのはカナタの選択した三匹で随一の破壊力を見せたモンスター。負けたら一匹プレゼントという条件なので、ラクアは編成外で自分のモンスターと通信で交換してもらった。強くて珍しいから、自分で持っていてももっと欲しかったのだ。



「どうする? また勝負するか?」

「いい、帰る」


 予定では一回の勝負で終わりだが、まだ時間はある。また対戦するか、他のことで遊ぶか、せっかく来たなら色々できるがカナタはもう帰ると答えた。彼は家まで自転車で帰らなくてはならず明日も学校があるので、目的を果たしたら勝敗関係なく帰る気でいた。悔しくてもその決意は揺らがない。


「そうか、ありがとな。お願い聞いて来てくれて。あと、カステラ美味しかったぜ」

「ああ」


 帰る前に改めてお礼を言う。いずれ好きな子を部屋に招くときの予行練習としてカナタを呼んだ。そのことは内緒だが、協力してくれたことには感謝を述べる。そして見送り、戻ったらパソコンを起動し、今日の気づきを書き残した。

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