↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
35/171

35話 ネガティブな反応

 帰宅後、三郷(みさと)楽阿(ラクア)はパソコンを起動する。元々自室ではパソコンと過ごす時間は多かったが、今月からノベルゲーム作成を始めた影響で帰ったらすぐ立ち上げて自分は座る流れが習慣になりつつある。特に作業を決めていなくても、閃いたアイディアをすぐ書いて保存できるように、電源を入れて放置することもある。今日はそのつもりだ。


 何をするかは未定だが、何を考えるかは決めてある。それは美南(みなみ)哀月(アイリ)に会う口実を作ることだ。一学期が始まって、中学校が違うアイリと会う機会は減った。とはいえ春休みに会う機会が多かったと考えるのが正しい。

 春休み前の二人は小学校が同じだっただけの仲。ラクアが片想いしているも、秘めた感情ゆえに関係は旧友止まり。けれども春休み後半、駅で偶然会ってアイリと会話したうえに彼女から土産のジュースとジャムを貰い、後日それを買ったハーブ園で半日一緒に過ごすという進展があった。


 アイリが幼い頃から飴はハッカ味が好きだが進学先でもその仲間はできていないこと、けれども学校生活は楽しく、来年からの高校は地元にするか今の私立に内部進学するかは迷っていること。色々と聞けたおかげでラクアが作成するゲームに内緒で登場させる彼女モデルのヒロインのキャラクター像が深まった。


 けれどもまだ足りない。現実での片想い、かといって他の誰かに告白したこともない、そんなラクアはゲーム内で告白成功まで描くには、まだイメージが足りないはずだと考える。それを補うには、また会話するのがベストだ。



 ラクアはスマホを手に取る。ハーブ園で会った日にアイリとはチャットの友達になった。逸れてもスマホで連絡を取り合えて便利だという会話の流れで友達申請しただけであって、やりとりは一切ない。


 会っていない件について、都合がつかないことが第一の理由だ。ラクアは今月、特殊能力者になって他校の能力者との交流が生まれた。ゲーム作成の課外活動もその一つだ。だがアイリは能力者ではないからその輪にいない。そもそも能力者自体が珍しく、だから学校の垣根を越えて交流に積極的なわけでもあるが。

 だから能力者以外と関わる機会は学校しかなく、その学校が違えば部活動などの課外活動が同じ人くらいしか関わりがない。ハーブ園で会ったのは平日限定ランチという目的があり春休みだったから成立した話だ。


 それも無いのが第二の理由。そして第三の理由、接する勇気が出ないこと。アイリの中学校は電車で通える距離で、寮ではなく自宅通い。その自宅はラクアも同じ小学校に歩いて通ったくらいには近い。よって平日会えないこともない。誘えば都合のつく日はあるはずだ。


 ラクアのチャットのアイコンは、以前自作したトランプゲームのソリティア。ゲーム性は概ねサンプル通りで、独自性はカードのデザインを編集して彼や同級生の顔写真に変えた点。これは彼が同級生で十三番目の能力者になったことに由来する。なった順とトランプの数字を揃えて割り振り、遊びながら時系列を覚えられる用途を与えた。

 友達申請の際に知られたこのアイコンはアイリに興味を持ってもらえた。プレイするにはラクアのパソコンで、と伝えたうえで、やりたいと言ってくれた。つまりこれを目的に、彼女から日程相談の連絡が来ると彼は期待していた。だがまだ連絡はなく、白紙のチャット欄が物語っている。


 ラクアは机に突っ伏す。ソリティアの件で彼からチャットし、指定の曜日以外なら大丈夫だ、と伝える手はある。けれどもそれはアイリが躊躇っているか忘れているかの場合に効果的なもの。遊びたいと言ったのは社交辞令で、実はその気がなく、無かったことにしようとしているとしたら、却って彼女を困らせてしまう。


 遊ぶのを楽しみにしているのはラクアだけで、向こうは気にも留めていない、あるいはもう触れてほしくないのかもしれない。そんな不安がある。



 もう一つ約束があったことをラクアは考える。アイリと違って能力者という接点で関わりが生まれた、隣の学校の同学年男子、溜池(ためいけ)彼方(カナタ)とゲームで対戦しようという約束だ。こちらも進展がないが、出来上がっているゲームをするアイリの件と異なり、お互いに準備がいる。相手が対戦に使うモンスターの予測、それに対抗して彼が使用する面子の育成、そして対戦時の立ち回り。

 ラクアは空き時間に準備をちまちまと進めており、だがまだ不完全で勝算は五分五分。一応カナタが誰を使ってくるかの目星はついている。彼と勝負の約束をしたのは春休み、一緒にアウトレットモールに行ったときのこと。そこでそのゲームのグッズ専門店に寄り、彼が買ったぬいぐるみから彼が対戦で使用しているチームに見当がついた。デザインが好みだとかシナリオ進行時のパーティーだとかではない。対戦で強い並びだ。

 それを信じてラクアは対策を偏らせるか、その目星は無視して彼も普段のチームを使い回すかが決まっていないのだ。


 ただその約束は、無かったことにされてもラクアは気にならない。だから彼から日程調整の連絡はしていないし、カナタも同じ心構えなのか向こうからの連絡もなく、自然消滅してもおかしくない。

 それくらいの緩さだからこそ、彼は前座としてちょうどいいと思った。対戦はオンラインで各々の自宅からでも可能だが、アイリを家に招くことを想定してカナタを呼んで対面でやろうと考えた。


『この前アウトレット行ったの覚えてる? あのとき勝負しようと話したけど、いつか学校帰りにやらないか?』


 時間は平日の夕方。以前約束した対戦を、部活や予定が無い日にラクアの家でやらないか、と彼はチャットでカナタに尋ねた。向こうも忘れていて準備に時間がかかるかもしれないから、すぐにとはいかなくとも大体の時期を決めたいと提案した。

 ラクアは送信して文面を見返す。場所や目的が明確で誤爆と疑われることはない。そしてこれらを変えれば、アイリを誘うときにも使える。彼は自画自賛する。これでカナタからネガティブな反応がなければ、彼女に送信するときに自信を持てる。無視や断られてもこの件はダメージにならないし、何が駄目だったかを反省して次の本番に臨める。ただ断られると部屋に呼んだ後の練習にならないので、できれば勝負に乗ってほしいと願い返信を待った。



 カナタの反応が来るまで手持ち無沙汰のラクアは、愛想を良くしようと爽やかなスタンプを送信し、その後、約束した日のことを思い出してもらいやすくしようとその日にカナタに張り合って大量買いしたクモ系モンスターのぬいぐるみを寄せて写真を撮って送信した。


 ラクアから画像が送られてきたと通知が来たカナタは、何の画像か見当がつかないまま無造作に開くと、画面いっぱいに群がるクモに腰を抜かした。嫌がらせかと怒ってスマホを放り投げ、特殊能力で破壊力のある光線を放って八つ当たりに粉砕しようとしたが、隣のメカを巻き込むと察知し、撃つのを中止した。


 ただカナタはもう一度その画像を見たいとは思わず、その前にラクアから送られたメッセージとスタンプに気づくことなく、しばらくスマホを触らないと決めた。

 一方ラクアは既読がついたことに少し興奮し、けれども一向に返信が来ないことに首を傾げる。嫌だとかいつでもいいとか、ドライな返事が来ると予想していただけに、何かやらかしたのかと不安になる。

 けれどもアカウントの名前は本名にしてあるから返信を警戒されているとは考えられない。友達登録は済ませていないが能力者のグループチャットを経由してカナタのアカウントには個人的にアクセスでき、相手の名前とアイコンも彼のものだから誤送信の線は無い。


 ラクアはカナタが吹奏楽部に所属しているのを知っている。近いうちにコンクールか何かが控えていて予定が立て込んでいて、日程調整に時間がかかっていると捉え、気長に待つことにした。それかゲームソフトが見当たらず、慌てて探して見つかったら返信しようと思っているのだろうと推測した。



 そのクモに襲われる夢を見てカナタは飛び起きたのは深夜だった。夢と分かって安心すると、元凶たるラクアにムカつき返信を試みる。すると問題の画像の前に送られていたメッセージに気づき、ラクアのことを思い出した。カナタが攻撃的になったときの用心棒として連れてこられた体格の良い他校生で、クモ系のぬいぐるみをまとめ買いして女子勢にドン引きされていたあの男だと。


 そして用件はその日にサラッと約束していたゲームでの対戦の申し込み。約束して一週間以上が経過し、そろそろ日程を決めないかという話だ。

 そんな相談とは思いも寄らず何時間も既読無視していたカナタは焦りで余計に目が覚めて、部活の予定を確認して都合の良い日時を答えようとした。慌てて打ったので送信前にラクアからの文章を読み返すと、自室同士でのオンラインではなく彼の家でのローカル対戦をしたいと言っていることに気づく。


『今からでいい』

『いや、もう遅いし寝ようぜ。それにせっかく近くだからさ』


 インターネット利用ならお互い移動せず、思考が声に出ても相手に聞かれなくて良いとカナタは提案したが、ラクアからすぐに却下と返された。

 起きていたあたりこんな夜中までモンスターの厳選に勤しんでいたのかと呆れ、逆にこちらが起きているのは彼の不気味な画像のせいだと怒り、対戦ついでに対面で遊びたそうな善意で誘っていそうな雰囲気と例の画像とのギャップでカナタは気が狂いそうになった。


『分かった。じゃあ明日返事する』

『もう今日だけど』

「お前嫌いだ」


 次の学校終わりに返信するとカナタは約束したところラクアに揚げ足を取られ、不貞寝した。



 まだラクアは起きている。返信を待つのはついで感覚で、ノベルゲーム作成を進めていた。そろそろ終わりにしようかというところでカナタから返信があり、そのせいでもう少し続けようと考えた。


 今からでいいというカナタの意見。そこにラクアは自身との熱意の温度差を感じた。今からできるということはもう準備ができているということ。恐らく彼は誰がいつ相手であっても普段通りにやるつもりだから、そう言えた。カナタならどんな手を使ってくるか考察して準備を要するラクアとは対照的だ。そして普段通りと分かればそれに強い編成に寄せれば有利になる。


 確かに約束自体は一週間も前だから、カナタも同じようにそのときから準備を始めて、もう済んでいたと考えられなくもない。だとしたら済んだ段階で彼から連絡をしても良かったわけで、そうする気が起こるほどの熱意は無いと考えられる。


 これがどういうことかというと、アイリの反応もこれと似たものが予測できるということだ。ソリティアしに家に来ないか。そう誘ったとき、彼女は乗り気でなくても行くと答える、そんなパターンだ。いわば社交辞令的な対応。誘われたから気分を害させないよう乗って、少し遊ばせてもらったら帰って、そこでおしまい。そんな未来が考えられたラクアは、ぐっすり眠る気になれなくなっていた。


 そしてラクアは気づく。彼女を自分から誘うことは、彼女との関係の終わりに繋がる可能性に踏み込むことと同義なのだと。これがもし彼女から来たいと声がかかったのなら、彼女からも強い興味があるわけで、過ごす中で次に会う口実が生まれてそれを約束し、次を作れる。

 けれども彼から誘うのでは彼女からの矢印は関係ない。軽い気持ちでオーケーしてくれるのは、断られるのと大差ない。繋がりが途切れる猶予が少し延びるかどうかの差しかない。 


 そうなるのが無意識に怖くて、アイリから動いてくれるのを待っていたのだとラクアは自覚したのだ。そして今に至るまで空欄のチャット履歴が、その可能性は無いと証明していて、待てば来ると現実逃避していただけだと気づいた。


 けれども彼は折れない。パソコンの中にある、彼が作成中のノベルゲーム。その物語は恋愛成就だけがゴールではない。ヒロインに好かれるために苦手な味を好きと偽り仲間と思い込ませたことを謝ることが一番重要なゴールだ。

 この問題はキャラクターのモデル、つまりラクアとアイリにとっても言えること。彼女は彼を味の好みが合う仲間だと思っているから、春休みに土産をくれたり植物園の散策に付き合ってくれた。素性を隠していると、バレたときに心を傷つけてしまう。好かれたくて隠してたなんて言い訳では許されない。


 正直な自分を見てほしい。そのうえで好きになってほしい。その願いを叶えないまま折れてなるものかとラクアは前を向き、課題としてメモに保存してパソコンを閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。