31話 納得いく完成を
川口青空澄が能力者になって"同期"に加わった。それから初めての週末、三郷楽阿たちは交流会を開き、既存メンバーで決めて取り掛かった課外活動、ノベルゲーム作成のことを話した。
ラクアたちのように自分で物語を作りたいか、彼らの物語を手伝いたいか。アスミの希望を聞いたところ、彼女の意見はどちらでもなかった。彼らの夢が叶う、つまりゲームの完成のビジョンが見えないから、付き合いたくないと断られた。
武蔵浦春桜と水天宮千城は、アスミの意見そのもの以上に彼女のイメージとのギャップで絶句した。サクラは始業式の後に彼女を遊園地に誘って一緒に騒ぎ、チシロはさっきまでBランク能力者の交流会でチームを組んでサクラは姉みたいだと意気投合した。
初めて会ったが仲良くなれそう。そう思って活動の説明をしたのに、雰囲気がガラッと変わった冷たい態度を向けられたことにショックを受けたのだ。
「徒労に終わって時間を無駄にする前に辞めない?」
「俺は俺の未来を信じる。無駄なんかで終わらねえ」
ラクアは言い返す。アスミがどこまで見据えているかは分からない。けれども彼は無駄骨で終わらないと確信している。なにせ彼はゲームを完成させた後、小学校の卒業式の日にタイムスリップする。自分と好きな子がモデルの恋愛ゲームを作成して得たノウハウでラブレターを書き、彼女の下駄箱に置く。それを過去の彼が発見したというのが二年前の出来事だ、と彼は決めつけている。それが彼の納得いく完成を迎えると信じて疑わない根拠だ。
「私だって、目標があるもんっ」
「できなかったで終わるとか無いから!」
などと滅茶苦茶な根拠を抱いているとは思いも寄らないチシロとサクラは、それでも彼の意見には共感した。時間の無駄だとか、そもそもゴールに辿り着かないとか決めつけられる筋合いは無いと反論する。
「……ねえ、それは能力で分かったこと?」
サクラはアスミの特殊能力を思い返す。それは成功のタイミングが直感で分かるというもの。遊園地で待たずに乗れるアトラクションやフードコートで空くテーブルを見つけられる便利な力だ。サクラたちにも能力があり、彼女らは能力者になったのが中学三年生の四月組だ。その縁ができたばかりにアスミをゲーム作成に巻き込んでしまったわけでもあるのだが。
サクラが思ったのは、その能力で活動に参加するチャンスを感じられないからストップをかけているのではないかという考えだ。
「ごめんね、いきなり。私が元いた街は、夢への執着が凄くて。叶わないとか無駄だとか、そう思われたら捨てられるから」
「そういえば引っ越してきたのよね。どんな理由で?」
アスミは故郷由来の思想だと明かす。島に来たばかりということは数日前のチャットでの自己紹介で知っていたが、新生活で忙しい彼女に深掘りはせずにいた。
「……そんな空気が嫌だったから」
「大変だったのね」
「じゃあさっきのは、もしかして本音じゃなくて」
「その街らしい考え方で、俺らの返事を試したのか?」
抜け出してこの島に来た。そう察せられて気まずくまるとともに、もしかしてアスミはわざと無駄な活動だと突きつけてきたようにも思えた。指摘されて真に受けて、折れてしまう脆い意思かテストしたのかと。それなら彼女のイメージとのギャップに合点がいく。
「でも、成功の兆しが見えないのは本当。作ることしか考えてないの?」
「それは…… やってもらいしたい人はいるけど」
「ゲームでしょ? 売ったりしないの?」
ラクアたちのゴールは、完成以外に考えていない。プレイしてもらうときも、そのパソコンを貸すだけだ。販売や賞への応募は考えていない。つまり手間と時間をかけても売り上げや賞金などの成果を得られないのだ。
「売れるかは分からないけど、コンテストはあるわ」
応募ができることは知っている。ゲーム作成に使うツールを調べたとき、それを使った自作ノベルゲームをネットに投稿するコンテストがあることを知った。実際に応募した人が、その経験から初心者向けの解説動画を投稿しており、彼らはそれを参考に作成している。
「初めてだったから、締切を考えないでやろうと思ったんだ。元々俺がちょっとゲーム作れるってことから、皆で作ろうって話で始めたことだし」
「そうね。ジャンルにノベルゲームを選んだのも、自分らしい物語を書けるからだし」
ゲーム作成が趣味の彼がいるから課外活動はオリジナルゲーム作成にしようと意見が出て、自分で考えた物語をゲームにすれば独創的な作品ができるからノベルゲームに決定した。アスミは加入する前の話だ。
それが目標だったから、応募やそれに伴う期限は考えていなかった。ただそんなやり方では駄目だと、アスミの言葉で自覚した。
「でも、ここまでやる気ならチャレンジしてもいいとは思う。コンテストに」
「私は賛成。たくさんの人にやってもらいたいし」
「……うん、私も」
ラクアの提案にいの一番に賛同したのはチシロ。彼女はきょうだい恋愛は異端とされる現実に一石を投じたくてゲーム作成を始めた。それを知るラクアとサクラは反対派だが、年子のきょうだいへの偏見を無くす意味では彼女のゲームは効果的と思うので、コンテストへの応募という形での公開には賛成する。
「次のは……これだ、八月三十一日締切」
「四ヶ月半……うん、いいと思う」
一学期から進められる夏休みの宿題と考えれば、間に合うと希望を持てた。すでに始めて、キャラクターまでは決まっている三人に限っては。
「あ、でもアスミはこれから始めるから時間足りるか……」
「いいよ、私は。皆のを手伝うから」
ラクアたちは春休みの間にゲームのジャンル、世界観、グッドエンド、そして主なキャラクターまで決まった。自分や特別な人をモデルにしたから、現実から当て嵌めて淡々と進んだ。だから期限に前向きだが問題はアスミ。しかし彼女は自分のゲームを作成しないと答え、代わりに三人の作業を手伝うと決めた。
「だいたい、初めてのゲーム作りで協力しないで三人で三つ作るなんて……よくそんな無茶しようと思ったなって」
遠慮ではない。現時点でも人員に対してやるべきことを増やし過ぎている感があるのに、これ以上増やすと力尽きるのが現実的に思える。
「それは思う。でもどれかに絞るのはもったいなかった」
「だろうね」
ストーリー、絵、音楽。ノベルゲームの要素はいくつもあるが、三人全員がストーリーを書きたい意思を持っていた。実際この手のゲームは物語が肝だから、偏ったのは悪いことではない。絵や音楽は替えが利くが、物語はその人にしか書けないのだから。
完成度や締切は考慮せず、やりたいことをやる。そうやって始めたことを、ラクアたちは後悔していない。
「ところでアスミの周りで面白い話は無い? 俺らのゲームに混ぜられないかと思って」
手伝ってくれるのは嬉しいが、それだけではアスミは物足りなく感じているかもしれない。そこでラクアが考えていたのは、彼女が彼らと同じように一作品を考えるのではなく、三人の作品の一部を作ることだ。キャラクターを決めたといっても軸になる二人だけで、まだまだ組み込む余地はある。
「どうだろう。一旦、皆のお話聞いていい?」
「いいぜ。これで見せながらな」
アスミは一から考えるより、三人の物語を知ってから考える方が良い閃きを得られると考えた。そこでラクアたちは各々が考えたゲームの世界観と結末を説明する。彼が持参したパソコンの出番だ。紹介用にファイルをダウンロードしてきたのが役に立つ。
「俺のは……普通の恋愛もの。好きな女の子がこれから違う高校に進学するとき、想いを告白する話」
「アスミは無かった? この島に来る前に、告白とか」
チシロとサクラに比べたら尖った要素がないと自覚しているラクアは、三人の中では無難な作品だと紹介する。そしてヒロインの経歴は、今のアスミに近いことにチシロは気づく。離れ離れになる前に、思いを打ち明けられたことはあるかと尋ねた。
すると彼女は考え込んだ。言わない方が良いとも考えたが、その様子から心当たりがあると見抜かれており、はぐらかすには手遅れと理解する。
「まあ、期待はしてたよ。誰か呼び止めに来ないかなとか、それでも出発しようとか。そしたら来たのよ一人、大事な話だって」
特定の誰かに期待していたわけではない。ただ中学生だしそういう甘い展開に直面したい気持ちは人並みにあった。そして出発間際、想像通りのシチュエーションで後ろから声をかけた男子がいた。名前を呼ばれ、大事な話をしにきたと告げられ、次の瞬間儚く散った。
「お前は街から追放だ、なんて言われてカチンときたわ」
「うわ、酷い……どうせお別れなのだから好き勝手言っていいとか思われたのかしら」
「あー、それだわサクラ、絶対そう」
呼び止めどころか見送りですらなかった。留学という名目だが実態は追放だと言われて、気分は最悪の門出になった。もう関わらないのならどんなに険悪になっても関係ない。最後に玉砕覚悟で好きと告げるのなら逆のパターンもあるのだとサクラは考えると、きっとそうだとアスミは強く頷く。
「そいつは夢を壊す能力持ってる奴で、追放されるべきなのはどっちだって話よ」
そう聞くとその男子がメインの物語を読みたくなるラクアだが、同時に不安になった。彼の好きな子も、似たような目に遭っていないかと。春休みに会ったときはそんな素振りを見せなかったし、小学校の旧友とも変わらず仲良くしていた。私立に進学したのを悪と捉える人は居ないと思いたかった。
ただそんな不安を払拭するためにも、自分は味方だとアピールになるラブレターを渡すのは効果的だったように思えた。
「私はお兄ちゃんと結婚を」
「違うの。同い年のきょうだいが、マイナスな印象に立ち向かう話」
今度はチシロが紹介するもサクラは割って入り訂正する。実際間違いではないのだが、軸はアブノーマルな恋愛ではなく、きょうだいの絆。そう伝えないと、初っ端からアスミにドン引きされてしまうにちがいない。
「ほら、チシロって同い年のお兄ちゃんがいるのよ。でもそれ、世間的には、ね……」
兄、水天宮渡はSランク、同学年で男子一位の能力者。アスミにとっては実力者のイメージだが、それ以前、そしてチシロのゲームの中では真逆。期待にそぐわない子だったからすぐ第二子を身籠ったという不快な噂を流される立場だ。
「だから見返すために兄と妹が頑張るお話。どうするかはお楽しみ」
兄と妹それぞれが目指すことはもう決めてある。それは禁断の恋がノイズになるくらい、純粋で愛溢れたものだと、サクラもラクアも胸を張って言える。
「私は一人っ子だし、周りに年子は居ないな……でも、気になるかも」
「でしょ? じゃあ最後は私」
詳しくはまた今度。アスミも知ったらきっと応援したくなる。そう信じたサクラはチシロが兄の想いで暴れる前に話題を移す。
「……聞かなくても分かる。フユキのことでしょ」
「正解。さっき会ったのよね、Bランクの女子会で」
アスミはここに来る前にチシロと一緒にBランク女子の交流会に参加していた。そこで会ったのがサクラの妹の広小路冬雪。チシロが自分をモデルにしたキャラクターがメインの作品ということでサクラもそうだろうと予想がつき、そこに深く関わってくるのは訳ありそうな妹だと読めた。その予感は的中し、読み当てたきっかけにサクラも気づく。
「もしかしてこっちも禁断の恋?」
「違うわ! ちゃんとしたきょうだい愛よ」
年子で同性という特殊な恋のケースかと疑ったが、そんなことはないとサクラは否定する。
「でも普通の話ではなくて、謎を解くことがメインの話」
「謎解きかぁ…… いや、前いた街に心を読める奴がいて、ネタバレされてムカついた記憶が」
アスミは嫌な思い出が頭を過るも、すぐに忘れて、サクラの案も面白いと思った。姉妹で苗字が違うのも迂闊に触れるのを躊躇う謎の一つで、それを本人がゲームで再現しようとしているのだ。解き明かしてみたいと思うと同時に、ネタバレは食らいたくないと願った。
「そしたらサクラのはあまり手伝わない方がいいのかな。謎の答えが分かっちゃうかも」
「そうね……うん、私のことは大丈夫」
アスミの手伝いはラクアとチシロ優先。それはゲームのジャンルの違いだ。それで全員納得し、彼女の役割は決まった。今日はBランク交流会後の時間に割り入れて"同期"の会を開いた。そして彼女は島に来たばかりで、学校や家のことで優先することがある。
これにて会はお開きとなり、新メンバーを加えた課外活動が始まりを迎えた。




