30話 意欲を持たせたい
『ところでアスミの話なんだけど』
『あー、今日能力者になって俺たちの"同期"になる奴だよな』
ノベルゲーム作成をオンラインで作業しつつ、水天宮千城は話を切り出す。今日は中学三年生一学期の始業式があった。学校で測定し能力者と判明した同学年の他校生がいた。それが川口青空澄。チシロと同じBランクだ。そのことに彼女と三郷楽阿が気づいたのは、帰宅してスマホを見たときだった。
『つまりこのゲーム作りにも参加してもらうんだけど』
『私たち三人だけで決めたことだしね』
ラクアたちが能力者になったのは今月の頭。この島には能力者になった時期が近い同学年を"同期"と呼び、アスミのように後から加入するケースもある。これが問題で、初期の三人すなわちラクアとチシロそして武蔵浦春桜での"同期"の課外活動として始めたノベルゲーム作成に、アスミをどう参加させるかを考えなくてはならない。まず興味があるかだが、そもそもサクラ以外の二人は彼女のことを知らない。
『なのにごめんなサクラ、連絡気づくの遅れて』
『いいの、気にしなくて。私もたまたますぐ気づいただけだし
ただサクラだけは、すでにアスミと顔合わせを済ませている。彼女は能力者に登録された後、同級生からグループチャットに招待された。サクラはスマホを学校に持っていっており、帰宅中にその通知に気づいた。
チャットの自己紹介でジェットコースターが好きと分かったので、サクラは返信がてら地元の遊園地に誘った。始業式で半日下校だから、今から来られないかと。彼女は行くと返事したのでサクラはラクアたちにも声をかけたが、スマホを持ち込まず放課後遊んでいたのでしばらく返事がなく、二人で行ってきたのだ。
ただサクラは気にしていない。勢い任せの提案の自覚はあり、中学校は原則スマホ持ち込み禁止。島に来たばかりのサクラだったから、持ち込んでいてアスミの加入にいち早く気づけたに過ぎない。
『会ってみてどうだった?』
『元気で気の合う子だったわ』
自己紹介の文章でのイメージ通りだったとサクラは答える。チャットのアイコンで知った顔を材料に駅で合流し、遊園地やフードコートに行った。明日も学校なので長居できなかったが、もっと居たい、また遊びたいと思って見送った。
『夢中でゲームのこと話すの忘れちゃってた』
『そうか、まあいいか。そもそもこの島に来たばかりみたいだし、今はバタバタしているだろうから』
なお肝心のノベルゲーム作成について伝えそびれていた。時間があればサクラが家に案内してパソコンから顔合わせと活動報告ができたのだが、そんな意識が吹き飛ぶくらい賑やかな時間を過ごしていた。
伝え忘れたのなら仕方ないとラクアは割り切る。そしてアスミの自己紹介を見返すと、サクラと同様で他所から来たばかりと読み取れた。だとすると学校や地域に慣れるのに忙しい時期で、伝えると却って彼女に負担になったかもしれないから、そうなるのを防げてよかったと捉える。
『それなのに私は遊園地に誘って……』
『いや、別にダメ出しのつもりじゃ』
それならサクラが登校初日にアスミを遠くの施設まで呼んだのも彼女への大きな負担と言える。だがラクアにそういう意図はなく、彼女が活動の伝え忘れを肯定的に捉える根拠を述べたに過ぎない。
『とにかく、アスミも参加してくれるとして、何をやってもらうかだ』
ラクアは話を戻す。"同期"となったアスミがこの活動に加わるのは前提として、彼女に何を始めてもらうか。
『私たちみたいに一つ物語を考えること?』
『それでもいいし、俺らのを手伝ってもらうのでもいいかも』
『確かに。私たちは自分で作りたいってなったからそれぞれやってるけど』
三人が別々のゲームを作成しているのは、それぞれ書きたい物語があるからだ。アスミにも同じ目標があれば彼らと同じように始めてもらえばいいが、特に思いつかなければ残りの作業、具体的には絵や音楽の素材集めを手伝ってもらう手もある。ラクアとしてはプログラミングができるなら分担してもらいたい。
『これは本人の希望次第だけど……私たちの熱意を伝えるのが大事だと思う』
『私も。せっかくならやりたいって思ってほしい』
かといってこれは仕事ではなく課外活動。義務感でなく意欲を持たせたい。三人が始めたのも、やりたいと思ったから。
『そうだ、私スズエに聞いてみるよ。こういうときどうしたか』
『スズエに?』
『うん。ほら、あの"同期"も途中参加の子いるじゃん』
"同期"の括りはいくつもある。ラクアたちは中三の四月組で、チシロが言ったのは中二の二月組の話だ。そこは彼らと同様、初期が三人で後から一人加わった。相談するにはうってつけだ。三人のうちの東戸寿々絵は同級生。明日学校で会う。
『なるほど……明日会うのよね? お願いしていい?』
『もちろん。ね、ラクア』
『だったら俺はテツジに聞いてくる。そこも同じような感じだし』
『ありがとう。じゃあ、分かったこと明日教えてくれる?』
チシロの案を聞いてラクアは特殊能力者のデータベースを見返す。すると他にも途中参加ありの"同期"を発見する。中二の一月組。そこにも彼の同級生、酒々井鉄道がいて、彼女と同様明日学校で話ができる。これで方針は決まり、続きは明日の夜となった。
通話を終えてサクラは考える。自分にできることはないかと。思い当たるのはチシロたちが相談相手に選んだ"同期"の、追加側への相談。二人の相談相手は自分たち初期組の立場にあり、今回でいうアスミと同じ追加組の意見を聞きたい。大船切裏と佐倉満の二人だ。
どちらもサクラとは他校生だが、同じAランクとしてこれから関わる機会が出てくる。コトリは女子だから聞きやすく、ミチルは可愛い見た目だが中身はワイルドな男子。悩んだ結果、後者にチャットを送信した。
『俺は前から知ってたしなぁ。同級生のモモカがやってるのを手伝えるってなったから、それだけでやる気出た』
ミチルの意見は素直だったが、参考にはならないとサクラは思った。追加組として同じ立ち位置だが、初期組と繋がりの有無が違う。その差は大きい。
『お前はそいつと今日一緒に遊園地行ったんだろ? なら大丈夫だろ。友達とゲーム作りなんて、喜んで参加すると思うぜ』
けれどもミチルは、自分とアスミは同じと捉えた。確かに前々から面識はない。だがサクラは今日会ってきた。そこで仲良くなったなら、きっと前向きに課外活動に合流してくれると彼は思う。その意見はサクラの行動の肯定と、悩みへの解決の両方に作用した。
サクラはミチルにお礼を伝え、聞いて良かったと安堵した。
その後コトリからサクラにチャットが届いた。アスミのことで困ってると思って、向こうから声をかけてきたのだ。すると彼女は、ミチルに聞いたから大丈夫と答えた。それから彼の元にコトリから裏切り者め、と謎の呟きが送られ、なんだコイツと彼は首を傾げた。
翌日、チシロはスズエに相談した。後から"同期"が加わったとき、課外活動に参加してもらうために意識することのアドバイスを求めて。
「人が増えても方針はそのままだったわ。人手が多いほど効率上がるし」
「そうか……そういうことも考えて決めればよかったな」
スズエたちの活動と違い、人手の多さが作業の進みに直結しない。後から"同期"が加わるかは分からなかったし、三人とも意識していなかった。考慮しておけばこうして悩むことはなかったかもしれないと反省した。
「……でも、"何を"よりも"どんな気持ちで"の方が大事」
「気持ち?」
「ええ。楽しいって気持ちは一つじゃない。同じ授業でも、強いチームだから楽しいのと、友達と同じチームだから楽しいってのがあるじゃない?」
活動自体が楽しいか、仲間がいるから楽しいか。体育の授業を例にしたその観点にチシロは納得した。
「大事なのは初期組と追加組の壁を感じさせないこと。そのためにチシロ、ランクが同じあなたの存在が重要よ」
「……そっか、なるほどね」
仲間との楽しさを得るためにあってはならないのが疎外感。やりたいと合意して取り掛かっている初期組と、やることがあらかた決められた活動に強制的に後から加わる追加組では、熱意に差が生まれてしまう。そこを埋めるには、組という概念を取っ払うこと。そこで有効なのは能力におけるランクというシステム。
幸いアスミにはチシロという"同期"かつ同ランクがいて、加入時期とは違う形で組分け仲間ができる。その点を活かすことが大事だと、スズエは彼女にアドバイスを送る。
「それにしても、変わったわね。今までは困ったらワタルに聞いてたのに」
スズエは相談とは直接関係ないが、その相談を直接自分にしてきたことをチシロの成長に感じた。兄の水天宮渡に相談し、彼がスズエを適任と考えて彼が代わりに聞いてくる。去年度までのチシロだったらそうしていただろうから、彼を呼ばず一人で聞いてきたのを進歩と捉えていた。
「……ワタル抜きで決めたことだからかな。"同期"で話してたから」
チシロの中では、兄に頼ろうという考えがそもそも生まれなかった。なぜかと振り返ると、それは彼がいない場で話し合っていたことが原因と思われた。その話し合いの輪は能力者になったことで生まれたものだから、最近の変化ということにも筋が通る。
「これでアスミが男の子だったらそのまま恋に発展したかも」
「無いから」
その調子で兄離れできればチシロのブラコンを解消できると期待できる。あわよくばアスミが男子だったら接するうちに彼女の興味が兄から移っていけたらと思うスズエに対し、チシロは頑として答える。兄に頼らず動けるようになったからといって恋心は揺らがないと。
「ラクア、俺にラブレターが!」
放課後、テツジは意気揚々とラクアに駆け寄る。手には手紙を持っており、ラブレターと思い込んで浮かれている。見せつけられるラクアは、それは本当にそうなのかと首を傾げる。言葉なくとも彼の反応を読み取ったテツジは、彼の前でその手紙を開く。下駄箱で見つけたので送り主が誰かは分かっていない。
相談があるから一緒に帰ろう。"同期"が増えたときのことで。これが手紙の内容で、最後には送り主ラクアの名前がある。
「お前かよ!」
テツジの反応はラクアの予想通り。やかましいが興奮すると声が大きくなり、本人は耳栓で自覚していない。騒がしいのを嫌い耳栓を着けるテツジに普通に声をかけるのは無駄で、用があるときはノートや黒板を利用するのがセオリーで、ラクアは手紙を手段に採用しただけだ。
『そしたら拗ねて教えてくれなかった』
『もう……大丈夫、私が聞いてきたから、ミチルに』
糠喜びさせられたことを根に持ってテツジは耳栓を外してくれず、ラクアは相談に失敗したと帰宅後に報告した。それを聞いたサクラは彼の手段が悪いと呆れつつも、テツジの"同期"に聞いたから事足りると返し、本題に入る。
『何をやるかよりも……私とやるのを楽しいって思ってもらいたい。でも、どうするかはこれから考えないと』
『私も似てるかも。何をじゃなくて、このメンバーでの良さを感じてもらいたい』
一緒に取り組む仲間。それをやりがいに感じてほしいと思えるように頑張る。サクラとチシロが相談で得た答えは、相手が別々ではあったが考えは似たものだったと気づく。その考え方にラクアも賛同した。
『じゃあ、週末また集まろう。アスミも呼んで』
『そうね。場所はチシロの部屋でいいかな?』
アスミの通う中学校からは、少し遠いが電車で一本。前に三人で交流会したときと同じくチシロの家に集合で良いと判断した。後は彼女と予定が合うかで、サクラは早速連絡をとる。
『いつでも大丈夫だって』
『じゃあBランク交流会の後、私が連れてくるよ』
チシロは提案した。週末にはもう予定が入っている。そこに同学年Bランク女子、アスミを加えた八人での交流会がある。そこで一緒にいるから、帰りに家まで案内して今度は"同期"での交流会を始めるという流れだ。
その案にサクラもラクアも半分賛同した。
『だったら俺らがそこに行こう。そんな時間かからないし、パソコンも要らないと思う』
『あっても一台かな? でもそうね、私とラクアが近くで待機する方がいいか』
外出する用事終わりに来て終わったら帰る。それなら用事の会場付近を集合場所にすれば、帰るまでの経路が短縮されて楽になる。家でないとできないものでもないので、備えはラクアのパソコン一台で、長々と拘束するつもりもない。だから場所はカフェなりファミレスなり四人分押さえておけばいい。デメリットはラクアの移動が増えることだけで、メリットの多さを考慮すれば気にするものでもない。
『じゃあそうしよう。終わったら連絡するね』
そうと決まればサクラは集合場所を探し、当日はチシロがアスミを連れてそこに向かう。荷物のあるラクアは適当なタイミングで合流。交流会の流れが決まり、オンラインでの話し合いはノベルゲーム作成に戻った。
そして当日、アスミの口からラクアたりが予想もしなかった言葉が飛んできた。
「こんなに叶わなそうな夢に、協力なんかしないわ」
遊園地やBランクの集まりで見せていた一面とはかけ離れたその態度に、サクラとチシロは固まった。初対面だがグループチャットでの雰囲気と違うと感じるラクアも同じ反応をした。




