華麗で優雅な前座のアホ
勘違いでランが騒いだ夜の翌日…今日はいよいよ「洗礼の儀」の発表式である。
「よっしゃ、ほしたら発表式の会場に行こか。特に何もないとは思うけど、道中と式の間の護衛は任せたでランドはん」
「任された、折角のランの晴れ舞台だからな。俺も全力を尽くそう」
「またあのアホ息子が絡んでこないとも限りませんからね、私とお祖父様も油断はできません」
「イブキよ儂はあくまでもお館様の護衛じゃからな、ランお嬢様の護衛はお主とランド殿でしっかりと全うするのじゃぞ。まぁ、ランド殿がいて危険は無いと思うがの…」
「それじゃあ行きましょうか、皆さん家の方は任せましたよ」
「はいお館様」
「行ってらっしゃいませ」
屋敷の門の前に集まった使用人達が、ツバキの言葉にそう答える。
そうして屋敷を出たランド達は、五人で発表式の行われる会場へと向かうのだった。
「それにしても、会場にはツバキさんも同行されるのですね?」
道中でランドがそんな風に口にすると、ツバキは「ええ、娘の大事な晴れ舞台ですからね」と答える。
「私に限らず、他の挑戦者の家族も同じように同行するのが殆どでしょうね。あとはランドさんのように祠に同行した護衛の者等も居るとは思います」
「そうなんですね」
「ええ、滅多にあることではありませんが、過去の発表式では挑戦者同士で「自分達の方が相応しい」と…その時の勝利者に難癖をつけて揉めたという記録もあります。万一に備えるに越したことはありませんから」
ツバキがそう言うと、イブキが「となると今回は気を付けねばなりませんね」と口にする。
「今回はあのアホ息子もいますからね、ラン様の結果を知って何かしら言ってくるかもしれません。最悪の場合、自分の護衛を私達にけしかけてくる可能性も…」
そう懸念するイブキに、ランは「大丈夫やって♪」と呑気に答える。
「ワガマがどこの誰を雇ってるんか知らんけど、ランドはんより強い奴なんておれへんわ。仮にアイツの護衛が絡んできてもランドはんなら返り討ちや♪」
ランの言葉にツバキ達は「まぁそれもそうですね」と頷く。
「祠での話を聞くに、ランドさんに勝てる人間が早々いるとは思えませんね」
「確かにのぅ、死に場所を探す愚か者位しかランド殿には絡まんじゃろうて…」
ツバキとサイガの言い分にランドは「あの…」と口を開く。
「勿論ランを守る為に全力を尽くしますが、俺も人間ですよ?」
「「気にしないでくださいこっちの話だ」」
「えぇ…」
二人の言葉にランドが困惑すると、ランとイブキは笑いながら口を開く。
「えぇやんランドはん、ウチはランドはんの正体がどんなんでも気にせぇへんで(格好良くて強くて優しいところは変わらへんからな///)」
「そうですよ、ランドさんは信用できますから」
「気持ちは嬉しいが、サラッと俺を「人外」としてないか?」
「「別に…」」フイッ…
「なんで目をそらすんだ?」
「まぁまぁ気にせんときや、ほら会場が見えてきたで。ここからしっかりと護衛頼むわな♪」
「…まぁいいか、とりあえず気をつけるとしよう」
そんな会話を道中でしながら、ランド達は「洗礼の儀」の発表式の会場へとたどり着いたのだった。
会場の中は沢山の人が発表式の開始を待ってひしめき合っていた。
「すごい人だかりだな…」
会場の中に入ったランドがそう呟くと、隣もランも「せやねぇ…」と同意する。
「30年に一度の祭り事ですからね、街の人達の興味もひとしおです」
ツバキがそう言っていると、ランド達のもとに一人の男がやって来た。
「これはツバキ様、来られていたのですね」
「えぇ娘は今回の挑戦者の一人ですからね、親として娘の晴れ姿は見ておきたいですから」
「そうでしょうな、ではこちらへついてきてください。挑戦者とその護衛はこちらの方…舞台の緞帳の裏で待機になりますので。ご家族の方は二階の座席の方へ行ってください」
男はそう言うと、人混みの中を進んでいく。
ランド達は男のあとを追おうとしたが、これだけ人がいるとなかなか進めなかった。
「ちょ…ちょっと人多すぎひん?」
「確かにこれは少し進みにくいですね…」
ランとイブキがついそんな事を口にすると、ランドは「ふむ…やむ無しか…二人とも少し我慢しててくれ」と口にする。
「「え?」」
ランとイブキがそう口にしたかと思ったその時…
「よいしょっと…」
ランドはそう言うと二人の足を抱えて持ち上げた。
「わっわ…?」
「ちょ…ちょっとランドさん?」
突然持ち上げられた二人が驚きの声を出すと、ランドは「そのまま俺の肩の部分に腰を下ろしてくれ」と口にする。
「えっ…えっとこうか?」
「は…はぁ…」
ランとイブキはランドの言葉に咄嗟に従ってランドの鎧の肩の部分に腰を下ろす。
「よし、念の為兜の角みたいなところを掴んで落ちないようにな。すいませんツバキさん、とりあえず二人を連れていきます」
そう言うランドに、ツバキは少し驚きの顔をしつつも「え…えぇわかりました。私とサイガは二階の方へゆっくりと行きますので」と返した。
「はい、それじゃあ行こうか二人とも。なるべく揺れないようにするがしっかりと掴まってろよ」
そう言うとランドは二人を両肩に乗せたまま歩き出した。
そんなランドの肩に乗っているランとイブキは…
「あ…あのランドはん…これはちょっと恥ずかしいというか///」
「な…なぜ私までこんな…///」
と少し恥ずかしそうにしているのだった。
― ― ―
同じ頃、挑戦者達の控える舞台の上では…
「ねぇ貴女、どこまで降りれたの?」
「全然駄目だったよ、罠とか魔物とか沢山なんだもん」
「そうよねぇ…しかも奥の部屋にあんな魔物がいるなんて思わなかったわよね」
「俺も協力者と頑張ったが、あまり行けなかったな…」
「申し訳ない、俺達にもっと力があれば…」
「いや良いんだよ、貴方達はこうして俺を無事に戻らせてくれたんだ。感謝こそすれ恨みはしないさ」
「お、アンタ…ギルドで見たことあるな。たしかBランクの…」
「おお、アンタもこの儀式の護衛依頼受けてたのか」
「まぁな、にしてもあの魔物や罠には参ったぜ」
「違いないな、罠がある分…外での討伐依頼とは勝手が違って苦労したぜ」
「魔物も外の奴より強い気がしたしなぁ…」
そんなに挑戦者の少年少女達や、それぞれの護衛を努めていた冒険者達が話をしていた。
そんな会話をしていると、一人の冒険者が「ところで…」と口を開く。
「あそこにある一つだけ変わった装いの椅子はなんだ?」
そう言った冒険者の視線の先には、他の挑戦者の少年少女が座っている椅子とは違い…やたらと毳毳しい椅子が鎮座していた。
その冒険者の言葉に、周りの挑戦者や護衛の冒険者達は「あぁ、それはアレの椅子だよ」と答える。
「アレ?」
「ほら居るだろ…今回の「洗礼の儀」で一人だけ突出した目立ちたがりの奴が…」
「あぁアレか…」
周りの言葉でその冒険者も察したのか、自分の顔を顰めるとそこで言葉を切った。
その会話が終わると同時に…何故か舞台の緞帳が上がり始める。
「なんだ?」
「あれ、まだ発表式の始まる時間じゃないだろ?」
「おかしいな、まだ挑戦者は全員揃ってないぞ?」
観客サイドからも挑戦者サイドからもそんな疑問の声が上がる中、どこからともなく「はーはっはっはっ!!」と声がした。
「諸君、今日はこのボクの勝利を讃えるためにわざわざご苦労だねぇ!」ファサッ…
そんな声とともに、ワガマがどギツい派手な刺繍を施された服を着て舞台に現れた。
「喜び給え皆の衆、このボクが皆の期待を背に今後30年の「洗礼の儀」の勝者として街を導こうではないか!」ファサッ…
まだ始まってもいないのに…既に自分の勝利は揺るぎないと確信しているワガマの態度に観客も他の挑戦者達も(うわぁ……)とドン引きした。
「出やがったよ…」ヒソヒソ…
「相変わらず態度と服装だけはブッ飛んだ奴だなぁ…」ヒソヒソ…
「アイツのあの自信ってどこから来てるのかしらね…」ヒソヒソ…
そんな声が囁かれる中、当のワガマはそれを自分に都合よく解釈して悦に浸っていた。
(ふふっ…皆ボクの優雅な出で立ちに言葉もないようだね。彼等のボクを羨む声が聞こえてくるよ♪)ファサッ…
そんなワガマに、発表式の運営をしている役員が近付いてきて声を掛ける。
「おいワガマ、勝手に舞台の装置を弄って緞帳を上げるな。まだ全員揃ってないだろが」
そう苦言を言う役員に、ワガマは「ふん、知ったことか!」と言葉を返す。
「どうせボクの勝利は揺るぎないんだ、だから君達の手間を省いてやっただけさ!」ファサッ…
「こちらにも予定があるんだよ」
「うるさいなぁ、さっさと始め給えよ」ファサッ…
「ランが来たら始めるから大人しくしてろ」
「やれやれ、一人増えたところでボクの勝利は揺るぎないというのに…」ファサッ…
(殴りてぇ…)
役員はワガマの態度に心の中でブチギレそうだったが…大人なので我慢した。
「まぁ華麗で優雅なボクとしては…ランの悔しがる顔もこの目で見たいので待ってあげるとするよ」ファサッ…
((ぶっ飛ばしてぇぇぇぇぇ…!))
舞台の上でのワガマの態度に、挑戦者も観客も心が一つになっていた。
「さて…とりあえず一番目立つ形で舞台に上がれた事だし、後は最後に華麗なる勝利宣言を…「うおぉぉぉ、なんだありゃあ!?」…!」
ワガマが更に何かを宣おうとしたその時、観客席側からそんな声が聞こえてきた。
その声に他の観客や挑戦者達が視線を向けるとそこには…
「ここが挑戦者の立つ舞台か…」
「せ…せやね…あのランドはん…そろそろ降ろしてもらってもエエかな?」
「そ…そうですよ…周りが見てますから…」
「まぁまぁ、ここまで来たんだから半端だし…椅子のところまで連れて行こう」
「「うぅ…///」」
そんな会話をしながら、自分の両肩にランとイブキを乗せたランドがやって来た。
「な…なんだあの鎧武者…?」
「人を二人軽々と持ち上げてるぞ!?」
「あっ、あれランじゃない?」
「ホントだ、普段護衛についてるイブキさんもいる」
「あの鎧武者は今回のランの護衛の奴か?」
「凄い力持ちなのね」
「強そうね…背も高いし」
「顔見えないけどなんだかカッコイイわね!」
「なんだアイツは…」
「あんな鎧武者の奴、この街のギルドにいたか?」
「さ…さぁ…あんな芸当出来るような凄腕が居るなら街でも有名なハズだが…」
そんな声が色んなところから聞こえるとどこかで誰かが「これは…」と口を開いた。
「さっきのワガマの登場よりインパクトあるな!」
「確かに、女性二人を肩に乗せて悠然と歩く鎧武者か!」
「「凄え印象に残るな!」」
「なっ!?」
ワガマはランの登場の仕方と、その様子を見た観客や挑戦者達の言葉に絶句する。
やがてランドは、二人を舞台の上の残っていた椅子の前まで連れて行くと…膝をついてゆっくりと降ろした。
「じゃあランはここに座っててくれ、俺とイブキは後ろに控えよう。イブキも悪かったな」
「う…うんおおきにな///」
「いえ…」
ランとイブキはそう返すとランは椅子に座り、イブキはランドとその後ろに控えた。
そして挑戦者全員が揃ったことにより、ランの登場にポカンとしていた役員がハッとして声を発した。
「え…えーと、お待たせしました。只今より「洗礼の儀」の発表式を行います!」
その発言に会場は「わーー!」と歓声が上がった。
そうして発表式が始まる中、所々の観客や挑戦者の一部では…
「最後のランの登場の仕方凄かったな…」ヒソヒソ…
「あぁ…あの鎧武者何者だろうな」ヒソヒソ…
「あの人凄いなぁ…」ヒソヒソ…
「強そうだね…」ヒソヒソ…
「にしても、あのワガマの顔見たかよ?」ヒソヒソ…
「見た見た、呆気にとられてたわね」ヒソヒソ…
「自分が一番目立つと思ったんでしょうね」ヒソヒソ…
「完全にランの前座になったな」ヒソヒソ…
「これでひっそりと大人しく引っ込んでたら良かったんだろうけど…」ヒソヒソ…
「あの服と椅子が目立って浮いちゃってるよな」ヒソヒソ…
「完全に裏目だな」ヒソヒソ…
そんな会話がされていることにワガマは…
「ぐぬぬぬぬ///」プルプル…
自分が完全に道化となった事に顔を赤くして震えているのだった。
― ― ―
そしてそんな舞台の袖では…
「あ~よかった、あのバカが「君達が横にいるとボクの華麗さが汚れるじゃないか。離れてくれていたまえ」とか言ってくれてて…」
そう安堵するタマモと…
「確かにな、あんな赤っ恥の横には立ちたくない。にしてもあの鎧武者…」
「あぁ…素早さだけかと思ったら腕力もかなりのものだ…」
そう呟くコンゴウとハヤテがいた。
「なに、アンタ等あの鎧武者知ってるの?」
「「昨日少しな…」」
「ふーん、確かに只者じゃなさそうね。ねぇヤスツナ…って…」
二人の言葉にそんな反応をしたあと、タマモが横にいるヤスツナに声をかけようとすると…
「凄え、なんだあの鎧の奴…人間二人を持ち上げる腕力に…今この瞬間でも全く隙が無ぇ。あんな奴がいるなんて世界は広いなぁ…街で会った奴や武術大会の奴も気になるが、アイツとも手合わせしてみてぇ!」キラキラ…
自身も腕が立つからこそ感じ取れるランドの気配に、武芸者としての血が騒ぐのか初めて玩具を買ってもらえた子供のような眼差しで…ランドをジッと見つめているのだった。
そんなヤスツナの様子を見た仲間の三人は…
((コイツのこんなに嬉しそうな顔は久しぶりね))
と呆れるのだった。
リン「ワガマの奴嫌われすぎでしょ…」
作者「行くとこまで行ってやろうかと…」
リン「でも父親の店の従業員や取り巻きはいるんでしょ?」
作者「従業員はまぁこんな親子の下で働く奴等なので、製造の職人以外は人間性は似たようなもんです。話に出ていた取り巻きもこの従業員の息子とかで、親がそうだし媚びればワガマが金ばらまくので性根は残念ってことで…」
リン「あっ、職人はまともなのね」
作者「職人としての誇りがあるので、仕事は真面目にする人達です。ブソウの下で働いてるのも規模が大きい工房なので、素材や設備が充実してるからが理由で親子への忠義は無いです」
リン「その辺が本文で語られることは?」
作者「思案中です」




