神という存在とランの意思
「それで…この後はどうしたらいいんだ?」
「洗礼の儀」の試練が終わったと告げた青龍に対して、ランドがそう尋ねると青龍は答える。
「うむ…この階層の下にもう一つ階層がある。そちらの挑戦者にはそこに降りて「神託」を受けてもらうことになる」
そう言うと青龍は舞台の中央まで行き、床の一部を掴むと持ち上げた。
青龍が持ち上げた床の下には、下へと続く狭い階段が隠されていた。
「挑戦者はここから下へ向かうがいい、そして扉を開いて中に入るのだ」
「えっ、ウチが?」
青龍の言葉にランが反応すると、青龍は「そうだ」と頷く。
「これより下の階層にてお主は祈りを捧げ、「神からの神託」を拝聴してもらう」
「神託…?」
ランドが首を傾げると、青龍は「神託とはな…」と説明を続ける。
「この下の階層にある「神託の陣」の中で祈りを捧げ、神の言葉を聞くということだ」
「あぁ、そういえばツバキさんが「神からの神託を聴こうとする」とか言ってような…って…えっ実際に神の声が聞こえるというのか?」
ランドはツバキから聞いていた話を思い出したが、青龍の言葉に思わず驚きの声を上げる。
「そうだ、尤も…この祠が創設されて以来ここまでたどり着いたものは居ないからな。長い歴史の中で本当に神からの「神託」をここで拝聴したものは人間の中では居ない、そこの娘は歴史上で初めて「神託」を拝聴することになるな」
「ウ…ウチが人間で初めての「神託」を…」
青龍の言葉にランは少し緊張する。
青龍の言葉にランドは「はぁ…神様の声ねぇ…」と呟く。
「なんだ、お前は神を信じていないのか?」
ランドの反応に青龍がそう言うと、ランドは「信じないというわけでもないが…」と口にしてから言葉を続ける。
「なにせ会ったことが無いからな、直に目にした事柄以外は反応に困る。その神様とやらが目の前に現れて、実際に声をかけてくるってんなら疑いようもないが」
ランドの言葉に青龍は「まぁ、人間からしたらそう思うのも無理はないか…」と理解を示しつつも断言する。
「だが神は実際に存在するぞ、私達「守護獣」がこの場にてこの祠を護るのも…神から頼まれた故だからな」
「えっ、皆さんは「神」にあった事があるのですか!?」
青龍の言葉にイブキがそう口にすると、「守護獣」の四人は「ある」と答えた。
「遥か昔…この世界を滅ぼそうと強大な「災厄」が現れた時…」
「私達四人は、当時の人間や様々な種族と共にその「災厄」と戦ったわ」
「そうして俺達はなんとかその「災厄」を封じ込めることに成功した」
「あの時は危なかったよなぁ…」
守護獣四人の言葉にランド達と、当時はまだ生まれてなかったグラシスは「はぁ〜」と声を出す。
「そうしてその「災厄」を封じ込めた時、天より二人の神が降りてきて私達に告げた」
『この世界にうまれし私達の子よ…よくぞ世界の危機を退けた。私達は立場上直接世界に関わることは出来ない…
私達が関わればお前達は私達に頼り成長を止めてしまうかもしれないからだ。
しかしいずれまたこの様な事態が訪れた時の為、私達は貴方達への希望を残しておきましょう。
再び世界に危機が訪れた時…貴方達の傍には新たな希望がきっといることでしょう。
もしまた私達の声が聞きたくなれば、その時は苦難を越えて訪れなさい…私達との繋がりを維持する場を設けましょう。
そこの強大な力を持つ者達よ、貴方達にその場所の守護を任せます…いつか私達と言葉を交えるものが現れるまでその場を護るのです』
「…というお言葉を頂き、私達はずっとこの祠を護ってきたのだ」
青龍の言葉にランド達は再度「はぁ〜〜……」と驚いた顔をする。
「まさか神が本当にいるとはなぁ…」
「ホンマやねぇ…」
「遥か昔ですか、私達にはとても想像ができませんね…」
「俺も初めて聞きましたよ…」
そんな感想を口にしつつ、ランドは青龍に確認をする。
「まぁ昔に神様がいた事はわかった、それで…ランはその「神託」を下に降りて拝聴すればいいんだな?」
「そうだ」
ランドの言葉に青龍が頷くと、ランドは「そういうことなら降りるとするか」とランに声を掛ける。
「せやね、まさかそんな用事があるとはウチも思ってなかったわ」
「貴重な体験だなラン」
「ランドはんおおきにな、ウチ頑張るで。せやから下までの護衛も宜しゅうな!」
「任せろ、ここまで来たんだランの事はしっかりと守らせてもらうよ」
「うん…(なんや…自分の気持理解してからそんな事言われると前よりも嬉しくてこそばゆなるな///)」
ランドとランがそんな会話をしていると、そこに青龍が申し訳無さそうに声を掛ける。
「あー…水を差すようで悪いんだが…下にはその「神託」を拝聴する挑戦者しか行けないぞ?」
「「えっ?」」
青龍の言葉にランドとランは同時に声を出す。
「どういうことだ?」
「え…ウチ一人で行かなあかんのん?」
二人の言葉に青龍は「そうだ」と答える。
「「神託」を拝聴するには神と挑戦者の魂の繋がりを作らないといけない、他の者がいたら魂の波長が乱れ…神との繋がりが作れないのだ」
「それも昔その神が言ったことなのか?」
「あぁ、集中を磨く試練でもあるということらしい…」
青龍の言葉にランドは「うーん…」と思案する。
「話を聞くに貴重なことなんだろうが、ランにもしものことがあるかもとなるとなぁ…。危険な可能性あるならもうここで青龍の「割符」を手に帰るのも一つの手か…」
ランドがそう考えていると、ランは「ランドはん…ウチ行ってみたい」と口にした。
「ラン?」
ランドがランの方に視線を向けるとランは言葉を続ける。
「ウチ…この祠に入ってからずっとランドはんとイブキに守られてるだけやったもん。ウチしかできないことがあるんなら、ウチはそれに挑戦したい」
「ラン…」
「ランドはんはウチに言うてくれたよな、一緒にここに入るということは…きっとウチにもやるべきことがあるんやって。それがこれならウチはやってみたい、ただ守られて下に着きましたってだけじゃなく…ウチもウチなりに役に立ったってことを証明して街の皆に認められたいんや」
ランドはランの瞳にしっかりとした「決意」があるのを見て取ると、ランに向かって言葉を返す。
「…解った、俺はあくまでもランの護衛としてここにいるからな。ランが決めたなら俺が反対する理由はないよ」
「おおきになランドはん」
ランはランドにそう言うと青龍に声をかける。
「ちゅーわけやからウチはその「神託」を聴くために下に降りるで、なにかやるべきこととかはあるんかいな?」
ランの質問に青龍は「ふ…」と笑みを浮かべるとランに言葉を返す。
「挑戦者と言っても所詮は守られてるだけの女子供かと思ったが、お前は違ったようだな。安心するがいい、この下の「神託の陣」までは降りて扉を開けたらすぐだ。魔物も居ないし罠もない、お前はただ陣の中央へと跪き祈りを捧げれば良い。お前の祈りの声が届いたら神達の声がお前に聴こえてくるだろう」
「解ったで、それじゃあランドはんイブキ…ウチ行ってくるで」
「気を付けてな」
「ラン様、どうかご無事で…」
二人がそう言うとランは「うん…」とだけ返すと階段に足をかける。
そこでふいにランはランドの方を見ると、「なぁランドはん…」と声を掛ける。
「なんだ?」
「仮に…仮にやけど…もしウチが「神託」によってなにか傷付いたりしたら、ランドはんは悲しんだりしてくれるか?」
「当たり前だろ」
ランの質問にランドは間髪入れずそう返した。
「「神託」と言うのが神様の声を聞くだけなら大丈夫だろうが、もしその神様とやらがランを傷付けるような事をしたら、俺はランを行かせてしまった自分の判断とその神様とやらに怒りをぶつけるぞ。なんならそんな神様は要らんと…この祠を可能な限りぶっ壊すまである」
((それはやめて…!!))
ランドの言葉に守護獣達は思わず同じ気持ちを心で叫んだ。
「アハハハ、ランドはんならホンマにやりそうで怖いわ。ほしたら神様にはそうならん為にもウチに優しい声かけてもらわんとな」
ランはランドの返事に笑顔でそう返すと、「そしたら行って来るで」と口にして下へと降りていった。
やがてランの姿が見えなくなると、イブキは「ラン様…大丈夫でしょうか…」と呟く。
「俺達がランを信じないでどうする、信じて待とう。もし何かあれば俺が本気で暴れてやる」
「その時は私もお手伝いします」
そう口にする二人を見て、朱雀は「だ…大丈夫だから…本当になにも危険はないから。だから暴れないでね…お願いだから(青龍を負かすような奴が暴れたら本当に祠が壊れちゃうわよ…)」と口にする。
「ならいいが…」
ランドはそう言って立ったまま腕を組みランを待つことにしたが、やはり心配なのか無意識に「もしなにかあったら…」という気持ちから殺気が溢れていた。
「「………」」ゴクッ…
ランドの殺気に守護者達は思わず息を呑んだ。
(なんて気迫だよランドの奴、この気迫でぶちかましくらったら俺も無傷じゃなかったかもな…)
(ラ…ランドの兄ちゃん怖いな…もしアタイが今の兄ちゃんにまともに攻撃されてたら…)
(なんという殺気だ…私との手合わせではまだまだ本気でなかったというのか、どこまでも底の知れない人間もいたものだ…)
(じょ…冗談じゃないわ、こんな化け物みたいな気配持ってるなんて聞いてないわよ。私の作った魔物じゃ手も足も出ないわけね…)
(よ…良かった…お嬢さん方が「絞めろ」と言ってくれてて。もし「ぶっ殺せ」なんて言われてたら俺は自分の階層の水晶と区別つかないほどバラバラにされてたかも…)
そんな思いを心の中で口にしながら…守護者達はランドののんびりとした性格に感謝していた。
― ― ―
一方、一人で下に降りたランの方は…
「ホンマに降りてすぐに扉あったな、えっとここに入ったらエエんやな?」
階段を降りてすぐ目の前にあった扉の取っ手を手にするとゆっくりと引っ張る。
ギィィィ…と音を立てながら扉が開き、ランはその扉を潜ると中に入った。
中に入ると、そこは不思議な青い炎が飾られた柱に囲まれている小さな小部屋になっていた。
部屋の中央にはこれまた不思議な模様が施された円が描かれており、その中央に白い大きめの布が敷かれていた。
「…ここに跪いて祈ったらエエんかな?」
ランは自分なりにどう行動すればいいのか考えながら、円の中央の布に膝をつけた。
そうして正座をする様な形で座ったランは、胸元で両手を合わせると目を閉じて声に出さずに頭で言葉を発する。
(この祠に祀られし神様、どうか私の声が聞こえましたらお声をお聴かせください…)
ランが心でそう呟くと…地下なのに部屋に飾られた青い炎がまるで風に当たるようにユラユラと揺れだした。
目を閉じているランはその変化に気が付かないが、周りの気配や雰囲気が少し変わったような感覚を感じた。
そして一瞬頭の中で…なにかが光ったような感覚に襲われるも、ランはその感覚に怯むことなく祈りを続ける。
(神様…私に声をお聴かせください…)
ランがもう一度そう心で祈った次の瞬間…
………な…
……ん……から……
ランの頭の中で自分とは違う存在の声が聴こえてきた。
(…!…これが神様の声なんか、アカンアカン…もっと集中や…)
ランが微かに聴こえた声へと気持ちを集中させていると…やがてその声は段々と鮮明に聴こえてくるようになった。
(聴こえる…ウチのやない誰かの声が…)
ランが更に集中して聴こえてくる声に神経を集中させていると…
『いやーやっぱり寒くなってくると鍋が良いよな、熱々の食材を口にして…それで熱くなった口の中を冷酒でクイッと冷やす。くぅ~これが冬の醍醐味よ♪』
『おっさんみたいな事言ってるんじゃないわよ…』
『いいじゃねぇか、たまの空いた時間ぐらい自由にさせてくれよ。ほらお前も少し飲みなよ♪』
『全く…貴方って本当に緊張感ってものがないわねぇ…少しだけ貰うわ』
『おぅ♪』
そんな気の抜けたやり取りをする声が聴こえてきてランは…
(…………は?)
今聞こえてきたものは一体何なのかと、思わず思考が停止したのだった。
リン「なんだか嫌な予感が…」
作者「大丈夫大丈夫、別に変な展開にはなりませんよ。…………多分」
リン「大丈夫なの、本当に大丈夫なの!?」
作者「ノリで書いてるからわかりません」
リン「ちょっと!?」




