女同士の舌戦と代理人を立てての宣戦布告
あれからランド達は、新たに白虎を加えて次の階層…「第九階層」へとやって来た。
「ここが次の階層か、なんか雰囲気が変わったな…」
ランドがそう呟くとランとイブキも「せやね」と答える。
「なんかあれやな、今までの階層と違って神聖さが増した感じやな…」
「そうですね、第一階層から第五階層までは一本道の長いダンジョン。第六階層はグラシスさんのいた水晶がそこかしこにある洞窟、第七階層は玄武さんの相撲土俵の部屋で八階層は白虎さんの道場のような部屋でしたから…」
三人がそんな感想を口にするのは当然の反応だろう。
ここまでの階層では、白虎の道場的な部屋を除けば壁や床は整備されていたとしても…土や石がむき出しになっていたのが殆どだった。
だがこの階層の壁や床には、まるで家のようなキチンとした整備がされていた。
壁は白い塗装が施されており、床には赤いカーペットのようなものが隙間なく敷かれている。ここの階層だけを見れば「高貴な貴族の屋敷」だと言われても疑うことは無かっただろう。
そんなこれまでとは違う雰囲気の階層を見たランドは、ここまで同行してきた「守護者トリオ」に視線を向けると尋ねる。
「なぁ、ここはなにか特別な階層なのか?」
ランドの質問にグラシス、玄武、白虎の三人がそれぞれ答えた。
「さぁ、俺はここまで降りてくるのは初めてなのでなんとも言えません」
「まぁな、ここの階層を任されているのはちょっと拘りが強い奴等なんだよ」
「と言っても殆ど一人が「こうしたい」と好きにやってるだけで、もう一人は特に拘りは無いけどな」
三者三様の答えを聞いたランドは「ふーん…って奴等って、この階層にいるのは一人じゃないのか?」と口にした。
「「そうだよ」」
ランドの言葉に玄武と白虎はそう言って頷くと言葉を続ける。
「言っとくがその内の一人は、俺よりも力が強くて頑丈で…」
「アタイよりも素早くて武に優れてるぞ」
守護獣二人の言葉にランとイブキが「えぇっ!」と声を出す。
「玄武のおっちゃんより頑丈で白虎ちゃんより素早いって、その人ちょっと反則とちゃう?」
「確かに、お二人共かなりの実力者なのに…」
そう言って驚く二人に、ランドは「へぇ、二人よりも強いとは大したもんだな…」とどこか他人事だった。
「いやいやランドはん、そんなのんびり構えててエエんかいな?」
「そうですよ、ランドさんの実力はここまで拝見していたので理解してますが…」
そう言う二人にランドは「ま…なるようにしかならないだろ」とのんびり返す。
「個人的にはここで引き返すのも悪くはないけどな、そうすると多分またあの声の主が…『ちょっと、降りてきたならさっさっとこっちに来なさいよ。こっちはアンタ等を迎える用意は出来てるのよ!』…と文句を言ってくるし…」
ランドは自分の言葉に被せるように再び聞こえてきた女性の声に肩を竦める。
そんな女性の声に玄武と白虎は「やれやれ…」と言った顔をすると口を開く。
「お前なぁ、心配しなくてもちゃんと連れてくから騒ぐなよ…」
「そうだぞ、普段から「ストレスは肌に悪い」とか言ってるのにイライラするな…」
守護獣二人の言葉に声の主は『おだまり!』と叫ぶ。
『というかアンタ達もアンタ達よ、なに普通にその挑戦者達と打ち解けてるのよ。ここの守護を任されている誇りを持ちなさいよ!』
聞こえてきた女性の声はそう言って二人に説教するが、二人は「だって…」と言葉を返す。
「俺はこのランドに言い訳できない負け方したしなぁ…」
「アタイは引き分けたけど、この兄ちゃんが本気なら負けてたのはアタイだろうし…」
「あ、白虎ちゃん…そこはもう拘らんのやね?」
「うん、少し冷静になったら兄ちゃんが手加減してくれてたのが理解できた」
「小さいのに偉いなぁ♪」ギュッ…
ランは白虎がランドに対する評価をちゃんと改めたことに感激して白虎を抱きしめる。
「あ…ちょっ…またそうやって姉ちゃんは抱きつくんだから///」
「エエやんか、ウチは妹がちゃんと成長してるの見て嬉しいで。それに姉ちゃんと言ってくれるのも嬉しいわ♪」
「もぅ…本当はアタイの方が歳上なんだぞ///」
白虎はランの行動に一応は抗議しているが、嫌がる素振りは見せなかった。
そんな一見仲良し姉妹の様な様子の二人に、声の主は声を荒げる。
『ちょっとそこ、なに二人で仲良し姉妹みたいなことしてるのよ!』
「えーだって、白虎ちゃん可愛いんやもん」
「姉ちゃんお菓子くれるし優しいんだもん」
二人の言葉に声の主は『きぃーー!』と声を出す。
『ちょっと白虎、アンタ私には「姉ちゃん」とか言って甘えてくれないのに…なんでそこの人間にはそんな風なのよ!?』
「だってアタイからしたらアンタは姉ちゃんというよりは口うるさいオバ…『それ以上言ったらお仕置きよ!』…ひぅっ」
声の主が白虎の言葉を遮ってそう口にすると、白虎は黙った。
そんな白虎を「よしよし、大丈夫やでお姉さんが守ったるからな。まぁ正確にはランドはんがやけど…」と慰めながら、ランはその声の主に抗議する。
「ちょっとあんさん、誰か知らんけどこんな小さい子にお仕置きとか可哀想やんか!」
『なんですってぇ〜!』
「だってせやろ、こんな小さい子に「オバさん」と呼ばれそうやからってお仕置きするとか言うなんて。ウチがお母はんに「そろそろ年考えや」と言ったときと発想同じやで!」
『アンタの母親のこととか知らないわよ!』
「はん、そない大声出してからに…白虎ちゃんが言うようにオバさんなんか。長年生きとると人でなくても更年期になるんやな!」
『上等よ、アンタこっちに来たら覚悟しなさいよ。挑戦の結果がどうであれ目上の者への敬意ってモノをわからせてあげるわ……私の相方がね!』
『え…俺か?』
「望むところや、そっちこそ覚悟しときや。ウチがこれまでの挑戦者とは違うってことを見せたるで……ランドはんがな!」
「え…俺?」
互いに声だけでやり合っていた声の主とランの言葉に、声の主の近くにいたのか聞いたことない男の声が微かに聞こえ…ランの横でもランドがそう呟いた。
『見せてもらおうじゃないの、楽しみにしてるわ!』
『おい…なんか試練の趣旨が変わってきて……』プツン…
女性の声に男の声がそう言ってる途中で、声を届ける手段を止めたのか向こうの声は聞こえなくなった。
声の主との会話を終えたランは、ランドの方に視線を向けると「ちゅう訳やからランドはん頑張ってな!」といい笑顔で口にした。
「それはいいが、なにも相手にそんな喧嘩腰で言わなくても…」
ランドはランと声の主とのやり取りを聞いていて、苦笑いしながらそう返す。
「だってあの声の奴なんか偉そうなんやもん…」
ランがそう言うとイブキが「いや実際偉いでしょう…」とツッコミを入れる。
「仮にも玄武さん達と同様にこの祠の守護を任されている方ですよ、少なくとも神話や言い伝えに残されているほどの存在でしょうし」
「そらそうなんやろけど…」
そんな会話をしている横では、玄武達が様々な反応をしていた。
「ガッハッハッハッ、アイツにそんな口きける人間がいるなんてなぁ〜!」
「姉ちゃん凄いな、アタイならとても言えないよ」
「俺なんかそんなこと言ったら素材にされちまいますよ…」
そんな三人の反応をよそに、ランドは「まぁとりあえず先に進もう」と口にすると先頭に立って歩を進めた。
そんなランドの後をランは「頼んだでランドはん、あ…白虎ちゃんよかったらウチと手を繋いで行かへん♪」と言いながら付いていく。
白虎はの言葉に「行く♪」と答えて手を繋ぐとランの横について歩き出した。
その後ろをイブキが「ラン様は自由なんですから…」と呟きつつ付いていく。
「さて、ランドがアイツ相手にどこまでやるやら…」
「兄貴、正直兄貴はどうだと思いますか。ランドの旦那はあの二人に勝てると思います?」
「わかんねぇな、俺にわかるのはどちらにしても面白ぇってことだけだ♪」
「兄貴らしいですねぇ…」
「まぁいいじゃねぇか、やることが終わった俺らは今後を楽しもうぜ♪」
残りの玄武とグラシスもそんな会話をしながらあとに続くと、六人はやがて大きな扉の前に来た。
「ここがこの階層の試練の部屋か…」
「さっきの声の人等が居るんやな、ランドはん頑張ってな」
「一応ラン様は、ランドさんより前に出ないでくださいね。ランドさんお気をつけて」
「旦那、頑張ってくださいね(じゃないと俺が姉御に怒られる)」
「さてさて楽しみだな♪」
「兄ちゃん頑張れ、兄ちゃんが勝ったらアタイもお仕置きされなくて済むと思うし」
それぞれの思いを口にしながらランドにそう言う五人に、ランドは「まぁ善処するよ」と返すと扉を開いた。
そうして扉を開いたランド達が中に入るとそこには…
「やっと来たわね、さっきの事を謝らせてやるんだから!」
と息巻く赤い髪をした女性と…
「落ち着け、そもそも試練をするのは俺なのに何故お前が息巻いてるんだ…」
その女性にそう諭すような言葉を投げる…薄っすらと青みがかかった髪をした男性が待ち構えていた。




