シシリアとノエルは骨抜きに、そしてマーサは腰抜ける
今回長めです。
少しややこしいですが、マーセル(マーサ)に関しては男の格好のときはマーセル、女性の身なりのときはマーサと表記します。後半マーサが気軽な口調になるのは実家という安心感からです。
マーサがシシリアにトラウマを刷り込まれた翌日の午後、ランドとシシリアとノエルは街の門の前でマーセル達を見送っていた。
「道中気をつけてなマーセル」
「また会うのを楽しみにしてますね」
「また珍しい道具とかあれば見せてくださいね」
三人の言葉にマーセルは「ありがとよ、「建国祭」で店を出してるときは顔だしてくれ」と返した。
そしてマーセルはランドに「いやー、昨日は助かったぜランド。お陰で取引は間に合ったし今度の「建国祭」の時に出店する場所の下見も出来たからな」と礼をのべる。
「お役に立てたなら何よりだ、また「建国祭」の時に来るのを楽しみにしてるぞ。その時は証明書を魔物にとられないようにな」
「はは、痛いとこを突かれたな。まぁ今度はもっと気を付けて保管するようにしと…「あれ、マーセルじゃねーか?お前王都に来てたのか」…ん?」
ランド達とマーセルが会話をしてるとそんな声が聞こえて四人がそちらに顔を向けると馬車の窓から顔を出しているアルガスがいた。
「おお、アルガさん。アンタ王都に住んでたのか?」
久しぶりに会ったアルガスを有力者と言いながらも気さくで面白いオッサンと思っているマーセルはそんな感じで気軽に言葉を投げる。
それを聞いた馬車の横に付いていた近衛が「貴様!この方をだれだと!」と動こうとするが「よい、この者は私の友人だ構わん」とアルガスが止めた。
マーセルは「流石有力者というだけあって護衛も厳格だなぁ」と感心していたがランド達は「そ、そうだな…」と苦笑いしかできなかった。
「それで?マーセルは王都になんか用事があったのか?」
アルガスの問いに「ああ、実は…」とマーセルが今回の事を伝える。
「そうか、取引と「建国祭」に出店するための下見か。にしても証明書を魔物に奪われるとはな、門の前でランドに会ったのは幸運だったな」
「全くだ、そういやその件でランドに礼をしてないな」
「別に気にしなくていいぞ?」
「そういうわけにもな、じゃあ以前の逆で俺にランドがキスするか?」
「「!?」」
そう口にするマーセルにランドは「前も思ったが、マーセルの地元ではお礼はキスなのか?」
「別にそういうわけでもないが、表現としては伝わるだろ?」
マーセルが冗談混じりにそう言ってランドに寄ろうとするとランドの両サイドにいるシシリアとノエルが…
「……」ワキワキ
無言で両手の指をワキワキさせたので「ひぅ?ま、まぁ冗談はさておき」とマーセルは一歩後ろに下がると「「建国祭」の時に店に顔出してくれたらなにかサービスするよ」と告げた。
「そうか、楽しみにしてるよ」
そうランドが答えていると馬車に乗っていたアルガスが「ふむ、証明書か…よしマーセル、お前さんにこれを渡しておこう」と馬車から降りてくると小さな箱のようなものをマーセルに手渡した。
「これは?」
箱を受け取ったマーセルがアルガスに問い掛けるとアルガスは「開けてみろ」と一言告げる。
マーセルが箱を開けるとそこには15センチ四方程の鈍く光る白いカードのようなものが入っていた。
(あれはたしか、陛下が信用できる者に渡すとか言ってた紋章…)
ランドがそう心で思っていると「このカードは?」とマーセルがアルガスに問い掛ける。
「ソイツは俺の家の紋章だ。以前言った通り俺はこの国ではなかなかの有力者だからな、グラン王国の領内で俺の影響力が届くところなら証明書がなくてもソイツを提示したら街に入れるぞ」
アルガスの言葉を聞いていたランドとシシリアとノエルは(影響力が届くところって…それはもはや国内フリーパスなんじゃ…?)と心で思った。
「それはすごいな、貰って良いのか?」
「構わねぇぜ、お前は良い商品を扱ってるしな。ただあくまでもこの国で俺の影響力が届くところだからな、そこは気を付けてくれ」
「わかった、大事に使わせてもらうよ」
「おう、それじゃあまたな」
アルガスはそう言うと馬車に乗り込み去っていった。
「じゃあ俺達も行くとするよ、また「建国祭」でな」
「ああ、またな」
お互いそう言葉を交わすとマーセル達は去っていった。
マーセル達の姿が見えなくなりその場にいるのが三人だけになったランドは(さて、時間はまだ昼過ぎだしどうするかな?少し森でも散策に…「そういえばランドさん」…ん?」
ランドが今日はどうするかなと考えているとシシリアが声をかけてきた。
「どうしたんだシシリア?」
ランドがシシリアにそう返すとシシリアは「実は昨日、私とノエルさんでマーセルさんと話をしたんですが…」と喋り出す。
「そういえばそんなこと言ってたな、なんの話だったんだ?」
ランドがそう返すとシシリアは「ええ…実はマーセルさんって別に名前があるんですよ」と口にする。
「別の名前?」
ランドの言葉に今度はノエルが返答する。
「そうです、マーセルさん…本当はマーサさんという名前だそうじゃないですか」
「え、マーセルは二人に正体を明かしたのか?」
そう返したランドに二人は「やっぱりランドさんは知ってたんですね。しかもマーサさんが言うには夜中にお風呂に入って服を着ようとしたときにランドさんに裸を見られてバレたと言ってましたよ」と言葉にする。
「……あ!」
自分が前からマーサの事を知っていたことを自白したことにランドは気付くと「い、いや黙っててくれと言われたから…」と弁解する。
「まぁそれは良いんです、マーサさんに頼まれたのですから仕方ありません問題はその後です」
「そうです、その後です」
「その後?」
二人の言葉にランドが首をかしげる。
「マーサさんにからかわれて仕返しにランドさんはマーサさんに「壁ドン」したらしいですね」
「どんな風にしたんですか?」
「壁ドン?あ、もしかして少し前に見たエルフの劇団の二枚目悪役がやってた演技の物真似のことか?」
「「それです!」」
「たしかにやったけどそれがどうかしたのか?」
「「私達にもしてください!」」
「え?」
二人の言葉にランドが戸惑う。
「なんでまた?」
「「ちょっと悪者っぽいランドさんが見てみたくて」」
「俺の大根演技なんか見て楽しいのか?…まぁ別に良いけど」
「「じゃあこっちでお願いします」」
二人はそう言ってランドを少し歩いた所の路地裏に連れていく。
「それでどっちからすればいいんだ?」
「ではまず私からお願いします」
シシリアがそう答える。
「わかった、セリフは適当で良いのか?」
「お任せします」
シシリアがそう言うのでランドは「じゃあ…」と口にしてからシシリアの顔の横に「ドン」と手をつきシシリアの顎をクイッと上げてから…
「シシリア…お前は俺専用の女(受付嬢)だ。俺から離れるなよ」ボソッ
と耳元で囁く。
「はぁぁぁ///」ビクン!
シシリアがその場でへたり込む。
「ど、どうした大丈夫かシシリア?」
「だ、大丈夫です///」
その様子を見ていたノエルは(あれはヤバい///)と心で思った。
「そ、そうか…で次はノエルか?」
「は、はい///私もセリフはお任せします」
「そうか、じゃあ…」
そう言うとランドは今度はノエルの顔の横に「ドン」と手をついてからノエルの顎をクイッと上げると…
「ノエル…俺はもうお前(の装備)無しでは生きていけない。ずっとそばにいてくれ」ボソッ
と耳元で囁く。
「はうぅぅぅぅ///」ペタン
ノエルもそこにへたり込んでしまった。
「ノエルもか?大丈夫か?」
「だ、大丈夫です///」
「そうか、二人とも立てるか?」
それから少しして二人が立ち上がったのでランドは二人を近くの喫茶店まで付き添った。
「ホントに大丈夫か二人とも?」
「だ、大丈夫です」
「私達は少し休んでから移動しますのでランドさんは気にせずご自分の用事があるなら行ってください」
二人がそう言うのでランドは「まぁそれなら良いけど、気を付けてな」と言うとその場をあとにした。
ランドを見送った二人はお互いの顔を見ると話し始める。
「す、すごかったですねシシリアさん///」
「そうですね、これはヤバいですね///」
二人がそう言いながら余韻に浸っていた頃当のランドは…
(まさか二人にへたり込まれるとはな…そんなに俺の演技と言うか物真似はグダグダなのかな?気分転換に森でも散策してこよう)
と見当違いの事を思っていた。
ちなみに後に他の女性陣にも「壁ドン」のことが知れ渡り「二人だけズルい」とランドに詰め寄りランドは他の女性陣にもすることになった。全員が二人のような反応をしたのでランドは「なんでみんなへたり込むほど下手な物真似を見たがるんだろう?」と首を傾げるのだった。
― ― ―
時は少し進みランド達に見送られてから数日後、マーセルは自分の家に帰ってきた。
「戻ったよ」
帰宅を告げるマーセルに見たところ齢60を過ぎた頃のような男が対応する。
彼は長年マーセルの家に仕える執事のギースだ。
「お帰りなさいませお嬢様」
「ああ、ただいまギース。父さんは書斎にいる?」
家に着いたからかマーセルは帽子をとり髪を外に出した。
「はい、旦那様はいま書斎で書類の確認をされています」
「そうか、ちょっと今回の取引の報告をしてくるよ。あとお前にも頼みたいことがあるからついてきてくれるか?」
「承知いたしました」
マーサの言葉にギースが答えると二人で書斎へと向かう。
ギースがドアをノックし「旦那様、マーサお嬢様が帰ってこられました」と告げる。
「入れ」
中からそんな声が聞こえたので二人は書斎へと足を踏み入れる。
書斎の奥には椅子に座り書斎に目を通している初老の男がいた。彼こそマーサの父親で先代のドルフィン号の船長である「マーカス」である。
彼は数年前の嵐で腰を痛めて船を降り、マーサに船長を譲ったあとは屋敷で書類の仕事をしているのだ。
「お帰りマーサ、初めての王都はどうだった?」
「ただいまお父さん、うん少しトラブルもあったけど取引と下見は無事済んだよ」
「トラブル?」
「実はね…」
マーサはマーカスに王都での出来事を伝える。
「そうか証明書が…でも街には入れたんだな?」
「うん、たまたま前に話した冒険者が王都にいたんだ。彼が私の身元を証明してくれたから入れたよ」
「前に話した冒険者?あぁ、お前が惚れたと言ってたランドさんか」
「な///ほ、惚れてるとかはいまは関係ないでしょ///」
「照れるな照れるな、お前だって年頃だ。恋の一つくらいしておけ」
「むう…」
「しかしまたお前を助けてくれたのか、こりゃ一度俺も挨拶をしなければならないな。娘をよろしくと」
「よ、余計なことしなくていいから///ってそうだ父さんその証明書の事で話があるんだ」
「どうした?」
「その王都でランドが夏に護衛してた有力者だという人にも会ったんだ」
「八月に船をプライベートビーチの浜辺に停泊させてくれた有力者の方か?」
「そうそう、その人が私の証明書の事を聞いて「これを渡そう」と言ってこれをくれたんだ」
マーサはそう言って懐から小箱を取り出す。
「それは?」
「この中にカードが入ってて、その有力者の人の家の紋章が刻まれてるんだ。その人が言うには「俺の影響力が届くところならこのカードを見せたら証明書の代わりになる」ってさ」
「ほお、それはすごいな。商人たるもの人とのコネは重要だ」
「でしょ?だからギースにこのカードの紋章の人の影響力がグラン王国のどの辺りまで通用するか調べてほしいんだけど」
「畏まりました、資料室にある「グラン王国貴族の紋章一覧」と照らし合わせて調べます」
「お願いね」
マーサはそう言って小箱をギースに渡した。
「では旦那様お嬢様私は下がらせていただきます」
ギースはそう言って退室していった。
書斎で二人きりになった親子はとめどない会話を始める。
「それでマーサ、ランドさんには告白したのか?」
マーカスの質問にマーサは「い、いやそんな…///物事にはタイミングが…」とゴニョゴニョと小声で話す。
「やれやれ、船の上では行動力と決断力があるのにお前は陸地でときたら…」
「う、うるさいな///」
「俺も早く孫が見たいもんだがな」
「ま、孫って///話が飛びすぎだよ!」
「まぁお前の人生だ、せいぜい悔いのないように…「だ、旦那様ー!」…?」
マーカスがマーサに言葉をかけようとしたその時ギースが慌てた様子で入ってきた。
「どうしたギース?」
「どうしたの?」
慌てるギースにマーカスがそう尋ねるとギースは「じ、実は先程お嬢様から預かった紋章なのですが…」と口にする。
「先程のどこかの貴族の紋章か?それがどうかしたのか?」
「はい、あのお嬢様…この紋章をくださった貴族の方はどんな方でしたか?」
「え、紋章をくれた人?父さんより少し若くてがっしりした体格の男性だけど。有力者というわりには全然偉そうじゃなくてさ、すごくとっつきやすいおっちゃんだったよ。ランドが言うには昔はSランクの冒険者だったとか」
「ち、ちなみに名前はなんとおっしゃっていましたか?」
「アルガだけど?」
マーサの言葉にギースはなにかを確信したのか「そんな…なんということでしょう…」と天を仰いだ。
「なんなのだ?」
ギースの様子にそう尋ねるマーカスにギースは「実は旦那様、お嬢様が貰ってきた紋章の家は…」となにやら耳打ちをする。
ギースから話を聞いたマーカスは顔を青ざめると「お、おいマーサ。お前その有力者に失礼な態度はとってないだろうな?」と言葉にする。
「どうしたのお父さん、アルガさんがどうかしたのか?さっきも言ったけど全然偉そうじゃないとっつきやすいおっちゃんだったよ?」
マーサの言葉にマーカスは「あ、これもしかして俺達死んだかな?」と口にする。
「は?どう言うこと?」
理解していないマーサに対してマーカスは「今から説明してやる。ギース、紋章一覧持ってこい」と告げる。
「はい…」
ギースは出ていくとすぐに一冊の本を持ってきてあるページを開ける。
「お嬢様、こちらをご覧ください」
「なんなのさ?」
「まずはこちらがお嬢様が貰ってきた紋章です」
ギースはそう言って小箱からカードを取り出す。
カードにはなにやら紋章が刻まれていた。
「そしてこちらがこの本に載っている紋章です」
ギースの指差すとこにはカードと同じ紋章が記されている。
「同じだね、でもだからなに?つまりアルガはれっきとした貴族だってことでしょ?」
そう言うマーサにギースは「お嬢様、この紋章の横に書いているこの紋章の家の名前を見てください」
「?」
マーサはギースに言われるまま本の紋章の家の名前の記述に目を落とす。そこには「グラン王国王家の紋章」と標されていた。
「え、王家?えっとつまりこの紋章って…」
混乱するマーサにマーカスが「お前はさっきこの紋章をくれた人はアルガさんだと言ったな?」と声をかける。
「言ったけど?」
「グラン王国の現国王の名前は「アルガス・グラン」…つまりお前が会ったのはこの国のトップ、国王陛下だ!国内の影響力が届くところどころかこの紋章があればグラン王国は全域通行許可がおりる」
「は?」
マーカスの言葉にマーサは間の抜けた声を上げ暫くすると…
「え、えぇぇぇぇぇ!アルガさんが国王陛下ぁぁぁぁぁ!?」
と絶叫し腰を抜かすのだった。




