街への買い出しと桟橋での語らい
リヴァイアサンの夫婦が訪ねてきた翌日、ランド達は港街の方でほぼ全員で買い物に来ていた。(アレックスは「暑い中の移動は堪える」と残った)
アルガス達は「ドンクの件と海賊どもの事を領主に話してくる」と言って途中で離れ、ゼル達は訓練生達に買い物や食事をしながら冒険者としての事を教えてやると別行動となり、シシリアやアリスやノエルやトルテやファルは商店街を見て回ると言うことで念のためガレリアとラジが付くことになった。
ちなみにアリスは街に来たときに「ラ、ランドさん!今日は暑いですしあちらで休憩でも…モゴ?」と宿泊施設の並ぶ通りの方へランドを引っ張って行こうとしてシシリアとノエルとガレリアに口と腕を抑えられると引き摺られて行った。
ランドはその様子を見て「来て早々に休憩とはアリスは暑さに弱いのかな?」と相変わらずなにもわかってなかった。
「それじゃあ俺達も買い出しをしてくるぜ」
そんなランドにマーセル達が声をかける。
「ああ、気を付けてな。ただ、買い物するなら昼過ぎにはアルガさんから連絡を聞いた領主が海賊は居なくなったことを公表するから先日より安く買えるんじゃないか」
「そうだな、だから午前中は食糧等の買い出しをしておいて店に夕方に取りに来るまで置いといてもらう話をしにいくつもりだ」
「流石商船の船長なだけあって抜け目がないな」
「まぁな、それじゃあまた夕方にな」
マーセル達もそう言うと離れていった。
ランドは皆を見送ってから「さて、俺も少し見て回るか」と呟いて歩き出した。
そして以前のように広場の露店や大道芸等を見ながらブラブラしていると「号外~号外~」と声が聞こえてきた。
そしてランドも含めた広場にいる人々が何事かと声のする方へ視線を向けると広場の真ん中の高台に衛兵と思われる兵士が上がって声を出して知らせる。
「街の皆さん、先程領主様より発表がありました!最近この辺りの海域に出没していた海賊が壊滅したそうです!海賊を壊滅させた人物は本人の意向により伏せさせていただきますが情報は確かなものです。この街の海に平和が戻りました!」
衛兵の言葉に回りの人々は「おー!」と歓声をあげる。
(陛下が領主に伝えたんだな。まぁ流石に「リヴァイアサンが始末してくれました」とは言えないか…)
そんなことを思いながらランドは「っとそろそろ昼でも食うか…そう言えば市場の店主にまた来ると言ったんだったな。行ってみるか」と昼を食べるために市場の方へと足を向けるのだった。
「いらっしゃい!ってこないだの兄ちゃんかホントに来てくれたんだな」
「約束したしな」
「律儀なこった、それよりも聞いたかい兄ちゃん?最近この辺りに出没していた海賊が討伐されたってよ!」
「ああ、広場で衛兵が発表してるのを聞いたよ」
「どこの誰かは知らねーけどありがてぇこった、おかげで安心して漁に出れると漁師達も喜んでるぜ」
「そりゃなによりだな、それでまたいくつか買いたいんだがおすすめはあるか?」
ランドの言葉に店主は「ちょうど良いのかあるぜ!」と答える。
「実はな兄ちゃん、さっきの発表を聞いてうちでは記念に特別セットを用意したんだ!」
「特別セット?」
「あぁ、ホタテとサザエとイカとエビを串に刺して焼いた焼き串だ!すでに醤油とバターで味付けしてあるからそのままかぶりつけるぜ!」
店主はそう言って店頭の端に置かれた簡易コンロの上で香ばしく焼けている串焼きを指差す。
その横にはご丁寧に氷の入った桶にビール瓶が刺さっていてキンキンに冷やされていた。
ジュウジュウと焼かれながら香ばしい匂いを放つ串焼きにランドも思わず「ゴクリ」と唾を飲む。
「おお、美味そうだな!」
「美味そうじゃなく美味いんだよ兄ちゃん!どうだ買っていくか?」
「これを見て買わないと言うのは選択にないな!三本貰おう、それと横のビールも一つ」
「まいどあり!三本も買ってくれるならビールの分はサービスだ!」
「良いのか?」
「兄ちゃんみたいなノリの良いやつは嫌いじゃねぇ!またこの街に来たときは寄ってくれよ?」
「わかった、滅多にこれないとは思うが来たときは顔を出すよ」
「ホントにノリの良い兄ちゃんだぜ、瓶の栓は抜いていくか?」
「いや、気が抜けてもあれだからそのまま貰おう」
「栓抜きもいるかい?」
「大丈夫だ、俺は冒険者だから手持ちのナイフがあるからな」
「そうかい、じゃあ特別串三本にビール一本な。まいどあり」
店主から袋に入れられた串と瓶を受け取ったランドは代金を支払うと休憩スペースの方へと向かったが先程の発表のお祝いなのかスペースが一杯で空きがなかった。
「ふむ、満席か…仕方ない向こうの方で食べよう。幸いもう調理されてるから火とかは要らないしな」
そう独り言を呟きながらランドは市場の外にある河口にかかる桟橋のところへと向かい桟橋に腰かけるとそこで購入した串焼きを食べ始めた。
「これは美味い」ランドは特別串に舌鼓をうちながら一本と半分を食べた辺りでビールを開けて口にする。
「間違いない組み合わせだな」そう言って残りの串を食べて残りのビールも飲み干したランドは「実に満たされた」と幸せそうに呟いて横にある船を繋ぐ用のロープが固定されている太めの杭に体を預けるとお腹が満たされたからか少しウトウトし始めるとそのまま眠った。
それから三時間ほど経った頃、ランドは「ん…いかん寝ていたか」と目を開ける。辺りはまだ明るく集合時間まではまだ時間がありそうだ。
「さて、どうするかな?また商店街の方でもみて時間でも潰し…「お隣よろしいでしょうか?」…?」
ランドが集合時間までどうしようかと考えていると突然後ろからそんな声が聞こえてきた。
振り向いたランドはそこにいた人物に思わず目を見開いた。
そこには白い麦わら帽子をかぶり水色のワンピースを着て背中の真ん中まで伸びた栗色の髪を後ろに流しうっすらと化粧をしたとても美しい女性が立っていた。
ランドはその女性の登場に驚きつつも「……マーセルか?」と声をかける。
その女性はニッコリと微笑むと「どうだ、普段とは見違えたか?」と口にした。
「ああ、驚いたよ。でも似合ってるぞ」
ランドの率直な返事にマーセルは笑顔で「ありがとよ///隣良いか?」と返す。
ランドが少しズレるとその横にマーセルが腰を下ろした。
「それで、いきなりどうしたんだその姿は?」
ランドがマーセルの姿にそう尋ねるとマーセルは…
「なに、お前には本当に助けられたからな。俺としてはお前に感謝としてこういった俺もみてほしかったんだ」
「そうか、そこまで信用されたのなら嬉しいことだ。だけど俺は男だろうと女だろうとマーセルの事は良い奴だと…「マーサだ」…?」
「マーセルは船長としての名前で俺の…いや私の本当の名前はマーサだ」
「そうかマーサ、良い名前だな」
ランドがそう返すとマーサは「私が親父の跡を継いであの船の船長になったことは言ったよな?」と話し始める。
「ああ、最初にあった夜にそう言ってたな」
「最初は不安だったんだ。乗組員のやつらは女の私の事を認めてくれるのか?親父の言いつけで仕方なく従ってるんじゃないかって」
「そうか…」
「だから私は船の上では女ではなく男して生きることにした。まぁ結局アイツらはそんなことで態度を変えることはない良い奴等だったが」
「良い仲間を持ったな」
「ああ、本当にな。まぁ結果的に男の方がなにかと都合がいいのでそのままだったし私もそれに慣れてきた。でも…」
「でも?」
「今回海賊に襲われて、奴等に服を裂かれて汚されそうになったとき…自分の根底はやはり女だと感じた」
「マーサ…」
「怖かった…船乗りとして嵐などで船が沈むかもしれない事などは何度も経験したが、自分がアイツらに汚されてしまいそうになったときは本能としての恐怖が勝ってしまい涙が浮かんだ」
「マー…「その時だ」…?」
「お前が来てくれた。そして私を助けてくれた「コイツはお前達が触れて良いほど安くない」と言ってくれた」
「…」
「嬉しかった、会って間もないお前にそこまで言ってもらえたことが。私を男でも女でも船乗りとしてでもなく見てくれた」
「マーサ…」
「だからお前には男としてでもなく船長としてでもない私を見て貰いたかったんだ。せめての感謝として」
「そうか、俺をそこまで信頼してくれたのは素直に嬉しいよ」
「信頼というかな…」
「ん?」
「ランド…私はお前が…「あ、ランドさん何してるんですか?」…!」
マーサがなにかを言おうとしたときそんな声が聞こえた。
ランドが振り向くと向こうからシシリアとノエルとアリスがやって来た、その少し後ろにはガレリアとラジとファルもいる、トルテはラジの頭にのっている。
「シシリアさん、それにノエルやガレリア達もどうしたんだ?」
桟橋の奥までやって来たシシリアとノエルは「もう一時間ほどで集合時間ですので戻る途中にランドさんを見かけたので声をかけたんですよ」と言葉にする。
「そうかもうそんな時間か」
ランドがそう返すと「だから一緒に戻りましょうランドさん」とノエルが言った。
「ああ、そうだな戻るとす…「ところでランドさんそちらの女性は誰ですか?」…へ?」
ランドが返事をしようとするとシシリアが横にいるマーサを見ながら質問する。
「お…いえ私の事ですか?」
マーサがそう言葉にしてシシリア達の方に顔を向ける。
振り向いたマーサを見たシシリア達は((うわぁ…///凄い美人、どこかのご令嬢とかなのかな?))と心で思った。
「え、えーとこの人は…」
ランドが返答に困っているとアリスが「ま、まさかランドさんこの女性をナンパでもしたんですか?」と口にする。
「え、そうなんですかランドさん?」
「そ、そんなこんな美人な人が相手だと…」
「こ、こうなればやはりアッチの技術で…ムゴ?」
「「アリスさん少し黙って!」」
そんなやり取りをしている三人にマーサは「こちらの男性のお連れの方ですか?」と声をかける。
三人が「「そ、そうです」」と返すとマーサは…
「そうですか、実は私が少し暑さにやられてフラついていたのをこちらの方に介抱していただいたのです。どなたか存じませんがありがとうございました、もう大丈夫ですので私はこれで失礼いたします」
マーサはそう告げるとペコリと頭を下げて顔をあげるとニッコリと笑った。
((うわぁ…笑った顔も凄く綺麗…))
三人がそう思っているとマーサは「それではごきげんよう」と告げると去っていった。
マーサを見送ったランドは「じゃあ戻るか」と言葉にすると全員で集合場所に向かった。
その頃マーセル…いやマーサは…
「あ、危なかった///シシリア達の前で告白なんてしたらどうなることかと///」
と一人安堵してから近くの宿屋で着替えてから乗組員達のところへ戻りランド達と合流するのだった。(乗組員達には「ちょっと気分転換してくる」と伝えていつもの姿で出てから他の宿を取った)
ー閑話ー
ランドが休憩スペースが空いてないので桟橋に向かう途中で飲んでいた住人の会話…
「先日の大食い大会はすごかったな」
「ああ、あの嬢ちゃんには驚いたぜ」
「可愛いのに凄い食べっぷりだったな」
「まさにドラゴンのような勢いだったな」
(ラジのことか、まぁ…実際ドラゴンだしな…)




