ドンクの愚行とバルチャーの最期
「セーラ!くそ、なんて卑怯な真似を!」
「セーラさん、俺達を治療してたばっかりに!」
「てめぇ、セーラさんを放しやがれ!」
マーセルや乗組員達がドンクに対してそう声をあげるがドンクは聞く耳を持たない。
「うるさい!この女の命が惜しけりゃ俺に従え!」
そう声を荒げるドンクに今度はランド達が声をあげる。
「お、お前なんてことを…」
「わ、悪いことは言わないからすぐにその人を解放した方がいいよ?」
「そ、そうだぞ…命が惜しくないのか?」
「あ、あなた自分が何してるかわかってるの?」
「師匠…ボクこの後がすごく怖いです」
「セーラを人質にするなんてアナタ馬鹿なの?」
ランド達の言葉を聞いてドンクは(ククク、どうやらこの女はよほど重要なようだな。それならばコイツらも従うだろう)とランド達の言葉を間違って解釈し更に調子に乗った。
「知ったことか!大人しく武器を捨てて下がりやがれ!女共は奴隷として売り払ってやるから自ら手足を縛れ!」
「おい、ホントにこれ以上はやめといた方が…「うるさい!俺に逆らうな!」…」
再度ランドが警告するがドンクは頭に血が上り更にヒートアップする。
「バルチャー達は逃げたようだが俺はこんなことで終わってたまるか!そもそもそこの船乗り達がこのドンク様から商品を買わないから悪いんだ!」
「それはお前のところが突然契約よりも高くぼったくろうとしたからだろ!」
ドンクの言葉にマーセルが反論するが「黙れ!どいつもこいつも黙って俺のいう通りにしてればいいんだ!」とドンクは逆ギレする。
「さっさとさっきいった通りにしろ!女共はどいつも高く売れそうな見た目をしてるからな、俺の成功の糧となってもらうぞ!」
そして続けて口にした言葉にランド達は完全に血の気が引いた。
「そこの女共もだが、この回復師の女も高く売れそうだな。少し歳はいってるし胸が残念だがまぁそう言った趣味の人間もいるし多少は金になるだろう!」
パキン!
ドンクがそんな言葉を発した瞬間、なにかが折れるような音がした。それはドンクが持っていたナイフが取っ手の所を残してへし折れる音だった。
「へ?」
ドンクは持っていたナイフの取っ手に目を向けて間の抜けた声をあげる。
「さっきから大人しく聞いてれば…随分言ってくれるじゃないの」
そう言葉を発したのは今まで大人しく黙っていたがドンクの言葉に明らかに怒っておりへし折ったナイフの刃の部分を手にするセーラだった。
「へ?は?え?なにが…うわぁ!?」
ドンクが状況を理解できずに困惑しているとセーラはドンクの胸ぐらを刃を持っていたのとは反対の手で掴みドンクをぶん投げる。
投げられたドンクはマストの柱にぶつかると「ぐべぇ!」と潰れたカエルのような声を出した。
「全く失礼しちゃうわねぇ、少しお仕置きが必要かしら?」
そう言うとセーラは手にした刃を握りしめて粉々にしてからドンクに歩み寄り踞っているドンクに手を伸ばし…
「ぎゃあぁぁぁぁぁ!」
そして言葉では表現出来ないセーラ曰く「お仕置き」が執行された。
ちなみにその様子を見ていたラジとノエルはあまりの事に思わずランドの服を掴んで怯えておりトルテはノエルのポケットに引っ込んだ。ガレリアは何でもないような素振りをしていたが耳がペタンと倒れて尻尾を内側に巻き込んでいたし、メリッサは「セーラを怒らせる馬鹿が他にもいるなんてね…」と呟くのだった。
その様子を見たマーセル達はポカンとしていたが「セ、セーラってあんなに強かったのか?」と言葉にした。
そんなマーセル達にランドが答える。
「セーラさんはフォルクスさんとここにいるメリッサさんとアルガさんと四人でSランクパーティーまで上り詰めた方だからな…フォルクスさん曰く「単純な腕力なら俺やアルガより強い」とも言ってたし」
「そ、そんなすごい人だったのか!」
ランドの説明にマーセルが驚愕する。
「まぁセーラは僧侶としても腕利きだからね、私も魔法は無詠唱で出来るけどセーラも治療魔法や支援魔法は無詠唱でできるし。多分人質にされたときには無詠唱で「防御強化」や「腕力強化」をかけてたんじゃないかな?」
メリッサがそう言うとマーセル達もランド達も「ああ、それでナイフをあんな簡単に折れたのか」と納得したがそこへドンクを絞めたセーラから訂正が入る。
「あら、違うわよメリッサ」
「え?」
「確かに防御強化はかけてたけど腕力強化はかけてないわ。たかが質の悪い「鉄」のナイフなんて強化するまでもなく折れるわよ?」
「そ、そうかい…」
セーラの言葉にメリッサはそう苦笑いで返し、他のメンバーも少し引いた。そしていつの間にかガレリアもラジやノエルみたいにランドの服を掴んで後ろにいたのだった。
そして「お仕置き」で気絶したドンクは我に返ったマーセルの指示で乗組員に縛られた。
そして今度こそ「じゃあ戻ろうか」とランドが告げるとドルフィン号はラジによって浜辺まで引っ張られていくのだった。
一方その頃バルチャー達は…
「チクショー、まさかあんな化け物みたいな奴等が来るなんてよ!」
「お頭、もうこの辺りでも仕事は難しいですぜ?ドンクの旦那も置いてきちまいましたし…」
「俺達ももう戻れねぇな…」
ドンクの護衛の元冒険者の男達もそう呟く。
「わかってるよ!こうなったらこの国を出て他のところで海賊をやるしかねぇかな」
そんなことを話していると近くの海面が盛り上がりザッパァーーーーンとなにかが飛び出した。
それはバルチャーが無理矢理従わせていたリヴァイアサンだった。
「おお!なんだお前戻ってきたのか?そうかそうか無理矢理従わせていたとはいえ少しの間は一緒にいたからな、俺様達に感謝してるんだな。そうなれば他の国でも海賊としてやっていけそうだぜ!」
バルチャーが自分に都合よく解釈してそう口にしたとたん…
ザッパァーーーーン!
ザッパァーーーーン!
続け様に更に二体のリヴァイアサンが現れた。どちらも最初のリヴァイアサンよりも体が大きい。
「おお、仲間まで連れてきたのか?三体もいるなら俺達は無敵だぜ!」
バルチャーはそう喜んだが手下の一人が「でもお頭、様子が変ですぜ?」と声を出す。
その手下の言葉に答えるように三体の中でも一番大きなリヴァイアサンが声を発した。
「貴様らが我が息子を拐っていた人間か?」
「「喋った!?」」
そう、リヴァイアサンも魔物としては上位の存在であり長年生きている個体はラジ達のように人の言葉を会得しているものもいるのだ。
バルチャー達が驚いているともう一体のリヴァイアサンも声を出す。
「私の大事な息子を拐うだけでなく頭に怪我をさせたわね!」
大きな二体のリヴァイアサンは明らかに怒り狂っていた。
「お頭、もしかしなくてもこれは俺達終わったんじゃ…?」
手下の言葉にバルチャーは顔をひきつらせながら二体のリヴァイアサンに語りかける。
「え、えーと…こちらの坊っちゃんのご両親ですか?なにか誤解がうまれてるようで…ひとまずは話を聞いていただけませんか?俺達は人間も魔物もお互いを認め合い共存できると思っています。こうして会話ができるのですからきっと良好な関係を…「グルルルル!」…!」
そうバルチャーが言葉にする途中で子供のリヴァイアサンが両親になにかを告げると一番大きなリヴァイアサンが返答する。
「はて、おかしなことをいうな?息子が言うにはお前達は魔物は動物と同じで共存なぞできるわけがないと言われたらしいが?」
「い、いやそれは…」
バルチャーが更に顔を青ざめるとリヴァイアサンは言葉を続ける。
「まぁ我等も全ての人間が悪とは思っていない。中には我等と会話し共存できるような人間もいるだろう…」
「そ、それなら…「だが!」…!」
「我が息子に怪我を負わせて果ては拐って無理矢理従わせていたような人間と解り合えるほど我等も温厚ではない!」
「あ、あぁ……」
リヴァイアサンの親の凄まじい怒りを感じたバルチャーはここでようやく絶望の表情を浮かべる。
その瞬間二体のリヴァイアサンは凄まじい速度でバルチャー達の船に襲いかかった。
子供ですら巨大な体をしているリヴァイアサンである、その親二体の報復となるともはやバルチャー達に成す術などあるはずもなく…
バキバキッ!
ボギャン!
「ぎゃあぁぁぁぁぁ!!」
二体の最初の攻撃で船はただの木片となりバラバラになった。
海に投げ出されたバルチャー達は必死に体を動かして海面に顔を出して息をすう。
それを眺めるリヴァイアサン達に「く、喰わないでくれー!」とバルチャー達が懇願するとリヴァイアサン達は…
「貴様らなぞ喰うものか!我等は人なぞ喰わぬ」
リヴァイアサンはそう告げると「グルァァァァァ!」と大きく吠えると「せいぜい自らの行いを悔いて果てるがよい!」そう言葉にして去っていった。
リヴァイアサン達がいなくなってバルチャー達は「た、助かったのか?」と安堵する。
「お頭、これからどうしますか?」
手下の言葉にバルチャーが「と、とりあえずどこかに泳ぎ着こう。まずはそれからだ」と言葉にして泳ぎ出す。
そして全員で少し泳ぎ始めると異変が起きた。
最初にそれに気付いたのは手下の一人だった。
「あれ?」
「どうした?」
「お頭、ドンクの旦那の護衛をしてたやつらが見当たりません」
「なに?」
バルチャーはそう反応してまわりを見ると確かに護衛の男達がいなくなっていた。
「どこに行ったんだ?」
バルチャーがそう言って手下の方を見ると先程までいた手下の姿もなくバルチャーは一人だった。
「あれ?おいお前らどこにいった?」
バルチャーがそう言うと近くの海面から手下の顔がバシャン!と浮いてきた。
「うおっ脅かすなよ!」
バルチャーがそう言ったとき手下の顔がすごい速度で動き出す。
「な、なにしてんだ?」
「お、お頭ー!た、助け…」
手下の男がそう言った瞬間手下の顔がなにかに引き込まれるように沈み、沈んだ所から赤く海面が染まっていく。
バルチャーが目の前の光景に驚いているとバルチャーの足をなにかが掴んで引っ張り海中へと引き込んだ。
バルチャーが驚きながらも水中で目を開けるとそこには数十匹もの鮫の魔物が泳いでおり、海中で護衛の男達や手下達を食い荒らしていた。バルチャーは目の前の惨状に恐怖した。
(ま、まさかさっきのリヴァイアサンが吠えたのはコイツらを呼び寄せるための…)
バルチャーがそう思考した時には目の前に巨大な口を開いた鮫の魔物が迫っていた。
(イヤだイヤだ!誰か助けてくれぇぇぇぇ!)
それがバルチャーの最後の思考だった。




