浮かぶ時は悔しくとも流れる時は嬉しくて
ドルフィン号は順調に海を進んでいた。船長室でマーセルは今回のトラブルによる修理等の経費や仕入れた積み荷の支払いとこれからの取引で得られる予想利益とを照らし合わせて最終的な利益は幾らになるかを計算していた。
「ふう…ちょっと休憩するか。それにしても今回は散々だったな、まさかサハギン共に襲われて舵を損傷するなんて思わなかったからな。まぁお陰で面白い出会いもあったが…」
マーセルはそんな独り言を言いながら今回出会った人々を思い出す。
「アルガは有力者というわりには威張ったりせず取っつきやすくて面白い奴だったな、そのせいかセーラさんやフォルクスは苦労してそうだったが…。メリッサさんやその教え子という奴等も人柄は良さそうだったしな、シシリアは美人だったしあれはきっと住んでる街では人気なんだろうな…まぁ彼女はランドが気になるようだったが。それにしても…まさかあの伝説の職人のアレックスと更にはダイガンの孫にまで会えるとはお陰でぼったくりに合わずに済んだ上に修理も早く済んだし良かったぜ。ゼル達も面白い奴だったな、ガイルに帽子の事を聞かれたときは焦ったが。それにアリスやファルやガレリア、それにラジやトルテと言った人間以外の種族なんて初めて見たしいい経験をしたもんだ。それにアイツ…ランドには本当に助けられたな、サハギンも取引も飛んで来た石からも守ってくれた…まぁその代わり事故とはいえ裸を見られちまったが…///でも不思議だな、アイツには何故かまた会いたいと思ってしまう…それになんか胸がムズムズするしなんなんだろうな…?」
マーセルがそんな感じで今回出会った男、ランドのことを思い返していると……
ガンガンガンガンガンガン!
そんな銅鑼の音が鳴り響いた。
「!?」
その音にマーセルが我に帰った途端に船長室に乗組員がやって来る。
「船長大変です!」
「どうした、それにこの銅鑼は何があった!?」
「海賊です!こちらに近づいてきます!」
「海賊だと!?街で部品を頼んだ店主が言ってた奴か……逃げ切れそうか?」
「難しいです、奴等はこっちよりも船こそ小さいですが速度が上です。もう少しで追い付かれます!」
「くっ、ようやく出航出来たのにその途端これかよ!各員迎撃に備えるように伝えろ!」
「はい」
マーセルはそう指示を飛ばしマーセルも船長室から出る。
甲板に出たマーセルは背後から近付く黒い船を確認する。
やがてその船はドルフィン号の背後に突進しようとしてきた。
「ぶつかるぞ!衝撃に備えろ!」
マーセルがそう言葉にした途端……
ドギャ!!
そんな音を立てて黒い船がドルフィン号に追突した。
そしてすぐに黒い船からは「イヤッホー!積み荷を奪えーー!」と次々と海賊達がドルフィン号に乗り込んでくる。
「迎撃しろ!単独になるな!複数で当たるんだ!」
マーセルもサーベルを手に乗組員達に指示を出しながら構えた。
その頃船底の倉庫では海賊の船による突進の衝撃で…
ドギャ!!
グラグラ…ドサッ!
「いてっ?ん…あれ…もしかして俺寝てしまったのか?」
どこまでもマイペースな男が目を覚ました。
そして甲板では海賊と乗組員達の戦闘が行われていた、奴隷商船から海賊になったことで戦闘が得意ではないといっても今までも手を汚してきた海賊達と商船の乗組員では人を手にかけた事があるなしという経験の差が生まれ少しずつ乗組員達は劣勢になっていた。
マーセルも必死に防衛するがそこに「お前が船長か?」と声をかける奴が現れた。
それは海賊の頭バルチャーだった。
「お前が頭か?俺達の船を狙いやがって!」
マーセルはそう言って斬りかかるがバルチャーは簡単に受け止める。
「随分力がねぇな、飯食ってるか?」
バルチャーはニヤニヤしながらその手にもった大曲刀を振った。
「がっ!」
マーセルは耐えきれず吹き飛ばされる。
「船長!」
乗組員達が声を出すが自分達の相手が手強く救助にいけない。
バルチャーはマーセルに近付くと「終わりだ」と自身の得物を構え振り下ろそうとした時…
「まて、バルチャー!」
そんな声が聞こえてバルチャーは動きを止める。
マーセルはバルチャーに言葉を投げた者の方へ視線を向ける。それはドンクと先日自分のところに来ていた商人の回りにいた護衛の男達だった。
「お前らはこないだの…!」
マーセルは護衛の男達をみて驚きの声をあげる。
「なんだよドンク、コイツを始末するところだったのに」
バルチャーは不満そうにそう口にするがドンクは「だからお前は馬鹿なんだ、やっぱり同行して良かったぜ」と口にする。
「どういうことだよ?」
「お前がわからないのは仕方ないが、コイツは多分この船で一番の宝だぞ?」
ドンクはそう言ってマーセルに近付くとサーベルを手にしてマーセルの上着を縦に切り裂いた。
そしてマーセルの隠していたその美しい女性としての体が露になる。
「なっ///」
マーセルは突然の事に顔を赤らめる。
「やはり女か、長年商人をしてた経験からもしやと思ったが」
「ひゅー♪男なら整った顔はいけ好かねぇが女なら別だ!」
ドンクの後ろでバルチャーがそんな声を出す。
「こいつは上玉だ!これなら奴隷として売ればかなりの値がつくぞ!」
「そうだがドンクよ、その前に俺達で味見をしようぜ!」
「ふ、そうだな。商品の品質を確認するのも商人の義務だ」
二人の下卑た笑みに悪寒を覚えながらマーセルは悔しそうに言葉を発する。
「ちくしょうが!」
マーセルの目に悔し涙が浮かぶ…こんなやつらに自分は汚されるのか…せめていつか出会う自分が好きになる人に捧げたかった……そんな事を思うマーセルの脳裏には一人の男の姿が浮かんだ。
先日出会い、自分の正体を知りながらも変わらず接してくれた男…
男として振る舞う自分に「美人だぞ」と言ってくれた男…
自分が困ったときに現れて助けてくれた男…
「へへへ、泣くなよ。まぁどうせすぐに俺が泣かすけどな」
「おいおい、俺も楽しむし商品としても使うんだから壊すなよ」
バルチャーの言葉にドンクも最低な言葉で声をかける。
「へへじゃあ楽しもうぜーー!」
バルチャーがマーセルに向かって両手を伸ばす。
「船長ーー!」
乗組員達の悲鳴が響く。
マーセルは涙を浮かべながらも自分が思い浮かべた男の名前を心の中で叫んだ!
(ランド!)
「くびゃあ!」
するといきなりバルチャーがぶっ飛び甲板端の樽にぶつかり気を失った。
「な、なんだきさ…べっ!」
突然吹っ飛んだバルチャーに驚いたドンクがそう声を出すとドンクも甲板の後ろの方へとぶっ飛び樽に突っ込むと気を失った。
「え?」
いきなりの事にマーセルが間の抜けた声をあげるとそこには一人の男の背中があった。
「貴様らが触っていいほどコイツは安くないぞ!」
その男の声を聞いたマーセルは「どうして…?」と呟き涙を流す。
だがそれは先程までの悔し涙ではなく、どうしてこの男がここにいるのかは解らないが自分が心で呼んだ男が来てくれたことによる嬉し涙だった。
そう…今まさに「無事かマーセル、もう大丈夫だぞ」と声をかけてくれている男…
マーセルは思わず声を出してその男の名を呼んだ。
「ランド!」




