悪徳商人と海賊の密談
ここはドンク商会の会長室、この商会の会長であるドンクは今日の売上を計算しながらニヤついていた。
「フフ、今日の利益も相当だな。他の商人の奴等は俺みたいな商才がないからいつまでも俺のように商会を大きくできないのだ。人間真面目なだけでは駄目だ、時には他人を追い詰めたり多少は法に触れる事を厭わなければな。さて、あとは今どこぞの船乗り達に品物をおろしてる奴等が戻ってきたら今日の利益の計算は…「会長、報告があります!」…ん?帰ってきたか」
そこへどこぞの船乗り達へと品物をおろしにいった部下と取り巻きの護衛が戻ってきた。
「戻ったか、それで…狙い通り船乗り達には本来の値段より高く売り付けられたか?」
ドンクが部下の商人にそう尋ねると部下の商人は「そ、それが…」と言葉を詰まらせる。
「どうした?」
「はい、会長の言うとおり「他にもっといい取引先ができた」と口実を述べて値上げしたんですが…思わぬ邪魔が入り売れませんでした」
「なんだと?詳しく話せ」
「はい、船乗り達が最初はこちらの言い値に「約束と違うぞ」と難色を示したのでいつものようにこちらもコイツらをけしかけ半ば脅すように交渉しようとしたのですが…」
「ですが?」
「実はその船乗り達が停泊しているところが何者かの私有地らしく、そこの主人の護衛だと言う者が二人やって来て「この船乗り達は主人の客人だ、彼等に危害を加えるなら敵とみなすぞ?」と言ってきたのです」
「ならばコイツらにその護衛とやらも痛めつけさせたらよかったろう?コイツらは元Bランクの冒険者だし向こうは二人でこちらは五人なのだから。もしくはそこの持ち主とやらに少し金を握らせて黙らせればよかったろうが?」
ドンクの言葉に部下の商人は「勿論そういったことも考えましたし実際にコイツらをその護衛にけしかけたのですが…」と返答する。
「どうしたのだ?」
「その護衛が恐ろしく強く、二人いた護衛の内のたった一人にコイツらはのされてしまいまして…」
「なんだと!貴様ら五人もいて一人にやられたのか?」
ドンクの言葉に「申し訳ありません」と護衛達も謝るが部下の商人が理由を告げる。
「会長、ちゃんと理由があるんです」
「理由だと?」
「はい、その二人は一人は中年でもう一人は優男だったのですがその中年の方の護衛は元Sランクらしいのです」
「え、Sランクだと!?」
「はい、もう一人の優男はCランクらしいので大したことはないでしょうが元とはいえSランクとなるとコイツらでも流石に…」
「むう、それならばやむなしか…では直にそこの持ち主に金を握らせて黙らせる方はなぜやらなかった?」
「我々のところにはその土地の持ち主の者は現れず護衛と名乗る二人しか来なかったのです」
「そうか、しかし売りつける予定の物のなかには俺達のところでしか扱っていない部品等もあったはずだ。それらを買わずにあの船乗り達はどうやって修理をする気だ?修理をする技術を持つ職人もこちらの斡旋予定だったろ?」
「それも交渉手段で言ったのですが、そこに意外な人物が現れまして…」
「意外な人物?」
「はい、それがなんとあの伝説の職人と呼ばれる「魔道具職人アレックス」だったんです」
「アレックスだと!?」
「しかもその横に女が一人いたんですがその女はあの「伝説の鍛治師ダイガン」の孫娘らしく」
「あの伝説の鍛治職人の?」
「二人の護衛から話を聞いた二人は「それなら自分たちが部品を作り、直し方も教えてやる」と言い出したので我々から買う必要が無くなったということでして…」
「それこそそこで土地の持ち主を呼び出して金を握らせればよかろう」
「それも難しいかと…」
「なぜだ?」
「いえ、どうやらアレックスやダイガンの孫はそこの持ち主の客人らしいのです。護衛の二人とも親しそうに話していたので間違いないと思われます。となるとそこの持ち主の者はあの伝説の職人と交流があり元とはいえSランクの冒険者を護衛として呼べる程の力のある者です。そんな人間が我々のその場で包める金で動くとは思えません」
「ぐ、そうか…しかしみすみす利益を逃すのも…」
ドンクがそう言って考え込んでいると「会長さんよ、いるかい?」と声が聞こえた。
「バルチャー…明るいうちは来ないように言ってるだろ」
「そう邪険にするなよ、昔ジャビィやダブダが居たときは共に甘い汁吸った仲じゃねぇか」
「…まぁいい、それで何の用だ?」
「実は今度襲おうと思う船があってな、ただ今までより少し手強そうだから武器や食糧を融通してほしいんだ」
「どんな船だ?」
「あぁ、いまここから少し行った浜辺に停泊してる船なんだが…」
そう言って説明するバルチャーの言葉に部下の商人が反応する。
「サハギン達の襲撃で停泊してる船だと、それはもしやこんな船か?」
そう言って今日見たマーセルの船の外見を説明する。
「あぁ、その船だ。なんだよ知ってるのか?」
「あぁ実はな…」
ドンクはバルチャーに説明をした。
「はぁ、元Sランクねぇ…。なるほどそんな奴が居たからあの船はサハギン達の襲撃を凌げたのか」
「うむ、おそらくはそこの私有地の持ち主が沖合いで釣りでもしてたときにその船が襲われてるのを見かけて助けたのだな」
互いの話を擦り合わせてそういう結論にドンク達は至った。
「よし、武器や食糧は用意してやる。その代わりなるべく船を壊すなよ」
「なんでだ?」
「あのアレックスやダイガンの孫が手を加えた船なら高値がつくからな。乗組員は好きにしろ」
「そうかい、それなら男でも多少は金になるし乗組員共は奴隷として売り払ってやるか」
そう会話する二人に部下の商人は意見を述べる。
「しかし会長、先程も言ったとおりあの船には元Sランクの冒険者が近くにいますよ?」
部下の意見にドンクは「頭を使わんか、誰がすぐさま襲撃しろと言った?」と自分の考えを告げる。
「確かに元Sランクは驚異だが、それはそこの私有地の奴の護衛だろ?ならばその船が出航し沖合いに出た頃に襲えばいい。離れてからならそのSランクの奴や私有地の持ち主も手出しはできないだろう」
「な、なるほど」
「そうだな、それに実はこないだとあるものを手にしてな。ソイツを使えば更に楽に襲撃できるぜ」
「あるもの?」
ドンク達にバルチャーは「実はな…」とその最近手に入れたものの事を伝える。
「ほお、そんなものが。それならなおのこと成功は約束されたな」
「まぁな、だから武器や食糧を頼んだぜ?」
「任せておけ。よし、莫大な利益の前祝いだ!今夜は飲むかバルチャー。せっかくだからお前も付き合え」
「いいねぇ」
「ありがとうございます会長」
二人の返事に気をよくしたドンクは「うむうむ!あぁそれとバルチャー、襲撃の時は俺も同行するぞ」と口にする。
「なんでだ?」
「お前は積み荷の価値がわからないだろ?うっかりお前が価値のあるものを壊さないようにな」
「抜け目のねぇこった」
「そう誉めるな」
こうしてドンク達は後に手にする利益を妄想して「大儲けの船出だ!」と酒に酔うのだった。
それが破滅への船出になるとは夢にも思わずに…。
一方その頃のランド達はというとドンク商会以外の商人との取引は滞りなく無事に終わり取引した品物をドルフィン号に積み込んでいっていた。
「さて、あとはこの荷物だけか?」
ランドが目の前にある荷物を見てマーセルにそう尋ねるとマーセルも「ああ、これで最後だ」と答える。
「じゃあとりあえず一度俺のマジックバックに入れてと」
ランドが目の前の荷物を自身のマジックバックに入れて船の方へ向かおうとすると…
「船長、よろしいですか?」
船乗りの一人がそうマーセルに声をかける。
「どうした?」
「はい、船の倉庫なんですが…明日アレックスさんやノエルさんの修理が入るとなるとその作業の為のスペースが必要となります。だけど今ランドの兄貴が持たれてる荷物を入れるとスペースがなくなってしまいますがどうしますか?」
「あ、そうか…そこまで考えてなかったな、本来は取引中に職人に修理の仕上げをしてもらうつもりだったからなぁ」
マーセルがそう言って考え込んでいるとランドが声をかける。
「それなら今日のところは俺がこのまま預かっておこうか?別に今は多量の荷物をいれる予定もないからな」
「いいのか?そうしてくれるなら助かるが」
「構わないぞ」
「じゃあ明日修理が終えてから搬入することにしよう。ありがとなランド」
「なに気にするな」
そんなやり取りをしていたのだった。




