STEP1 Frozen Flare 96
愛美は、マイクをスタッフの手に押しつけておいて、真っ直長門の元に歩いていった。
まるで当たり前のことのように、愛美は長門の胸に顔を埋め、長門は長門で愛美の背に腕を回して抱き締める。
そんな二人は、傷付き身を寄せ合う獣達のように見えた。
あの二人は、そうか、そうなのか。
私は視線の端に二人を捉えながらも、伸びやかに、そして切々と訴えるようなザキの声に耳を傾けていた。
どんな奇跡を起こしたのか。
種明かしはきっとされないのだろう。それでもいい。確かに、奇跡は起こったのだから。
「Believe forever I think so as you Believe forever 僕らの明日を」
観客席の少女達の大部分が、涙を流している。
私も目の奥にジワッとくるものを覚えて、思わず目頭を押さえていた。
ザキは、余韻にひたるように顔を上に向けて立ち尽くしている。
その後唐突に始まったMCは、独白に近いものだった。
「フローズンフレアは、元々別のメンバーで活動していたバンドだった。インディーズ時代に出ている一枚のアルバムを聞いて、俺はこのバンドで歌いたいと思った」
誰かに向けているというよりも、自分の気持ちを確かめているかのようだ。
「このメロディーに俺の歌詞を載せて、歌えたらどんなに気持ちいいだろうって。激しく、それでいて丁寧なドラムのプレーと、繊細でそして大胆なキィボード。実際メンバーの音を聞いて、ベースの深い包み込むような音と、ギターの出す胸を掻き毟るような音に、もうこれしかないと思った」
それまでMCの度にキャーキャーと叫んでいた少女達は、今は静かにザキの言葉に耳を傾けている。
「人の曲は、あんまり歌いたいとは思わないんだけど、フローズンフレアのやつで、すごく俺が惚れ込んでる曲がある。今、その曲が歌いたくて仕方がないから、歌う。ラストナンバー、『彼方へ』。シヴァとヨータ、演れるだろう?」
答えは、『彼方へ』のイントロが始まったことですぐに分かる。
フローズンフレアのメンバーだったのはシヴァとヨータだ。
しかし、ベースの音が包み込むように絡み着いたかと思うと、ギターの音も合わさってきた。ライもウミハルも、弾けて当たり前だという顔をしていた。
実際の元の曲を聞いたことがある者なら、アレンジが変わっていることにすぐ気付いただろう。2ビートの軽快なリズムに乗って、ザキのボーカルが入る。
「何処かへ 何処かへ 呪文のように 囁き続ける 声の主が 悪魔だと知ってるのに 手を伸ばしてしまう 寂しい夜には 何処かへ 何処かへ いつしか繰り返してた 何処かへと」




