STEP1 Frozen Flare 95
愛美は、一つ一つの歌詞を訴えかけるように歌っていく。
優しさと暖かさと、その中に潜む何者にも屈しない強さが、声には満ちていた。
「Believe forever I think so as you Believe forever」
ずっと信じて。分かってるでしょう。信じてるの。
ザキは子供のように無垢な瞳のまま、愛美が差し出していた手を掴んだ。
愛美がどんな表情をしているのか、私には無論背を向けているので見えない。
しかし愛美の表情が、聖母のように慈しみに溢れているであろうことは、容易に想像がついた。
愛美がザキを引き起こすのに合わせて、ザキは立ち上がった。まるで奇跡を見ているかのようだ。
「嘘つきな小鳥達」
愛美がマイクに向かって歌いかけながら、ザキを見つめている。ザキも愛美を見つめながら、マイクスタンドに口を近付けた。
「折れた足で 懸命にもがくから 哀れを誘うよ」
愛美はザキの手を握ったまま、正面を向いた。
「救いの手は何処からくる 瞼の下の 光に問いかける」
ザキもまた、正面を向く。
「教えてあげようか 神様なんていないさ 知っているよそんなこと」
二人の声が合わさる。
「Believe forever I think so as you Believe forever」
ザキは、歌手らしくアドリブでハモっていた。
キィボードだけであった伴奏が、勢いを得たかのように、バンドの音に変わった。
ライがウミハルがヨータが、それぞれ自分の楽器に命を吹き込んだ。
握っていたザキの手を愛美は放し、ザキが掴んでいた指先だけで二人は暫く繋がっていた。
愛美はそのまま舞台の袖へと歩き始め、ザキの手は愛美から離れる。
ザキの目は、それでも愛美を追っていたが、微かに微笑むと観客へと向き直った。
「何かにすがりつきたくて 迷子の子供は 恐ろしい魔女の家の扉を叩く」
愛美は、ステージの袖へと戻った。
「大変なのは立ち上がってからよ。これからは一人で歩いていかなきゃ」
私の横を通り過ぎる時聞こえたのは、確かに愛美の声だ。
私は、ただただステージ上のザキを見つめることしかできなかった。
「どこにも信じるものなどなくて それでも信じていたくて 信じさせてくれるものに 身を委ねて壊れることも 知っているのに」
なんと大らかに歌うのだろう。
こんなザキを見るのは私は初めてだ。
いや、本当はザキはこんなふうに歌う人間だったのかも知れない。それが鬱屈して、何か苦しいような息詰まるような歌を歌う歌手にさせていたのだ。




