STEP1 Frozen Flare 88
「教師に媚売るのは、先輩が学校に復学できないか頼む為です――恩に着せるつもりはありません。俺、先輩と一緒に軽音やるの夢だった。二年からなら、やり直しは出来るかも知れないんですよ。だから、一緒に学校行きましょう」
ザキは、まるで針の筵から逃れるかのように、ソファから立ち上がった。
メンバーの、そしてスタッフの視線は、今はザキ一人に向けられている。
怒り、憎しみ、哀れみ?
違う。
誰もがザキを許し、そして理解して欲しいと切に願っていた。
ザキは地団駄を踏むと、
「仲良しごっこなら、勝手にやってろよ」
と吐き捨てて、荒々しく部屋を出ていった。
まるでガキだと愛美は思っていたが、ただ黙って次の展開を待っていた。
ザキが部屋を出ても、長門は動かない。これでいいんだろうと言うようにこちらを見た長門に、愛美は軽く頷いた。
二人の警察官は、尻の座りが悪くなったのか、顔を見合わせてモゾモゾと動き出した。
誰も動かないので、自分達でザキを追うことに決めたらしい。
二人の刑事が廊下に消え、扉のパタンと閉じる音がした。
群れの頭を失った為に、三人の制服警官達は、置き物の如く固まってしまった。反対に、呪縛から放たれたように、部屋にいた者達に動きが戻ってくる。
「何で分かんねんだよ。あの馬鹿」
悔しそうにヨータが吐き捨てた。
「言葉は時に無力だ。音楽だって、役に立たない」
シヴァは、額に手を押し当てて嫌々するように頭を振る。
「死んでも、俺、泣いてなんかやらない」
ライは、もう泣きそうな声で言った。
「ステージで死ぬの、奴らしい最後かもな」
ウミハルまでそう言う。
その言葉に、誰もが思わず頷いていたのだ。
愛美は、自分の出番がきたことを悟る。
「お願い。ザキさんを見捨てないで。あなた達が見捨てたら、彼、本当に助からなくなるの。あなた達の協力が必要なの」
愛美は静かにソファに歩み寄った。
「協力って?」
シヴァが不思議そうに呟く。
誰もが意味が分からずに、愛美の言葉を日本語以外の言葉で語られたかのように受け止めていた。
「『皆殺しのJungle』は演奏しないで」
一体何を言い出すのか、誰もがそんな面持ちで、愛美を見る。
「その曲の最中に襲われると」
里見がハッとしたように言った。
愛美がここにいる本当の理由を知っているのは、彼だけだ。
「違うわ」
小さな幅を行ったり来たりして愛美は、
「誰も襲撃者なんていない。ザキを殺してしまいたいと思っているのは、他の誰でもない。ザキ自身よ」
最後の言葉とともに足を止めた。




