STEP1 Frozen Flare 89
部屋にいた全ての人間の視線が、愛美に向けられているのとともに、誰もがその言葉に衝撃を受けていることも間違いがなかった。
まるで探偵気取りだ。
愛美は、自分が自分でおかしくなる。もちろん、顔には出さなかったが。
「ザキの自作自演だというのか。実際に襲われたんじゃなかったのか?」
シヴァが、愛美の期待通りの反応をくれた。
「偶然の重なり合いが、架空の襲撃者の一連の仕業に見える。あの用紙、ザキも同じ物を使っているのでしょ?」
抑揚をつけて愛美はそう言うと、フッと軽く微笑んだ。
「狂言だったのかよ」
ヨータが、疲労感の滲んだ声を出した。
愛美は静かに首を振る。
「そうじゃない。ザキは自分でやったとは思ってないわ」
「まさか、二重人格?」
里見の言葉に、愛美はちょっと眉を顰めて、怒ったように矢継ぎ早に言った。
「どうしてすぐそう短絡的になるの。人間の心なんて元々二重どころか多重構造をしているのよ。色々な感情が矛盾せずに同居しあっている。それを、学問だといって勝手にあーだこーだと分類する人間が悪いのよ。他人に他人の心が分かる? 気持ちなんて自分でも分からないものよ」
みんな言葉もなくシーンとしている。
愛美は一旦言葉をきり、今度は一言一言に力を込めて、相手の心に響くように言葉を選ぶように言った。
「彼の歌には強い力があるの。それがアーティストってものなのかも知れないけど、あの曲はマイナスの力を増幅させるわ。他人を駄目にし、自分自身も駄目にする。だから歌わせないで」
「歌うなって。その曲のプロモーションなんだぜ」
ウミハルが困惑げに、周囲を見回した。
そのウミハルの視線に解答をくれる者はいない。
愛美は、抑揚をつけず静かに宣告した。
「ザキは駄目になる。多分再起不能になる」
誰かが、ゴクリと喉を鳴らす音が聞こえた。
「君は、スタイリスト見習いじゃないのか?」
シヴァが、愛美を見る目はそれまでと違っていた。
畏敬とも、畏怖ともつかぬ視線を受けて、愛美の心は声にはならない喘ぎを洩らす。
(騙してごめんなさい)
「ここではそうよ」
愛美は、ほんの少し痛みを覚えながらも、静かに微笑んだ。
里見は、縋れる者を前にして生き生きとし始めた。もう駆け出しそうになっている。
「新曲用のイベントで、新曲を歌わないのも、面白い戦法だととられるかも知れない。早速、上に話を」
その時、里見の高揚した心に水を浴びせるような声が響き渡った。
「予定通り、『皆殺しのJungle』は演る」
シヴァだ。




