STEP1 Frozen Flare 90
声にこもった決意の固さに、里見も何も言えなくなる。
シヴァは立ち上がると、愛美に向かって言った。
「俺達にできるのは、手を差しのべることだけだ。その手をとるかどうかはザキ次第だし、駄目になるのが自分なら、立ち上がるのも自分だ。そこで駄目になるなら、今じゃなくとも駄目になるさ」
その言葉を合図にしたかのように、ウミハルとヨータも立ち上がった。四人は、言葉もなくその場を離れていく。
そして、その日の午後五時をもってFrozen Flareのプロモーション用のイベントライブは幕を開けた。
ライブハウスは、キャパシティ一杯一杯の人間で溢れている。ライブが始まる前から、既に客のテンションは上がっていた。
客層は、ザキの熱心なファンを中心とした、殆どが十代半ばの少女達である。
観客側の熱気に反比例するかのように、バンドメンバー達は淡々としていた。
互いに言葉を交わすこともなく、ライブ開始を告げる声がするまでの間、それぞれバラバラなことをして過ごしていた。
「そろそろ時間だ」
私に促されて、ウミハルはソファの上に身体を起こし、ヨータは読んでいた雑誌を放り出し、それにつられたようにライが携帯プレーヤーのイヤフォンを耳から抜いた。
一番先に立ち上がったシヴァの後を、雛鳥のようにメンバーがついていく。ザキもそれに、幾らか遅れて従った。
誰も彼も無口で、そして表情に乏しかった。
ステージ袖に、愛美と長門は控えていることになる。
私は、聞くともなく二人の会話を聞いていた。
「さっきのあれ」
長門が辺りを憚かるように愛美に言う。
「詭弁だな。それが悪ければ、ペテンだ」
何の話をしているのか、私には分からなかった。
愛美は、私が聞いていることに気付いているのか、こちらをチラリと見る。
私は思わず視線を逸らしてしまった。疚しいことがありますと言っているようなものだ。
「今度ばかりは、終わりは私が作るんじゃないもの」
愛美は、私に聞かせるつもりのように言った。
「お前ならできる」
その言葉を発したのが、長門だとは私には思えなかった。そんなことを言う人間には見えなかったからだ。
愛美もそうだったのだろう。暫く沈黙が続いた。
「祈ってて」
愛美は、私のことなど失念したとでもいうようにそう言う。
微笑む彼女の姿に、私はなぜか見ては悪いものを見てしまったかのように再び目を逸らした。
私の意識は、すぐに別のものへと向かう。
客席から黄色いと言うより、耳をつんざくような声が上がったからだ。メンバー達が、ステージ上のそれぞれ指定の位置に歩いていく。




