STEP1 Frozen Flare 83
「長門さんになら、任せても大丈夫だと思っているんですが。警察とあなた方の意見が別れた場合は、絶対にあなた方の判断に従いますから」
ライブを中止するのは、時間的に無理だ。
ただの嫌がらせだと笑って済ますことはもう、誰にもできなかった。
しかし、それでもライブをやめにすることはできないのだ。
一度延期している。更に無期延期などと言えば、プロモーションの資金を回収できない。
ザキの命と金とどちらが大切なのかと問われて、やはり会社の利をとってしまうのが、上の人間というものだ。
ライブを中止せずにザキに何かあれば、マスコミはこぞって喰いついてくるに違いない。
何でもかんでも商売にしてしまうからこそ、上に立つ人間というのは会社運営していくことができるのだろう。
ライブが中止できないならば、何としてでもザキを守り抜くしかない。
それができるのは、長門ではないのか。
警察は、身を張ってはくれない。義務感だけでは、そこまでできないのが現実だ。
誰だって、我が身が可愛いのだから。
警察はマニュアルばかりに頼り、定石通りの捜査しかできないらしい。スタッフだけでなく、メンバーからも事情を聞きたがっていた。
コピー用紙も使ったパソコンの機種も、事務所で使っているものと同じで、全くの部外者が事務所に誰にも見咎められずに侵入することは有り得ない為に、疑ってかかっているのだ。
疑われて当然ではあるし、事実その中の誰かが犯人ではあるが、できれば私は犯人もザキもどちらも救って欲しかった。
「任すも何も、長門さんが対応できるのは外からの攻撃だけよ」
愛美は、呟くようにそうに言った後、
「敵は内にありってね」
と、意味深に言った。
誰が犯人か、分かっているような口振りだ。
私は、その時考え得る限りの範囲で、その言葉を文字通り受け止めていた。
マスコミはザキの件以来、Fフレアの動向に目を向けている。
音楽関係以外の取材は一切断っていたし、今日のライブに呼んでいるのも音楽雑誌のライターだけだ。
ワイドショーではあるが新曲のプロモーションをするという約束で、取材を受けた。
質疑応答は私が用意したもので、峰のことがあったからか、ザキもウミハルとライも余計なことは何一つ言わずに、一応それらしくはしていた。
しかし最後に、リポーターが質問事項には含まれていないことを聞いた。
襲われたというが、本当のところはどうなのかと。
私がカメラを止めるよう、メンバーにも黙っているように合図をしたが、よりにもよってザキが事務所のやらせだと答えた。




