STEP1 Frozen Flare 78
過去は過去として、今に目を向けていかなければ、結局は大切なものをまた失ってしまうことにもなりかねない。
姿勢を元に戻したものの、ザキは黙ったままなので、年寄りの教訓終わりと愛美は茶化しておいた。
ザキの顔に、笑みが浮かぶ。
ちゃんと笑えるんじゃないか。愛美がホッとしたのも束の間だった。
「じゃ、その今とやらを大事にして、俺を慰めてみろよ」
突然ザキに抱き竦められて、愛美は言葉を失った。
華奢に見えるが、やっぱり男の子だ。
きつく抱き締められると痛いぐらいだった。
愛美は、さてどうしたものかと考える。
どうすればこの場を切り抜けられるだろう。子供にでもするように、いい子いい子して欲しいのなら問題はないんだが。
「自分の女に何されても平気なのな。顔色一つ変えねーの。愛されてないんだ」
ザキが、嘲るようにそう言った。
思い出した。長門がいたのだ。
ザキは、愛美をソファに押し倒すようにしながら、シャツの中に手を突っ込んでくる。愛美は、不利な体勢でジタバタともがいていた。
どう抵抗してよいものか分からない。
冗談だろう。本気の訳が。
下着の上から胸を触られそうになり愛美は、
「やめてよ」
とザキを、強く押し返した。
信じられない。ふざけるにもほどが……。
「わざわざ、俺が抱いてやろうって言ってんだぜ」
馬鹿にするように、ザキは愛美を見下ろして言った。
「あなた何様、ザキ様って訳」
愛美の怒りがついに爆発したようだ。
長門は、愛美の言葉にようやく呪縛から解かれたように身体から力を抜いた。
握り締めていた拳を、長門は何もなかったように開く。
ザキは、全く思いも寄らない愛美の反撃に、色を失っていた。愛美はザキに対しては、決して営業用の姿勢を崩していなかったのだから、相当驚いたことだろう。
ザキは唇を震わせていたかと思うと、愛美に指を突きつけて叫んだ。
「お前なんか、辞めさせてやる」
愛美は、侮蔑の表情を浮かべて、ザキを嘲笑った。
「あなた、小学生からこっち成長してないんじゃない。先生に言いつけてやる」
その瞬間、ザキの手が飛んだ。ピシッと渇いた音がする。
よほど強く打たれたのか、愛美の顔は反動で横になっていた。流石にザキも慌てたらしい。殴るつもりはなかったのだろう。
思わずカッとなって……。
「あっ……えっと……そんなつもりじゃ」
ザキは狼狽して、少し頼りない声を出した。
顔を横に向けていた愛美は、キッと顔を戻すと、ザキを睨んだ。
小気味よい往復ビンタの音が弾ける。
愛美は、ショックを受けているらしいザキを捨て置くように立ち上がると、勝ち誇ったように言った。




