STEP1 Frozen Flare 77
「浮き沈み激しいもんね。好きじゃなきゃやってられないか。ザキさんみたいに才能あったらいいけど、好きだけじゃ駄目でしょ、普通。みんな後先のこと考えて、学校とか資格考えてるし、そう考えると結構アイドルって言っても堅実なんだね」
ザキは、愛美の言葉に耳を貸す必要もないといった顔をしていた。
愛美は、追究の手を緩める気はない。
再び、ザキの顔を覗き込んだ。
「どうして学校辞めたの? 学生なんてやれるの今だけよ」
こんなことは、色んな人間に耳にタコができるほど聞かされた言葉だろう。
ザキは、馬鹿にしたようにケッと呟いて、愛美を嘲るように見た。
「年寄りのお言葉って訳?」
愛美は顔をしかめかけたが、ザキよりも多くのものを見ていることは確かだと思い直す。
経験者という意味なら、年寄りでも結構だ。
「まあ、そんなところね」
愛美があっさり認めたので、ザキは肩透かしを喰ったようだ。
溜め息ともおたけびともつかぬ奇声を上げると、ザキはソファに大の字になって、テーブルに足を伸ばした。
「色目使ってくる奴とかは学校辞めてもやっぱりいるし、仕事も学校も面倒臭いことばっかなのは変わんないし、好きで行ってた学校じゃねーから辞めたってどうってことないけど、学校の教室で歌ってた頃は確かに楽しくって歌ってた筈なんだよな。今は、何かよく分かんねーよ。デビューなんかしなきゃよかったぜ。馬っ鹿みたいな毎日でさ」
どこまで本気で言っているのだろう。
色目? 男子校でか?
ザキの外見を見て納得するよりも、愛美は聞かなかったことにしてしまう。
どんな学校生活を送っていたのか、どんな友人関係が、親子関係があったのか。
愛美が知っているのは、今この時のFフレアのボーカル、ザキという人間だけだ。
憎たらしくって根性曲がってて、全然素直じゃない嫌な奴。
「過ぎてしまった時を、あの時はよかったって思うより、今、この時を大事にしていきたい。自分の所為で、沢山の人を傷付けておいて偉そうなことも言えないんだけど、過去はもう変えようがないし、人って今を生きている訳でしょ。後悔しないように、その時その時を大切にしていきたいって、私は思うな」
何も知らなければよかった。
どれほど嘆いたことだろう。普通の女の子のままでいたかったと。
家族と友人と、約束された平凡な未来。
全てを失って初めて、その時がどれだけ儚く愛おしいものであったかを知った。
過去を懐かしみ、自分から全てを奪った者を、憎んでも恨んでもどうにもならないのだ。愛美は、死なない限りは、これからも生きていかなければならない。




