STEP1 Frozen Flare 76
一つ一つ部屋を確かめていた愛美は、ある部屋で求めていたものを見つけた。
長門が唇の動きだけで、時間か?と聞く。
愛美は、まだだと首を振って、部屋の中に滑り込んだ。
「太陽に背を向けて 月の光からも逃れるように 星の滴さえ眩しすぎて 僕は罪深き哀れなる者」
ザキは、携帯プレーヤーを聞きながら、歌を口ずさんでいた。
『皆殺しのJungle』のカップリング曲『starless』。
歌詞の続きに、温もりは道標ほどの役にも立たないというフレーズのある曲だ。
〈空から剥がれた星 輝けずに散らばる 消えた時の数だけ 求めても求めても 祈っても届かない闇しかない〉
starless。意訳すれば、星も無く、と言う感じか。
ザキは、愛美の姿に気付くと歌うのをやめて、プレーヤーも切ってしまう。
何か用かよとぶっきらぼうに言いながら、テーブルの上に伸ばしていた足を、ソファの上に引き寄せた。
土足で、全くお行儀が悪いったらありゃしない。
「心配だから見て来いって。下っ端って大変ね」
愛美は、勝手にザキの隣に座った。
長門は、窓にもたれるようにして突っ立っている。
ザキやメンバーがマスコミにとり沙汰された所為か、十五日のシングルリリース以来、ラジオや有線放送でのオンエアも好調で、Fフレアの3rdシングルは今週のCDの売り上げランキングの二十位内に入ることは間違いないと目されていた。
プロモーションビデオが流されているのを愛美もテレビで見たが、どうしても違和感を拭いきれない。
ザキ以外のメンバーは、本当に好きで音楽をやっているのだという印象を受けたし、シヴァの話一つ聞いていても、音楽を大事にしていることが伝わってきた。
インディーズで活動している現ライトネスのボーカルのケンゾーも、自分のやっている音楽のことを語る時、とても真剣で心から満足そうな表情を浮かべていた。
それなのにザキは、どうだろう。今だって、つまらなそうな顔をしていた。
膝を抱えるようにして、愛美を見ずに部屋の隅を睨んでいるザキの顔を、愛美はわざわざ覗き込むようにして聞く。
「歌うの嫌いなの?」
ザキは、何だよそれと気色ばんだ。
愛美はそれに気付かないふりで、
「だって、歌ってても楽しそうじゃないし」
言い訳するように言った。
ザキは一瞬、息を飲んだようだったが、
「歌が嫌いだったら、こんな仕事選ぶかよ」
と吐き捨てて、愛美から顔を背けた。
愛美は、ザキが聞いていても聞いていなくても構わないといった調子で、独り言のように喋る。




