STEP1 Frozen Flare 69
私は若くもなく、しかも男なので知らなかった。私が聴くのは、専ら女性アーティストのものだ。
事務所の人間達は、電話の応対に忙しそうである。
何やら午後からあるライブはとりやめになりそうだと言うので、その処理に追われているのだ。よりにもよってライブの前日に、グループの一員が暴行事件にあってしまったと言う。
本人は怪我などはなかったようだが、医者の診断により当分は安静を余儀なくされてしまったということだ。
忙しく立ち働いている人間を見ながら、私はどう声をかけるべきか迷っていた。
誰も私に注意を払ってくれない。
忙しく行き来している男女に、私は幾度も声をかけあぐねていた。
暫くして、同じように突っ立っているだけの人間がいることに私は気付いた。部外者のようではないが、物思いに沈んだ様子で佇んでいる。
私は、意を決してその二十歳前後に見える若者に近付いた。
警察の者で、昨晩の事情をよく知っている方のお話が聞きたいのですがと、いささか気弱な態度で言った。
警察の不祥事が恒常的になっていて、民間人への応対一つも警官の横暴だの何だのと言われることを懸念して、そうなったのではない。
元々私は、外身も中身も威圧感ゼロの人間だ。
警官という職業の持つ権力は、私という人間には大して重みにはならないらしい。
制服警官ならまだしもなのだろうが、私は生憎私服の刑事だ。
同僚を見ていると、私服でもちゃんとそれなりに見えるのに、私はどうもサラリーマンに見られてしまう。しかも、一番下でヒィヒィ言ってるような。
他の者のように親の意思を継いだ訳でも、小さい頃からの憧れだった訳でもなく、何となく私は刑事になってしまっただけだ。
こんな私でもなってしまえたのだから、警察官だって全部が全部正義のヒーローという訳でもないだろう。
偉そうにしたってどうも格好がつかないので、私は私なりの警察官であることにした。結果が、気弱な冴えないサラリーマンふう刑事だ。
眼鏡の物静かな感じの若者は、今しも電話を置こうとしている一人の男を指差す。
私は若者に礼を言って、その男に近付いて、先ほどと同じ言葉を繰り返した。
警察というと、男は明らかに迷惑そうな顔をする。
側にいた人間に指示を出すだけ出して、男は私を部屋の隅の応接セットに案内した。私が座るのを待って、里見という名前の刷られた名刺を渡される。
私は、背広の内ポケットから手帳をとり出して身分を証明しようとしたが、里見に邪険に制されてしまった。




