STEP1 Frozen Flare 67
「俺にとっては、ナオの歌詞じゃなきゃ意味がないけど。そうまでして、メジャーデビューにこだわりたくなかった。シヴァに対してはもちろん、ザキには余計恨みなんかないさ。だから、頼んだのは俺じゃない。誰かを庇う為に嘘なら吐けるけど、俺には頼む必要がない。俺には小さなライブハウスが性にあってるんだよ。歌さえ歌え続けられるんなら、路上ででも歌っていくさ」
側まできたナオが、少女を見てギョッとしたように言った。
「あなた、怪我を」
思わず手を伸ばしかけてナオは、少女に構わないでいいと制されて、また手を引っ込めた。
ナオの顔に、悲痛なものが漂う。
少女はほんの少しだけ表情を緩めて、
「こんなもの傷の内にも入りませんよ」と、言った。
心配しなくてもいいと言っているようだ。
そして少女はきびすを帰すと、二、三歩扉に向かって歩きかけたかと思うと、クルリと振り返った。
「ザキの部屋にあったフローズンフレアのミニアルバムで、歌詞だけ見たんです。曲は聞いてないんだけど、あなたが書く詩、どこか優しくて好きです。今度、そのライトネスのライブあるんなら聞いてみたいな」
ナオの表情がハッとなった。
そして。
「ごめんなさい。私なの。私が頼んだの」
と、泣き叫ぶように言った。
ケンゾーが驚いたように、ナオを見る。その途端少年達はバタバタと立ち上がり、少女を囲むようにした。
「違う。俺らが勝手に」
「警察呼ぶなら好きにすりゃいい」
切羽詰まった表情を浮かべて、真剣な声音でそう言う少年達に、ナオは驚いたようにその場に突っ立っていた。
ケンゾーが口を開きかけた時、少女が呟く。
「馬鹿」
その言葉は、ひどく優しい響きをもっていた。とても罵倒の言葉とは思えない。
少年達は、みな口を閉ざして、ただ少女を見つめた。ケンゾーもナオも、何も言えずに黙り込んでいる。
「誰かを大切に思う、あなた達の気持ちは正しい。でも、ザキを傷付けてどうなるの。腹いせでそれで満足? 罰なら別な形で下される。間違いなくね。あなた達がしようとしたことは、許せないことよ。やっていたらとり返しのつかないことになってたわ。でも、あなた達がやったことは、ザキを殴って昏倒させただけ。喧嘩の小競り合い範囲でしょ。だから、何も変わってない。つまり、軽挙妄動は慎むべしってことよ。って、それは私にも言えてるか」
――お邪魔様。
少女はそう言って、少年達の囲みを抜けて、もう振り返らずに歩き始める。
誰も何も言えなかった。




