STEP1 Frozen Flare 59
ライが弦を替えている間、ザキは休憩だと言って愛美にコンビニまで買いに走らせたパン菓子と飲み物で、腹ごしらえをしていた。
ザキは相変わらず、意味もなく彼女に当たり散らしている。
それでも愛美は案外辛抱強いのか、文句一つ言わずに黙々と仕事をしていた。
愛美は、二日間オフが挾まる前の出勤二日目にして、すっかり雑用スタッフらしくなっていた。
素人では邪魔になるだけだという私の最初の見方は、思いきり当てが外れたことになる。
もう一つ当てが外れたと言えば、愛美自身に私が抱いた最初の感覚だろう。
普通の女の子だなんて評して悪かった。やはりとても可愛い子だ。
もしかしたら、愛美の性格の変貌を目の当たりにしたことで、私の彼女の外見に対する見方さえも変わってしまったのかも知れない。
髪の毛は、おばさん臭いひっつめ髪からポニーテールへと変わっていて、服装も初日(次の日、ザキの家に泊まったものらしく、二日続けて同じものを着ていた)のカジュアルな物から、シックな黒を基調とした服に変わっていた。
しかし、眼鏡は変える気はないらしい。
今日は峰に、口紅だけでも塗ったらだいぶ雰囲気が変わるから、塗ってみないかと言われていた。
彼女は化粧は嫌いだと言って、笑ってとり合わなかったが。
長門はそれがユニホームなのか、黒のパンツとシャツという格好に代わりはなかった。
ライがギターの弦をとりかえた後は、さしたる問題もなく、七時過ぎにはリハーサルを終えることができた。
ラジオの番組中もその後のリハーサルでも、ザキが不機嫌そうにしているのはいつもと変わらなかったが、奇跡的に全てはスムーズに運んだ。
やはり愛美がザキのやつ当り対象になっていて、他へと向かう怒りを緩和させていたのだろう。
あまりにも、うまくいき過ぎていたのだ。
その後に待ち構えている落とし穴を、私としては考えておくべきだった。
リハーサルが終わって解散を告げた後も、ザキはグズグズとしていて、リハーサル途中に顔を出したプロデューサーの向井に何だかんだと愚痴っていたが、終わるとウミハルはさっさと帰ってしまった。
ヨータとシヴァの姿も見えないので、いつの間にやら帰ったものと思われる。
ライだけは、スタジオでまだギターをいじっていた。弦が切れたので、いつもより手入れを念入りにしているのだろう。
サブギターは用意するし、ライブ中に弦が切れても、オクターブ変更で対処のしようはある。
長年の経験があるアーティストなら、弦が切れたところでパニックになったりはしないが、ライは初めてのステージだ。




