STEP1 Frozen Flare 60
弦を切ってもアドリブで繋げるものか、私には判断がつかない。
緊張を解してやるつもりでたわいのない話でもしようと、私はライを駅まで送ろうと約束し、車を駐車場にとりにいく為に廊下へと出た。
帰るんなら、ヨータも弟と一緒に帰ってやればいいものを。
兄弟がバンドに揃っているとは言っても、その関係はさばさばしたものだ。
ヨータとライの兄弟は、二人とも休みで家にいても仕事にくる時は別々にきたりする。
冷たいような気がする反面、私には兄ではなくとっくに結婚している姉が一人いるだけなので、男兄弟の関係というのは、そんなものだろうかと思ってしまう。
不肖の弟と言うものは、子供並みに気に掛かるものらしく、何かと構いに掛かってくる。それとも私の姉が過保護すぎるだけか。
廊下の突き当たりに、人影が二つあった。
シヴァとヨータだ。まだ帰っていなかったらしい。
以前からバンド仲間だったこともあり、あのメンバーの中では一番まともな付き合いがある。
「ライブは明日なんだぜ」
辺りを憚かるようにして交わしていた二人の言葉で、聞きとれたのはそこだけだった。
「ぶっ壊れりゃいんだよ」
ヨータはそう言うと、たまたま私の方を見る。私は、思わずその場で凍りついていた。
二人とも私の存在に気付いたらしい。
シヴァとヨータがきつい目で私を睨んだ為に、私は彼らに声をかけることもできず、そそくさとその場を離れた。
トイレで少し時間を潰して廊下に出た時には、シヴァとヨータの姿はもうなかった。
ぶっ壊れりゃいい。
憎々しげに吐き捨てたヨータの言葉が甦る。
スタジオに戻ると、ライはまだギターを片付けていなかった。
ザキは帰り支度を始めている。シヴァの姿もあった。
私はシヴァに視線を合わせないようにして、ザキに合わせて帰ろうとしている愛美を部屋の隅に呼んだ。
「実は、さっき……」
私はそこまで言って、あとの言葉は飲み込んだ。
シヴァがこっちにやってくる。私は言葉を濁して、愛美にあとは頼むと声を掛けた。
愛美はちょっと不思議そうな顔をしたが、近付いてきたシヴァにお疲れ様でしたと言って、ザキの方へ歩いていった。
傍らに立ったシヴァの真剣な表情に、私は何を言っていいものか分からずに、
「ヨータは?」と、聞いていた。
自分で墓穴を掘ってどうするのだろう。
「帰ったよ」
と、シヴァは言って、ライやザキの方を窺うように見た。
ライは背を向けてギターを片付けようとしていて、ザキは愛美にまた何か言っているようだった。
「話がある。誰にも言わないで欲しい。ヨータのことだ」
シヴァの堅い言葉に、私は途惑いを隠せなかった。




