STEP1 Frozen Flare 54
ザキは、ありとあらゆる暴言で愛美を罵倒しながらCDを片付けていく。しかし思った通り、積み上げかたが雑なので、アルバムは再び雪崩を起こしてしまった。
ザキが悪態を吐いてしゃがんで拾い集めるのを、愛美も手伝いながら、
「ナオって女の人なんでしょ?」と、聞いた。
ザキは何を勘違いしたものか、吐き捨てる。
「惚れるようなタイプじゃないぜ。もう二十五、ババァだよ」
好きなんじゃないかと勘繰った訳ではない。誰もそんなことは聞いちゃいない。
しかし二十五でババァ扱いとは、お姉さんと言え、お姉さんと。
お姉様方からお叱りを受けること間違いなしだ。
やはりザキが中高生の女子に人気があるのは、内面までを見抜けていないからだろう。道理の分かる大人の女が、ザキを相手にする訳がない。
それとも、子供っぽさが可愛く映るのだろうか。
「歌詞が、何となく優しい感じがして」
〈目を閉じる 目を開く それだけで違って見える 景色 君がくれた魔法〉
ザキは、馬鹿にするようにフンと鼻を鳴らしただけだ。
「ねえ、ザキさんの歌ってるやつどこですか。聞いたことないから、ちゃんと聞きたいなと思って」
愛美は、CDを今度は崩れないように積み直した。
ザキは、自分が普段使っていたのと様子を変えられて気を悪くしたような顔をしたが、文句があるなら初めからちゃんと片付けておけばいいのだ。
「そのへんにあるだろ、掃除してんのか汚してんのか分かんねー。もう触んな」
聞くなとは言われなかった。
愛美は、ザキが示した棚の辺りを物色し始める。
そのへんって、どのへんなのか。自分で分かるとか言っていなかったか?
ザキは愛美を放っておいて、テーブルの前に座るとパソコンの電源を入れる。もちろん、愛美が物を出し入れするのに口出しするのはやめなかった。
それこそ放っておいて欲しい。
Frozen Flareの文字の入った二枚のシングルは、棚の奥に挾まるようにして見つかった。
タイトルが、そのものズバリのデビューシングルは、黒地にCGで書かれた氷をイメージしたロゴタイトルだけが入っているシンプルなジャケットだ。
もう一枚の『Believe』の方は、ソファもテーブルも白で統一された、無機質な誰もいない部屋の写真が使ってあった。
コンポに入れてあったアルバム(洋楽のロック)を抜いて、ザキのデビューシングルをかけた。
ザキがキーボードを打つ音は、やんだりまた始まったりと不規則だ。
歌詞を作っているのだろう。




