STEP1 Frozen Flare 51
愛美は、顔に何かが当たっているのに気付いて目が覚める。目を開けると、額のすぐ側にある本の角が当たっていることが分かった。
(ここはどこだ?)
愛美は寝惚け顔で、上半身を起こした。
シーツの上の本や何かが重しになっていて、それ以上は動けない。
いつの間に、ベッドで寝ていたのだろう。
部屋につっ立って羽織った上着のジッパーを上げていたザキが、目覚めた愛美に気付いて言った。
「寝起きの顔最悪、百年の恋でも冷めるぜ」
そうか。
昨日は、そのままザキの部屋に泊まってしまったのか。
愛美は、転がっていた度無しの眼鏡をかけた。
服もそのまま、髪も括ったまま、確かに人には見せられない姿だろう。
化粧してないだけましだと思えない当たり、ザキもまだまだ子供だ。一夜明けて、化粧の落ちた顔が、最初と違うなんてよくあることだろう。
「今、何時?」
長門は、玄関で靴を履き終えていた。
「自分で時計見ろよ。八時前だよ、俺はこいつと出かけるから」
長門は扉を開けて出ていく。ザキもそれを追おうとしていた。
「え、仕事? あ、私は」
愛美の惚けた頭も、ようやくしっかりしてくる。
ガバッと起き上がると、布団の上に積んであった音楽雑誌が、ベッドの下に零れ落ちた。気を付けろと、すかさずザキに怒鳴りつけられる。
ザキは玄関で靴に足を突っ込み、屈んで紐を結び終えると、
「留守番。物は動かさないで、掃除だけしとけよ」
そう言って、出て行ってしまった。
愛美は、ザキの部屋にとり残されてしまう。
暫く愛美は、身体を起こしたままの形でじっとしていたが、ゆっくりと床に足を降ろした。
ベッドの脇の奥に続く扉を開けて、一体型のバストイレ洗面所で身支度を整える。
昨夜、開けないでよかったというものだった。
トイレを使い、洗面所の蛇口を捻って水で顔を洗って口を濯いだ。手櫛で髪を梳かし、いつものように高い位置にゴムで結い上げた。
一つにまとめるよりも、やはりこっちの方が気が引き締まる。身支度を済ますと言っても、着替えもないし、昨日は風呂にも入っていない。
勝手にシャワーを使う訳にも、いかないだろう。
愛美は、部屋へと戻って思わず溜め息を吐いた。
物は動かさずに掃除だけ?
(私は家政婦か)
しかし、これを片付けろと言われても、大仕事である。
コンビニで仕入れた朝食は、当然のようにザキと長門が平らげてあった。
2ドアの冷蔵庫に入っていた開栓済みペットボトルの水を、匂いを嗅いでから、流石に直に口を付ける気にはならなかったのでコップに注いで飲んだ。
これぐらいならバチは当たらないだろう。




